見出し画像

鈍感と安楽

鈍感にいることって、苦しみから解放される方法の一つなのかもしれない・・なって思ったことがあったので記しておく。

作業療法士として働く中で、寝たきりの生活を送っている方の関節拘縮を防ぐリハビリを行う場面がある。
関節拘縮と言うのは、肩とか股関節とか身体の関節を動かさないでいると筋肉が縮んでしまって動かなくなってしまうこと。
だからリハビリで肩を回したり、足首を動かしたりしないと関節はどんどん硬くなっていってしまう。
ドラマなんかで寝たきりの人は真っ直ぐ上向に寝かされているけれど
実際の現場ではそんな場面は皆無に等しい。
褥瘡と呼ばれる皮膚の壊死を防ぐために左右どちらかに向いていることが多い。自分の意思とは関係なく、だ。

想像してみてほしいのだけど。
ふっかふかの雲のような布団の上で寝てくださいと言われたら・・
平均台の上で寝てくださいと言われたらどんな体勢を取るだろうか。
寝ている時に勝手に横向きにされたらどんな反応をするだろうか。
多分だけど多くの人が肩を丸めて、膝を曲げてバランスを取ったり、怖いと感じるんじゃないかなと思う。体には力が入って、眠るどころの騒ぎじゃないのでは…。
そんなことが寝たきりの人の体では起きているわけです。
寝たきりの人の多くは自分の意思ではバランスが取れないから無意識のバランス能力が自分にいいと思うところを探して身体はどんどん縮こまってく。これが拘縮の始まりです。もちろん一概には言えないのだけど。
だんだんと肘が異常に曲がって手は常に胸の上、肩は上がらなくなり、膝は伸びなくなる、顎は上を向いて口は開きっぱなし。
ちょっと怖い話だけどこれは現実に起きていることだし、誰にでも起こりうる身近なことである。
(そうならないようにするのが理想だけど、今は置いておきます。)

しかし今日、久しぶりに介入した方を通して気がついた。
拘縮がゼロではないけど、その方は手も足も関節が良く動く。
もちろんその方にはベッド環境があっていたという事もあるのだろうけど
その人自身の感覚が人より鈍感だったこともあったりして、と。
どんな寝具でも眠られるよ〜って人は、敏感な人に比べて「怖い」という感覚にならず、身体に力を入れる必要がないのでは、と思った。

拘縮ができると、オムツの介助や着替えの介助の度に動かない関節を捻じ曲げられて痛い思いをするけど、
拘縮がないとそういう苦しみとは無縁だったりする。
そういう意味では鈍感であることって自分が楽にいられる一つの方法なのかもしれない。

自分の日常生活を振り返ってみても、確かにそうだったかもと思う場面が多々あった。
自分の鈍感である部分をネガティブに捉えがちだったけど、
利用者さんを通して鈍感の方がいいこともあるということを学ばせてもらった。本当にありがとうの気持ち。

人は死に向かって歩いている。
それは誰しもが避けたくなる現実。
でもそれと向き合うことこそが今を生きるということだと私は思っている。

作業療法はいつもそれを教えてくれる。
嫌い嫌いと言いつつも切っても切れない腐れ縁。それが作業療法。

そうやって今日も明日も、自分と自分と関わる人の「一生」を考える。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?