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ばあちゃんとわたしへのセレナーデ

女の子のお母さんの実家は、地方の海が近い田舎町
ちょっと行けば海の波の音、ちょっと行けば商店街のにぎやかな声が聞こえる、女の子にとってはお気に入りの場所

夏休みは1歳上のいとことお泊りが恒例行事
毎日お小遣いをもらっては本屋さんや駄菓子屋さんでお買い物
近所のお肉屋さんのコロッケは大好きな味
2人だけで浜辺に行っちゃダメって言われていたのに、テトラポットを乗り越えて貝殻拾いをしたことは絶対秘密

家にいてもそんな楽しいことなんてない
お茶碗の持ち方、お箸の持ち方、口への運び方、食べ方…テストみたいに監視されて美味しくない
だからお父さんなんていない方がいいんだけど
酔っぱらって夜中に帰ってきたお父さんがお母さんに大声で怒鳴ってる
いつになったら終わるんだろう

ばあちゃんは全然怒らない、優しい人
なのに、お父さんに怖い顔して何か話していたのを見た時はびっくりしたな
ねえお母さん、もううちに戻るのはやめよう
わたしはずっとこの場所がいいよ

夕暮れ前の散歩道
浜風がちょっと冷たいけど、波の音が優しく迎えてくれる

ばあちゃんの手はやわらかくてあったかい
「ばーちゃん、わたし、ここにお嫁さんに来て住みたい。だから素敵な人見つけてきて!」
「えぇ?そう?・・・ふふふ・・・誰かいい人おるかねぇ」
見上げたばあちゃんの横顔は海の向こうを見て笑っていた


ふふふ・・・楽しみにしていてね

ばあちゃんが知っている『向かいのあんちゃん』と結婚するってびっくりするよ
ばあちゃんが歩いていける距離に住むよ
今度はひ孫と散歩するんだよ
会うたびに飴ばっかり買ってあげて、注意しても聞かないんだよ
運動会や学習発表会にも毎年参加するんだよ

お母さんのお墓が近いね
慣れている場所で、顔見知りの人も周りにいて、ちょっと安心するね

でも、思い出すこともあって、いろんなしがらみに囚われていくんだよ
まだ想像もしない、哀しい出来事もあるんだよ

でも大丈夫
お母さんになって楽しいことや嬉しいこと、感動することもたくさん待ってるよ
子どもたちが違う世界を見せてくれるよ
そのうち、もっと広い世界があることを知るよ
いろんなことを経験して、あなたは強くなるよ

だから大丈夫
もっと自由に生きてもいいよ
静かに、綿密に、周りをよく見て、考えて、その時が来るのを待って
自分の人生を生きようね
そのタイミングは必ず来るからね











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