自分が毒キノコを食した経過をお伝えするよ
医療者として貴重な体験をしたので, ここで皆に共有しようと思う.
(ちょっとだけぼかしています)
患者: 40歳台の元来健康な男性. 突如発症の繰り返す嘔吐症.
初日の経過: 18時〜26時
特に既往なし. 趣味で狩猟をしており, ジビエ系はよく食べる方. 最近は生食はしていない.
11月某日, 狩猟が解禁となり, 仲間と共に山に入った. その時に見つけた "ヒラタケ"を採取し, 自宅にてバター焼きにし, 同日18時に2切れ摂取した.
食べた時の感覚は, ”ちょっと苦味があるけど癖もなく, 美味しい部類” であった.
19時ごろ, 突如発症の嘔気を自覚. 庭で2回嘔吐. それを皮切りに嘔吐が止まらず, 夕食で摂取したものを全て嘔吐した.
その後も10分に1回程度の嘔吐を繰り返し, 手足の痺れ, 複数回の嘔吐による咽頭痛, 腹痛が出現した.
この時点でキノコ中毒を疑い, ”ツキヨタケ” ぽいと判断. 採取したキノコを調べると, 一部に柄部分に黒い染みを認め確信した.
水分摂取を試みるも, 飲んだそばから嘔吐する状態が持続したが, 多分数時間の我慢と思い頑張った.
吐物に胃酸が混じっている様子がなく, ほぼ食べたものがでてきていた. キノコ毒には胃酸抑制作用があるかも. と疑う.
途中胆汁嘔吐になり, ちょっと焦る.
アルカローシスと電解質異常によると思われる筋の腓返り, 手の震えなどが認められ始めたが, 想定内だったのでそこまで焦らなかった.
24時ごろまで10数分ごとに嘔吐していたが, それ以後は若干安定.
最後に26時に嘔吐し, その後は眠ることができた.
第2病日
翌日5:30起床. 口腔内の乾燥が著明, 筋疲労が高度に認められ,
冷蔵庫にあったフルーツジュースと, 食塩数gを一気に飲み干す.
ポカリスエット, インスタント味噌汁を2-3杯飲み, なんとか仕事をこなす.
食欲は徐々に出てきたものの, 喉の痛み(頻回嘔吐による喉周りの筋肉痛)と腹痛, 腹部不快感(おそらく腸管浮腫であろうと思われる)が残存した.
第3病日〜第5病日
咽頭痛(筋肉痛様)は残存したが, フルーツは取れるようになった.
腹部不快感は軽快しつつあったが, その後水様便が出現し始めた.
おそらくは腸管浮腫の改善に伴って下痢になったのかもしれない.
渋り腹は認めず, 水様であるが, 肛門部での刺激感は認められた(辛いものを食べた後みたいな感じ)
この肛門部での刺激感を伴う下痢, 軽度の腹痛が第4病日の持続し, その後軽快.
第5病日には固形便となったが, 上腹部の不快感は持続した.
キノコ毒について
■ キノコ毒は自然毒の中毒症で最も多い原因である.
■ 平成元年〜22年の報告例では,(食衛誌 2012;53(2):105-120)
□ 最も多いのはツキヨタケで393件, 1719例.
次いで多いものはクサウラベニタケで258件, 1041例である.
□ 他, 発生件数が2桁を超えているのは
イッポンシメジ 19件, 69例
オオシロカラカサタケ 14件, 27例
カキシメジ 86件, 347例
テングタケ 39件, 60例
ドクササコ 50件, 109例
ドクツルタケ 16件, 52例
ドクヤマドリタケ 20件, 72例
ニガクリタケ 10件, 19例
ヒカゲシビレタケ 20件, 60例
であるため, このツキヨタケとクサウラベニタケがいかに多いかわかる(あとはカキシメジとドクササコを押さえておくと良いかも)
■ キノコ中毒による死亡例でみると, ドクツルタケ, シロタマゴテングタケ, ニセクロハツ, カエンタケ, ツキヨタケ, タマゴタケモドキなどで報告がある.
