見出し画像

コールセンター物語 悠太の憂鬱

シフトが渡された。
俺の働いているコールセンターのシフト表だ。
今まで月単位でもらっていたシフトが今は週単位だ。
月単位でシフトを作成しても、当日になって急に休むと言ってきたり、
辞めるとか言ってきたりするので、怖くて月単位ではシフトは作れない、というのがSV(スーパーバイザー)の考えらしい。
俺は万年人手不足と言われているコールセンターで働き始めて三年ちょっとになる。他のアルバイトも掛け持ちしているが、メインはこのコールセンターで今はシニアオペレーターをしている。要するにバイトリーダーだな。

コールセンターでの俺の業務は通販の受注窓口だ。よく「今から30分間、オペレーターを増員してお待ちしております」というCMを見かけるだろう。俺はそのオペレーターだ。オペレーターって女性のイメージだけど、俺みたいな男もたくさん働いている。
で、その「今から30分間、オペレーターを増員してお待ちしております」が流れると入電数(電話のなる数)が異様に増える。中でも入電が多いのはパーソナリティが大人気のラジオ番組内で、そのパーソナリティが商品を勧めたときだ。もうすごい。客は商品名よりもパーソナリティの名前を言う。元TBC放送のアナウンサー近藤智雄氏、通称コンちゃんの冠番組「平成ラジオの元気ですかコンちゃんですよ」あたりで、コンちゃんが「もうこのクリームさ〜うちの奥さんが大絶賛なんですよ!」なんて言っちゃったりすると、もうすごい勢いで電話が鳴る。番組内の短尺のCMで台本もあるのに、客は「コンちゃんがそう言うなら!」と電話をかけてくる。恐るべしコンちゃんだ。

しかし最初に言ったように、俺の務めるコールセンターも御多分に洩れず人手不足だ。そんなにかかってきたところで注文をその場で受け付けるほどの人数は揃っていない。通販というのはかかってきたらセールストークでさらに別の製品を買ってもらったり(クロスセル)、定期注文への引き上げ(アップセル)をしなくてはいけない。多くの電話を捌くだけで精一杯なのだ。しかし上層部は言う。

かかってきた電話は絶対に出ろ!



いや、今日だって3人しかいないんすよ、どうしたらいいんすか。
しかしそんな言葉を誰が聞いてくれるというのだ。
上の奴らは電話を落とすな、必ず受電しろ、とうるさい。

だったらお前も取りやがれ!

と思うが、言わない。大人だから。
でもって上が言ってくるのは、

出るだけでて注文は後から受けろ。
受注はオペレーターがやって、

受付は総務も経理もやれ!

だった。自分は出ないくせに。合戦かよ。

総務も経理も気の毒だよ。だってさ、あの人たちだって本来の業務あるじゃん?でもとにかくかかってきた電話には全部でろってことで、外線電話も常に出られるようにセットされちゃってる。集計をしている営業事務の人は何度も間違えてしまい、なかなか進まないとこぼしているし、研修担当の人はオペレーターのモニタリングが全く進まない、と腹を立てていた。そりゃそうだろう。二足草鞋は無理だっつーの。

CMが終わって5分もすると電話はもう鳴らない。やれやれと一息をつきたいところだが、この約10分程度で受けた電話を今度は架電(電話をかけること)をしなくてはいけない。山のような伝票を前にゲンナリする。これを3人で捌くのか。ゲンナリする。

外線がかかってきた。イヤな予感がする。ほら当たった。
遅番の男子が当欠(当日欠勤)だってさ。どうすんだよ〜
遅番は大体昼の12時に出勤して21時までだ。さっきから俺が「今日は3人」って言っているのは、日中の時間帯のことだから、遅番も入っての3人なんだよね。遅番が来るまで2人かよ!上の奴ら、電話に出ろ出ろ言ってないで、オペレーターの管理しっかりしろよー!頼むよ〜。

さっきのコンちゃんの伝票で「今日中」とか「なるべく早く」とか書いてあるから上手く振り分けて、遅い時間でも大丈夫そうなものは遅番に任せよう。全くバイトリーダーって言っても、そのバイト2人だけじゃんかよ。

あ、SVがなんか言ってる。なに?また大型CM入ったって?
今度はラジオじゃなくてテレビCMだ。しかも地上波で韓国ドラマの前か。
このパターンは入電が多い。でもオペレーター2人だし。
ああ、またSVたちが騒いじゃってる。人いないんだからさ、騒いだって物理的に無理でしょ。人がいないときにどうするか、そのシステム考えてよ、上の人。なにがなんでも落としませんって。物量作戦しか知らないのか。
と言ってもコールセンターの場合の物量はオペレーターなんだけどね。
あ、CM終わりそうだ。

「今から30分間、オペレーターを増員してお待ちしております!」


いや、こっちのセリフだよ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?