No.11 脆い支柱②
このお話はNo.10の続きです。自殺未遂の話があります。気をつけて読んでください。
みーちゃんと呼ぶことに抵抗ある人が数人いて、深鳥(みどり)という名前を貰いました。莉々が心を病んだ時には、ボクかヴィヴィさんがたくさん話しかけて気を紛らわせていました。
高校に入ってすぐに、ヴィヴィさんの暴走によって部活の先輩と揉め、夏休みが終わる頃に中退しました。その時が莉々が一番辛そうにしていました。ヴィヴィさんも反省して、あまり喋らなくなりました。ボクがずっと話しかけていました。
「大丈夫」
その言葉を言う度に、莉々は安心していました。中退してすぐにバイトを始め、緊張している莉々に話しかけます。
「大丈夫。莉々ならできるよ」
その言葉通り、莉々はバイトで次々成果をあげていきました。ボクらが追いつくのが大変なくらいでした。大変だったけど、莉々が再び前を向けたことが嬉しかったです。
もう一度学校に通い直すという話があがりました。ボクは不安でした。莉々も不安そうでした。通い始めてもずっと緊張していました。ボクはひたすら声をかけていました。
「大丈夫」
この言葉はボクにも安心感を与えていました。大丈夫。莉々とボクならきっとやっていける。
実はこの時、ボクはすごくしんどかったです。
内界に行けるようになってから、ボクは1人じゃないことを知りました。それがとても嬉しくて、色んな人格と仲良くなりました。でもこの頃、人格の増減が激しかったのです。
せっかく仲良くなってもいなくなってしまう。置いていかれる恐怖心がボクの中に積もっていきます。でも莉々のために頑張らなくちゃいけないと思っていました。ボクの役目がそれだったからです。
莉々も日に日に調子を崩していきました。
「大丈夫」
ボクの声も届かなくなっていきました。
「大丈夫」
本心は何も言えずにいました。
「大丈夫」
ボクも莉々も、大丈夫じゃないところまできていました。莉々が大丈夫なのはボクが声をかけているから。ボクはいつの間にか「大丈夫」しか言えなくなってしまいました。莉々に声をかけているつもりが、自分に言い聞かせるようになったからです。
バイトに学校に家事。ストレスは溜まる一方でした。莉々は気づいていなかったけど、ボクはそのストレスに気づいていました。人格がどんどん増えていっていたからです。
そんなある日、家にいた莉々をボクは中から見ていました。
「なんのために頑張ってるの?」
誰かがそう言いました。どこから発せられた声なのかはわかりません。でも莉々には聞こえたようでした。
「いい子を演じて疲れ果てても、何かあるわけでもない。最後はみーんな、死ぬんだよ」
その言葉に全員が戦慄しました。「死」というのは禁句だからです。莉々は周りが死ぬことに人一倍敏感です。誰かが亡くなったニュースを見る度に心を痛めるほど、繊細な人間です。そして周りが死ぬのを見てたくなくて、先に自分が死にたいとずっと思っているような人間です。莉々が死ぬのをなんとか引き止めていたのがボクらでした。
それなのに誰かが莉々を唆して殺そうとしている。止めなくては。でも誰が喋っているか、周りを見渡してもそれらしい人格はいませんでした。そうこうしているうちに悪魔の囁きがもう一声。
「楽になりなよ。今すぐに」
その言葉に操られるように莉々が紐を結び始めました。死にたいと思ってはいても実行に移したことはなかったのに。
中ははちゃめちゃでした。
「誰が喋ってる!」「誰かやめさせろ!」「先に莉々を止めなきゃ!」「交代ができないよ!」
叫び声の嵐。でも誰の声も莉々には聞こえていないようでした。ボクは考えます。
莉々はどうしたい?どうしたいも何も、今実行に移しているこれが答えだろう。ボクなら止められる?止めてどうする。莉々はずっと地獄にいるんだ。莉々の辛さをボクが代わってやることはできない。どんな言葉をかけても、ボクは無力。
首を吊り、意識が消えかけます。ボクはいつの間にか泣いていました。初めて大泣きしました。そして、聞こえるかもわからない懺悔の声を、吐き出しました。
「助けられなくてごめんね」
ボクには何もできない。今までも、これからも。全てを諦めました。
意識が途切れる直前に紐が切れ、莉々はゲホゲホと咳をしながら泣いていました。
それ以来、ボクの声は莉々にあまり届かなくなりました。莉々は悪魔の囁きに操られながらも一生懸命生きようとしていました。
ボクはたまに莉々に優しい言葉をかける程度で、自分のことに精一杯になってしまいました。
しばらくして莉々が入院したいと言い出して、初めて精神科に入院しました。
家から離れて過ごせることはボクたちも安心でした。それだけでストレス量が違うからです。
本当にストレスが減っていきました。比例するように人格も減っていきました。リーダーもいなくなりました。
ボクは寂しかったです。みんないつか消えてしまうのに、ボクはずっと生き残ってて。ボクも早くみんなと同じように消えてしまいたかったです。置いていかれるのは、寂しかったです。
消えたくて、消えたくて。莉々は表で楽しそうにしている。ボクはもう必要ない。
そうしてボクは部屋に閉じこもり、3年ほど眠ることにしました。
眠っていた時の記憶はありません。3年眠っていた感覚もありません。ただ眠って、一生眠っていられればいいなと思ってました。
目が覚めて、まだ生きているというのがすごく苦しかったです。ボクは消えられないんだと思い、次第に莉々の体ごと壊せばボクも死ねるという考えに至りました。
部屋から出て、リビングにいた3人を殴り、表に出ました。そしたら彼氏と通話していました。彼氏ができていたことにびっくりしました。
面白そうだったのでしばらく話していたら、中に引っ込められ、ボクは急いで部屋に逃げ帰りました。
それからあまり出ることはなかったのですが、ある時部屋に突入されて縛り上げられました。そこにはヴィヴィさんもいました。でもボクを見ても何も言いません。莉々もヴィヴィさんも忘れてしまったみたいでした。
ボクは悲しかったけど、どうでも良かったです。きっとみんなに忘れられた方が消えられるから。
でもいつまで経っても消えることはなかったです。ヴィヴィさんとたくさん話をして、思い出して。それでも消えたいという気持ちはなくならなかったです。
人格を消せるという人格が現れました。そこでボクを消してくれるということになり、対話を重ね、人格を消す作業に入ります。何度も自分の気持ちを話していくうちにボクの本当の気持ちに気づきました。
消えたいんじゃなくて、昔の人格に会いたいだけなんだと。
ボクは莉々と同じです。莉々は誰も死んで欲しくなくて、でも無理だから自分が死にたいと思うようになって。ボクも誰もいなくなってほしくなくて、でも無理だから自分が消えたいだけなんだと。
結局ボクは一度統合されたけどまたすぐに分裂してしまいました。
まだ今でも少し消えたいと思ってるけど、前ほどではなくなりました。
昔の人格に会いたい。会ってもう一度楽しくお話がしたい。それがボクの本当の願いだからです。
ボクは脆い支柱です。莉々の助けにもならない、自分が崩れてしまうくらい脆い支柱です。でも少しでも莉々の支えになれてたら嬉しいです。
ここまで読んでくれてありがとうございました。
【深鳥】
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