発達障害のモチベーション支援~報酬の4領域~
モチベーションとは「必要観」です。
人は「必要」だと感じるからこそ、「やりたい」と思います。
その「必要」とは、「楽しい・ためになる・気持ち良い」など、本人にとって「価値がある」と本能的に認識するもの。
人間の発達は価値があり必要だと感じるモチベーションから始まります。
今日はモチベーション支援について学んだことを紹介します。
この記事で分かること(目次)
一番初期のモチベーションとは?【乳児の関心】
赤ちゃんの主要なモチベーションは「人への興味関心」です。
この興味関心が芽生えることで愛着が形成され、「人は信頼できる!」という信念が育まれます。
信頼が築かれると「共感性」が発達し、親切や言語能力の成長に繋がります。
ADHDとモチベーションの関係は?【過剰な偏り】
ADHD(注意欠陥・多動性障害)は衝動性や過集中、報酬系回路の機能障害から成り立つ症状です。
興味関心が偏って突出している。
つまりモチベーションがありすぎるのです。
この特性がモチベーションの安定性に影響を与え、発達に偏りをもたらすことがあります。
例えば、赤ちゃんの時期においてもADHDの影響が見られます。
赤ちゃんは「首が座る・寝返り・うつぶせ・ずりばい・はいはい・つかまりだち・一人あるき」という順に運動をします。
しかし、ADHDの子供は周囲への興味関心が過多で、段階を十分に経験せずに次の段階に進んでしまうことがあります。
これが原因で姿勢や左右感覚のバランスが崩れることもあります。
ADHDは興味が特定にピンポイントに高すぎるため、他の勉強が不足したり友人関係が疎かになることもあります。
大人になっても同様で、仕事に過剰な興味を示す一方で家族を疎かにすることもあるのです。
モチベーションのバランスが重要なキーとなります。
ADHDの子供たちには、彼らの興味を尊重しつつ、他の経験も大切に促すサポートが必要です。
ASDとモチベーションの関係は?【感覚困難による欠乏】
ASD(自閉症スペクトラム障害)の成人たちにとって、関係性の課題が挙げられます。
その背後にある理由は、ASDが感覚過敏に満ちていることです。
触覚が過敏な場合、ハイハイを避けたり、スキンシップ遊びを回避したりすることがあります。
聴覚が敏感な場合、集団での遊びが減少します。
平衡感覚が影響を受けると、運動自体を避ける傾向が見られます。
これらの感覚の困難が積み重なり、彼らの関心が人や出来事から遠ざかってしまいます。
ASDは時間感覚の困難も抱えており、負の経験が記憶に残りやすい性質があります。これがトラウマに繋がり、過去の負の体験がフラッシュバックしやすくなります。
モチベーションが不安定になります。
また、感覚過敏で親への関心が低いと安全基地の形成が難しく、情緒発達に遅れが生じます。
他人への関心が低いと言語発達が滞り、コミュニケーション能力の遅れが生じます。
経験への関心が低いと模倣機会が減少し、基本的な日常動作が身につかないなど、様々な課題が彼らを取り囲んでいます。
このように様々な感覚が困難となり、本来必要とされることが彼らにとっては「不快」なのです。
感覚の繊細なバランスを理解し、適切なサポートを提供することが必要です。
発達障害へのモチベーション支援①【ヒトへの関心・愛着】
人間の発達において、言語発達や社会性の獲得は「人と話したい」「人と関わりたい」「人に喜んで欲しい」という欲求から生まれます。
発達障害の子供たちに対するサポートでは、以下の対応でヒトへの興味関心を増やすことが鍵です。
同じモノコトへの興味
ASDの子供たちは一人遊びが好きで、同じ遊びを横で行うことが多いです。
徐々に物を通して興味を移し、無理に関わらないよう心掛け、その子のペースで言葉を待つことが重要です。
彼らは情報交換を楽しむ傾向がありますので、興味のある情報に対してコミュニケーションを楽しむことで、人との交流をポジティブに感じるようになります。
同じ特性集団の関わり
異なる特性だと過剰適応が起こりやすいため、同じ特性を共有する場に所属することが役立ちます。
放課後デイやNPO団体、塾や習い事は目的が明確で、彼らにとって参加しやすい環境です。
抽象的な雑談よりも、目的をもった活動が彼らにとって理解しやすく、楽しい経験に繋がりやすいです。
発達障害へのモチベーション支援②【コトへの関心・追求】
コトへの興味関心は「体験」からスタートします。
そのためには体験量を確保する必要があります。
発達障害の子には、体験の量を無理に広げるのではなく、深めることが重要です。