□ ドクツルタケ, シロタマゴテングタケ, タマゴタケモドキ, タマゴテングタケの毒成分はアマニタトキシンであり, 死亡例の大部分はアマニタトキシンが関連している. Amatoxinはアマニチンなどを含有した毒素の総称
(ツキヨタケでも死亡例はあるのだなぁ.)
ツキヨタケの中毒症状
■ 摂取後30分〜3時間(平均1時間30分)で嘔吐が出現する. 基本的に嘔吐が主.
腹痛は軽度であり, 摂取後時間が経過して下痢となる.
下痢はさほど高度ではない.
数日あけて腸管浮腫が生じる症例報告もある.
■ ツキヨタケの形態的特徴
□ 木の幹に生える. 匂いはあまりない. カサは茶褐色〜橙. 一番の見分けポイントは柄の根本付近に黒色のシミがある点. また, ヒダは紫外線照射にて黄緑色〜青白色に発光する.
□ 間違えられるキノコ: ムキタケ, ヒラタケ, シイタケ
□ 味(個人的な乾燥): 最初に若干の苦味があり, その後は特にクセのない味. 苦味の時点で飲み込まなければよかった・・・
クサウラベニタケの中毒症状
■ 中毒症状: 潜伏期間20分〜5時間(平均2時間10分). 下痢が主な症状であり, 嘔吐や腹痛は少ない
■ クサウラベニタケの形態的特徴
□ 粉っぽい匂い. カサは淡い灰褐色で表面はロウ様の光沢. ヒダは淡いピンク. 柄は中空で脆い.
□ 間違えられるキノコ: ウラベニホテイシメジ, ハタケシメジ, ホンシメジ
カキシメジの中毒症状
■ 中毒症状: 摂取直後〜5時間30分(平均1時間15分). 嘔吐, 下痢が主症状. 複数は少ない
■ カキシメジの形態的特徴
□ ぬかの不快臭. カサは茶褐色で弱い粘性. ヒダは白色で傷をつけると褐色に変化
□ 間違えられるキノコ: チャナメツムタケ, クリフウセンタケ, マツタケモドキ
28018例のキノコ中毒症例より 摂取〜発症までの時間と症状から中毒症状パターンを分類
(Crit Care Med 2005; 33:427–436)
■ 全部で14パターンあることが判明
早期発症(<6h)で8タイプ
晩期発症(6-24h)で3タイプ
遅発(≥1d)で3タイプ
■ 早期発症タイプ(<6h): 摂取後すぐに消化管症状や神経症状
■ 晩期発症タイプ(6h-24h)
■ 遅発発症タイプ(≥1d)
毒きのこデータベース(https://toadstool.jimdo.com)では, 症状と発症時間からA-Eの5つに大別し, さらに毒成分を考慮して8グループに分類する方法を提唱
これらに加えて, ホコリタケにほる過敏性肺臓炎, ヒダハタケによる溶血性貧血 フウセンタケによる間質性腎炎など別個に覚えておくと良いかも.
2005-2015年に台湾の中毒センターに報告された中毒症例
(Hong Kong Med J 2016;22:124–30)
■ 67例報告され, 60例(90%)は消化管症状, 嘔吐, 下痢, 腹痛
□ このうち53例は摂取後6時間未満の早期発症で, 対症療法で改善
□ 7例は6時間以降での晩期発症タイプで, 重症の経過をたどった.
重症経過ではAmatoxinが関連.
頻度の高いキノコ中毒としては, 摂取後早期に生じる消化管症状のタイプが多く,
致命的なキノコ中毒は, 摂取後晩期に生じるアマトキシン関連の障害が主となる.
早期中毒で頻度が高いものはツキヨタケ, クサウラベニタケ, カキシメジが3大原因であり,
・ツキヨタケは嘔吐メイン
・クサウラベニタケは下痢メイン
・カキシメジは両方 という覚え方は簡単すぎるけどよいかも.
これで国試もバッチリ(出ない)
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