肝蛭症の症例


症例: 高齢男性 好酸球増多の評価を目的として紹介となった.

病歴: 近医にて定期的に通院している患者. 定期血液検査にて, 白血球 12000, 好酸球 50%と好酸球増多を認めたために紹介となった.
■ 本人の自覚症状は特に認めず, 発熱や寝汗, 消化管症状なども認めなかった.
■ また, 血液検査ではCRPの0.5-1.0mg/dL程度の軽度の炎症反応亢進を認めたが, AST, ALT, LDH, GGT, ALPなど肝胆道系酵素上昇や他の一般血液検査の異常は認められなかった.

■ 好酸球増多の精査にて血液内科にて骨髄検査, 自己抗体検査が行われたが, 特に異常は認められなかった. 骨髄増殖性HESに関連する染色体異常も検出されなかった.
■ 胸腹部CTを評価すると, 図のような所見が得られた.
・単純CT検査では肝臓内に低吸収の病変を認め, 造影CTではより顕在化. 複数の低吸収域の結節が認められた.
・悪性腫瘍の可能性も考慮され, PET/CTも評価されたが, 同部位への集積が認められたのみであった.
・組織検査も行われたが, 非特異的な炎症のみであり, 診断には結び付かなかった.

画像の例(Korean J Gastroenterol Vol. 77 No. 1, 39-44)

その後のお話

原因不明の好酸球増多+肝臓内腫瘤として狩猟内科へのコンサルトとなった.

■ 好酸球増多+皮膚, 消化管, 肝臓, 呼吸器, 髄膜炎の単一臓器の炎症の場合は寄生虫は要注意である, との狩猟内科に伝わる家訓により, 寄生虫を評価した.

Infect Dis Clin N Am 26 (2012) 781–789

■ SRLの寄生虫スクリーニングでは, 矢状虫, 回虫系, 肝蛭が弱陽性となり, その後詳細な抗体検査にて最終的に肝蛭症の診断となった.


肝蛭症

■ 肝蛭症はFasciola hepaticaによる感染症
・Fasciola hepaticaの成虫はウシやヒツジの胆管に寄生するが, ヒトにも偶然感染することがある.
■ 成虫保有動物の糞便中に虫卵が排泄
 → 水中で発育してミラシジウムとなり, 孵化後にヒメモノアラガイという小型の淡水性のに進入

 → 貝内でメタセルカリアとなり, 動物へ経口感染する.

 → 動物内で小腸で幼虫となり, 小腸壁を貫いて腹腔へ. その後肝臓, 肝内胆管に至り, 成虫となる.
■ ヒトは家畜の小腸や肝臓を摂取することや, 汚染された野草を摂取することで感染する. 有名なのは川に生える野生のクレソンなど.
(モダンメディア 2012;58(12):351-358)

■ 日本ではシカにおいて高い寄生率が報告されている
・北海道日高地方のエゾシカの排泄物より
肝蛭を調査した報告では, 陽性率は9.5%
 (北海道獣医師会雑誌 (0018-3385)58巻2号 Page44-47(2014.02))
奈良公園のシカ 40頭の糞便検査では, 87.5%で陽性
 (奈良教育大学自然環境教育センター紀要 2011;12:1-8)

■ 肝蛭症の症状は右季肋部痛, 発熱, 黄疸を認める
・好酸球増多を認める症例は多く, 好酸球増多+肝疾患では肝蛭は重要な鑑別の一つなる.

■ 診断は画像検査と糞便中の虫卵の確認.
・SRLの寄生虫スクリーニング → 宮崎大学での検査の2段階検査は重要.

肝蛭症の画像所見:(Diagn Interv Radiol 2009; 15:247–251)

□ 腹部エコーでは, 多発性の低エコー性結節が認められる
 他には管内胆管の拡張所見や肝実質内エコーの不整などが少数.
□ CT検査では, 多発性の低吸収性結節を認める.
 結節以外には低吸収の線状/分岐状の病変を認める.
 一部で高吸収性病変の報告もあり(低吸収性結節と混在する).
□ MRIでは軽度のT2高信号が認められる

Diagn Interv Radiol 2009; 15:247–251
(Korean J Gastroenterol Vol. 77 No. 1, 39-44)

■ 治療はプラジカンテルやトリクラベンダゾール. 
・プラジカンテルは耐性が多いため, トリクラベンダゾールが推奨される.


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