一つの興味を深掘りすることで、興味は蟻地獄のように広がっていきます。
体験を増やすことはフラッシュバックをなくすのにも役立ちます。フラッシュバックは負の記憶を消すのではなく、「正の体験」を増やすことが大切です。
正の体験が増えると、負の割合が減り、結果としてフラッシュバックの回数が減っていきます。
ただし、発達障害には感覚困難や偏りがあるため、体験量を増やすことが難しい場合があります。
そこで「報酬の設定」が必要です。
報酬はご褒美やトークンエコノミー(ポイント制)などを指します。
報酬に対して懐疑的な意見もありますが、報酬がないと活動へのモチベーションが低下することは大人でも一般的です。
報酬を通じて得られる学習は、将来的な生活スキルの向上や、就労を継続する動機にもつながります。
報酬には「モノ・コト」と「個人・集団(友達)」の二つの側面があります。
支援の鍵となる報酬とは?【報酬の4領域】
報酬は「モノ」と「コト」、「個」と「集」、のくくりで大きく4つにグループ分けすることができます。
A. 「個」への「モノ」報酬:
例.ゲーム:
ゲームが好きな子は、ゲームを報酬にすることが有効です。
ただし、ゲームに過度に夢中になることで利他行動の発達に影響が出る可能性があるため、事前に約束や調整が重要です。例.お金:
お金はモノへの交換の手段であり、モチベーションの源となりやすいです。
金融教育としてお小遣いを利用し、発達段階に応じて日給制、週給制、月給制に移行させます。
活動に対して得られる報酬を通して、就労を継続する動機を育むことが重要です。また、お小遣い帳をつけることで自立スキルを養います。例.トークンエコノミー:
ポイントをためて楽しいことやモノと交換する仕組みを作ります。
ただし、罰として使わないようにし、子供が損をすることは避けるべきです。
期間限定で行うことで飽きずに続けることができます。
子供が交渉してきた場合は、活動量を増やした上で調整し、主導権は子供に委ねないようにします。
B. 「個」への「コト」報酬:
例.褒める
「褒められる」というのも精神的報酬です。
多動な子供に対しては、注意を払うのではなく、できていることを褒めることが効果的です。
褒めることで注目が集まり、自然とポジティブな行動が増えることがあります。例.交渉
ASDの子供は相手と自分を対等だと考えがちです。
「君のために~を用意したよ。~してあげたよ。」など大人が条件を整えてギブをすることで、子供は心を許しやすくなります。
C. 「集」への「モノ」報酬:
例.全体への褒美
集団での約束を設定し、皆で協力して達成することでクラスポイントを獲得します。
例えば、「チャイムがなる前に皆で座ることができたらクラスポイントゲット」などの約束を設けます。
友人同士で声かけ合い、刺激が増すような環境を整えましょう。
ADHDの子供たちはこうした瞬間において、謎のリーダーシップを発揮することがあります。
D. 「集」への「コト」報酬:
例.共同活動
「友情」が報酬になります。
例えば、友達が好きで勉強が苦手な子供には、「友達と一緒」に勉強する場を設定します。
周りの子のモチベーション高いと引き寄せられます。
周りのモチベーションを利用しましよう。
男女で仲がよいと男子だけで固まるよりもモチベーションは二倍になります。
周りの子供たちのモチベーションを利用し、共同で活動することで効果的な支援が期待できます。例.集団を褒める
クラス全体を褒めることで所属感や肯定感が増します。
連帯感が強まり、より意欲が高まります。
「君たちは~な素晴らしい人たちだね!」など集団全体を肯定的に評価する言葉やラベリングを積極的に行いましょう。例.利他行動のメリット
複数の人からの感謝が報酬になります。
「人が褒めるのは自分が褒めて欲しいからだよ。お互いに言葉で幸せになれるんだよ!」と述べ、親切な行動が自分にも返ってくることを教えます。
親切のメリットや感謝の大切さについて理解を深め、感謝がモチベーションになることを理解させます。
ADHDが他者のお世話をやりたがるのは感謝報酬が欲しいからであり、彼らにとって感謝がモチベーションになります。
【まとめ】
以上、モチベーションについて学んだ支援を整理しました。
モチベーションの支援に先立ち、事前の「約束」や「やりかた」の説明など、特質に合わせた環境調整が不可欠です。
特質を理解し、環境を調整することでマイナス要因を最小限に抑え、モチベーションを効果的に活用するための土台を築きましょう。
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