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子どもたちの変化を考える その2

子どもたちの変化を考える その1|Kosuke Inudo (note.com)

2010年秋の話を前回書いた。今日はその少し前である2007年から2009年頃にほぼ毎日指導していたN校の生徒たちの話を書いていくことにする。ちなみにこちらの教場は私が育った地域にあった。私の後輩にあたる小中高生が数人通っていた。したがって地域の空気感は何となくわかっている場所であった。

本校の方との違いは生徒たちのトラブルに暴力が多かったことだろう。2007年に開校して40人くらいがキャパの限界だった小さな教室だったので、なかなかの問題児が最初に集まった事情もあった。

何人かの事例を挙げてみる。

開校時の最初の生徒Aくん。入塾は中3の最初で、教室でもいつも筋トレをしていた。上着を脱ぐと必ずタンクトップで筋肉が隆起していた。性格は朴訥としていた。しかし勉強はできずに面談時に持ってきた英語のテストは7点だった。それから英語はただひたすらに教科書暗記を繰り返した。深夜だろうが休みの日だろうができるまでやった。そうしたら中間テストでいきなり58点。8倍以上の点数上昇は後にも先にも例がない。一応格好がつく成績を取るようになり、近くのコンビニ前で煙草を吸うことを止めさせ、公立の工業高校に進んだ。入学10日後に塾にやってきた。
「高校辞めました。学校で一人だけ可愛いと思う上級生がいて告白したらフラれました。何でも今まで30人くらいに告白されているそうで、おかしなことになるので全員断っているそうです。それでその翌日に退学届を出しました。後悔はありません。お母さんは泣きましたけど親父は笑っていました」今、彼は引っ越しを請け負う小さな会社を経営している。きれいな奥様がいて3人の子どものパパである。

Aくんの弟のBくん。ある日塾に来た時に落ち着かない様子で興奮していた。「ムシャクシャしたので放置自転車を線路に投げ捨ててきました!」
「お前、それは重罪だぞ!」と言って、歩いて5分ほどの踏切に向かうと十数人の人だかり。「どうやら自転車が投げ込まれたらしい。すぐ気づいた人がどけたらしい。一体誰の仕業なのか?物騒だな」
教室に戻り滾々と説教した。その後も近くの川でおぼれかけて(3月)、警察と消防が来る騒ぎになったことがあるが、まあ何とか卒業進学した。しかし高校は3カ月で辞めてしまった。
今は大工として働き少なくとも4人の子がいる。コロナ禍前に「独立したい」と話していたが、どうなったのだろうか?

Cさん。こちらの校舎に入ってきた初めての女子。ボーイッシュでバスケットを頑張っていた。金曜日に授業を終えて残務処理をして家に帰る途中に西友に寄った。時間は0時くらいだったと思う。「えっ!先生?」上下ピンクの彼女がいかつい男性と一緒だった。二人で酒を選んでいた。話を聞くと金曜日のルーティンらしい。その後しばらくしてそのお父様から「うちの庭でバーベキューやるから先生もおいでよ!」と声を掛けられた。せっかくなので伺うと(小さい会社だったのでコンプラとか無かった)何軒かの家族が集まってワイワイやっている。驚いたのは中高生も躊躇なく酒を飲み続けていること。それでも私たちの頃も親戚の集まりやみんなでキャンプする時はそんな感じだった。ただこれは前回記事のA中ではあり得ない光景だったのだと思う。

Dさん。Cさんと同じ学年だが少し離れた中学から通ってきた。Aくんのお母様の紹介だったw一見して派手な子で中3なのに高3くらいに見えた。父親は既におらず、謎の「カレピ」と呼ぶ男の話が時々あった。「キモいけど大切にしなきゃね」と口にすることもあった。どうやら埼玉に住む30歳くらいの男性らしい。時々手紙とともにお金が送られてきて、年に数回遊びに来るのでご飯を食べてお小遣いをもらうとのこと。勉強はそれなりに卒なく進めて名古屋市内の私立高校に進んだ。今は母親と二人スナックを経営している様子。

Eさん。Dさんが「私を普通に受け入れてくれる塾があるよ。だからおいでよ!」と誘われて入ってきた子。容姿端麗でモデルのようないで立ちだった。夏の格好は男子には刺激が強すぎる面もあった(扉絵のようなファッションを好んでいた)。とにかく私にも勉強の質問や日常の会話や自分の主張をどんどんと投げてくる子だった。ある日驚く出来事があった。塾前の駐車場に爆音の車が入ってくる。何だと思って外を確認すると白い改造されたセルシオが入ってきた。盛った髪の男性が運転席にいる。「あなたが先生っすか?Eは中にいますか?」そんな会話をしている間にEが教室から飛び出してきた。「何でここに来るの?学校と塾には来るなって言ってるでしょ!先生ごめん。ちょっと教室に入っていて追っ払うから」ドアを入るタイミングでビンタをする音が背中越しに聞こえた。戻るとDが急に話し出す「あれEの彼氏の○○くん。ホストだよ。何かケンカしたって話してんだよね」すぐに私はEの家に電話を入れた。「えっ塾に○○くんが来たんですか?それは困りましたね。すみません。見た目は派手ですけどいい子なんですけどね。うちに来るように言ってもらえますか。あの子が帰ってくる前にご飯を食べながら話を聞こうと思います。ご迷惑をおかけしました」あまりの展開に驚きつつも用件を伝え、セルシオは出ていき授業を再開した。彼女は皆がなかなか選ばない遠方の公立商業高校に進んだ。「簿記を絶対習いたい」が口癖だった。高校途中からモデル活動を数年して、今はエステサロンの経営者になっている。

並べてみるととんでもない。若い時分だったので対応できたようにも思う。ただ一つ言えるのは連日起こる様々なトラブルが「陽のトラブル」だった。大抵がエネルギーが有り余っていることからの問題行動だったように感じる。それが後の半生からも感じられる。現在この子たちは28~31歳くらい。私より一回り以上、下の世代になるがマインドは私たちの頃と地続きであった。

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