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足音聞き分けの術

コツコツコツ
すっすっすっ
パタパタペタ
ことんことんことん
ごと ごと ごと

擦って歩く人、早足の人、大股で歩いてゆっくりの人。

家族も同僚もだいたい足音で誰なのかがわかる。

子どもの頃は母が帰ってくるのが待ち遠しくてバスの音が聞こえたら耳をよくすましていた。
しばらくするとコツコツコツという早足の音が聞こえてきた。
もうわかっているのにインターホンがなるまで待っていた。

父は重い靴でごとりごとりとゆっくりのテンポ。
申し訳ないが、あんまり待っていた記憶はない。

夫は音がしない。
集合住宅の階段を静かに上り下りをする。
不思議。
さっぱりわからない。

もちろん娘も息子も足音でわかった。
娘はタッタッタッタッ、息子はダッダッダッダッ。
娘は部活帰りの最後の力を振り絞って登ってくるのか、最後の数段になると早足だった。

子どもたちの足音は待ち遠しかった。
「お、帰ってきた帰ってきた」
と思って玄関まで行ってあまり待たせることなくドアを開けていた。

子どもたちが就職して家を離れてからのある休みの日だった。
朝8時ごろに、ダッダッダッダッと下から登ってくる音がした。
え?息子と同じ足音だ。
まっさかねえ。なんて思いながら洗濯物を干す準備をしていたら、ピンポーン。

返事をすると
「うぃーっす」
息子だった。

「どうしたん?」
「あれ?帰るって言ってなかったっけ。」
「聞いてへんし。ま、ええけど。おかえり。」

恐るべし母の足音聞き分け術。ふっふっふ。

なんのとくにも自慢にもならない術。

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