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のほほん双六 #074 おはなし ブゥ家の三兄弟 10

第10話「部屋」

びゅうびゅう

風の音で目が覚めた。
空気が少し濃くなっている気がする。
怖くて目をつぶっていたら、いつの間にかウトウト眠っちゃってたや。
妖精たちの話し声が風の中からかすかに聞こえてきた。

『みんなと別行動なんて初めてだよね。』
『ずっと一緒でうんざりした事もあったけど、離れ離れになってみるとなんだか寂しいよ。』

「……」
僕たち兄弟もいつも一緒だったな。いつかは、僕たちがあと少し成長したらだけど別々で暮らす日が…って、命が危ういって時に未来のことに思いを馳せるだなんて!ああ、気分が悪くなってきた。

ブゥブブ、ブッブブブはどうしているだろう。無事、無事でいるよね?

『見て!泉よ。着いたんだわ。』
【災い】が旋回しながら泉のあるほうへ降りていく。
「泉?どこ?暗くてちっとも見えないよ。」
『あれ?でもここって見覚えがー。』

【災い】が不気味な声を発して鳴き始めた。
その瞬間ー

ドサッドサドサッ
さっきまで暗闇の中を【災い】に連れられて飛んでいたのに、急にどこか別の場所へたどり着いた。

「イテテ…。」
起き上がってまわりを見渡すと、どこかの部屋の中に僕らは放り込まれていた。
ランプの温かみのある灯りがまわりを照らし、壁一面の本棚にたくさんの本があるのが見えた。紙の匂いと新緑の香りがして心地がいい。

『木だ‼︎木の幹の中だよ。』
妖精が部屋の壁を叩いている。
よおく目を凝らすと確かに木目のようなものが見えた。

「はーい、こっち、こっちー。」
陽気な声が下の方から聞こえてきた。
声がした方を見ると穴の中から手が出ていて、ひらひら手招きをしている。

どうしてよいものか戸惑っていると、
「しょうがないねぇ。」
しっぽをゆらゆら、1匹のたぬきがよっこいせと穴の中から出てきた。手に持っているランプを自分の方に寄せ、
「ワシ、“ポンきゅう”いいます。縁あって【災い】の身の回りの世話をしてます。」
ポン九がぺこりと僕らに頭を下げる。

【災い】の世話をしている?
おっとりと穏やかに話すこのたぬきが?

「お疲れでしょう、下に寝床があるのでご案内します。」
穴をのぞきこむと階段があり、たぬきのポン九が手招きしながら降りていく。
「こんどの満月までこちらでお過ごしするようにと申しつけられてますので。」

こんどの満月…。
うわわっ、嫌な予感が頭の中を駆け巡る。このままだと満月の日に僕は…。

「!」足元がぐらついた。暗いし、考え事をしていたから階段を踏み外してしまった。先に階段を降りていたポン九を突き飛ばし、一緒になって階段から転げ落ちた。

「きゅうぅ…。」
「ごめんよ、ポン九。怪我はない?」
ランプの灯りが揺れ、その先に何かが見えた。
寝床に誰かいる。転げ落ちた音で起こしちゃったみたい。

「あなたは誰?」
声がしたほうを見て全身に戦慄が走る。
声の主は輝く白銀の毛をまとった小さな、小さなオオカミの子供だった。ーつづくー

イラスト(挿絵)

こちらですよ〜

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