チャンスは一度


  • [私の体験談・教訓]: 今は昔、私は24才で、かけだしのSEだった。
    昭和55年、ある土曜日の真昼頃、私は大阪駅から 兵庫県奥深くに住む高校教師の親友をたずねようと 当時の国鉄にのり、向かい合わせの4人席に一人座っていた。
    そこに一人の女の子が乗ってきた。 やや小柄ながらポッチャリ系で顔やスタイルは私好みのタイプで、 愛嬌のある若くてかわいい子だった。 (22才くらいに見えました。) どこに座ろうかと、あたりをキョロキョロ見回した後、 何を思ったのか、私の前にやってきてたずねた。 「あのう、ここ空いてますか。」
    ほかにも席はほとんど空いており、 私には、自分が女性から一目ぼれされるほど”男前”ではない という自覚があったので、物好きな子だなと思ったが、 「ええ、空いてますよ、どうぞ。」と答えた。
    私はそれまで24年間、女性とはまったく無縁で、人見知りするタイプの”情けない男”だっ た。
    彼女いないどころか、デートしたこともなかった。 だから、しばらくは2人共だまっていた。 すると女の子が、カバンの中から大きな紙の束を取り出して、読み始めた。 それはCOBOL(開発言語の名称)コンパイルリストであった。どうやら女の子はプログラマ

    らしい。
    そこで、私は、ちょっとからかってやろうと思いついた。 「なんですか、それは?英語の勉強?」 すると女の子は、「待ってました。」といわんばかりに”ニコッ”と”会心の笑み”を浮かべて 、
    私の顔を右手で指さして、こう言った。 「コンパイルリストですよ。そんなことはよくご存知でしょ。CSKの野田さんなら。」
    初対面の私は、そう言われてギョッとして、椅子から転げ落ちそうになった。 「どうして、それを?」と聞こうとしたら、その子が右手をそのまま網棚の上を指さした 。
    そこには、私が入社時に会社からもらった、真っ赤なバッグが置いてあり、 白マジックで大きく「CSK 野田」と描いてあった。
    その女の子は、私の”素性”を知って、逆に私をからかったのである。 そのとき二人いっしょに笑って、仕事のことなど会話がはずんだ。 それから1時間、二人は意気投合して、とても楽しくおしゃべりをした。 楽しい時間が過ぎるのは、はやい、あっという間である。もうすぐ私が先に降りる駅へと 近づいてきた。
    次第に私は胸がドキドキするような生まれて初めての”トキメキ”を感じた。
    もし、あれが今であれば携帯のメルアドを交換しただろう。
    もう一人の私が、意気地なしの方の私に、
    「早く連絡先を聞け、それか次に会う約束をしろ」と叫んだが、
    結局何も聞けなかった。「君の名は」ということすらできず・・・
    駅に降りた私は、「どうもありがとう、さよなら」というと、
    彼女も、「さよなら」と言って、さらに何か言いたげであったが、
    お互いに手を振りながら別れてしまった。
    その後、二度とその子と会うことはなかった。
    もし私に少しでも勇気があれば、人生を変えた瞬間になったような気がする。
    以上が、その後10年独身を続け、見合い結婚するしかなかった理由のすべてである。
    若いみなさんは、こんなチャンスを絶対のがさないでいただきたい。
    チャンスはたった一度しかないかもしれませんぞ・・・

    +++++++++++

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?