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恋は駆け引きである③

体をバスタオルでしっかり拭いて、髪も拭いて、スーツ着て会議室に戻ってきてみると、講師が演台で何か飲んでいる。

「あ、みなさんもどうぞ」
「……」

見ると無味乾燥なグレイの会議机の上に、琥珀色の液体が丸みを帯びたグラスにシングル程度に入っている。ウイスキーでしたっ!

「飲んどいた方がいいよ。風邪引くかもよ」

樹くんの優しい声に惹かれて、恐る恐るグラスを持ち上げるみなさん。ウイスキーの銘柄は割愛!滝に打たれて体の冷えてたみなさん。ちょっとホッとする。そして人心地ついたところでふと見上げると……

「プハー」
「……」

講師が葉巻を吸って、とーいところを見ていた。とーいところを。

「あ、失礼、失礼」

ふと我に返るとサッとまるで樹君がどこぞの黒服のように灰皿を差し出し、ウサギは若干マフィアの親分のように高そうな葉巻を惜しげもなくぐりぐりと消した。ぐりぐりと。そして、語り出した。ウイスキーを片手に。

チーン

「それではみなさま、ここでポイントを見直しましょう」

そこで画面にまたあの言葉が浮かび上がった。

お前らは女の趣味が悪い。女に幻想を抱くな。

その文字を見て、ウイスキーにほのぼのしてたみんな、ちょっと悲しくなった。そうそうなんか酷いことを言われてたんだっけ。ビミョーに関係ないんだけど昔した手ひどい失恋を思い出しちゃったりして。すると、ウイスキー片手にじっとスクリーンの文字を見てた講師、こう言った。

「ちょっと調子に乗って言い過ぎましたよね」

なんじゃそりゃああああ!

するとウサギ、すごーく真面目な顔でこっち向いた。

それでは、さっきはちょっと調子に乗って言い過ぎましたので、今度は真面目に。みなさん、恋愛がうまくいかない原因でトップってなんだと思います?それは、

相手を間違えているから(つまり自分に合わない人と付き合ってる)

で、ここがもっと大事なのですが、なぜ相手を間違えるのか

自分の好みがわからないから

わたしはよく仕事柄(シロの仕事は恋愛トラブルの解決)対象者にはよくあなたの好きなタイプの男性、あるいは女性はどんな人ですか?と職務質問をします。すると、恋愛体質でない人は、ここでは男性ね。こんな答え方をします。

好きなタイプの女性は?
ーかわいい子
背格好は?
ー背は俺より低い子がいい
性格は?
ー優しい子
他には?
ー料理がうまい子がいいな

これはね、一般的にみんながいいなと言いがちな要素を並べているだけで、こういうことを言う人はみんなに見せていいねと言われる恋人だったら誰でもいいんですよ。こういう人はなかなかうまくいきません。この人じゃなきゃダメで、他の人じゃ嫌だと思わないからですね。だって誰でもいいんだもん。

そうではなくて、自分はこういう人が好きなんだっていうのをちゃんとよく考えて発見しなきゃもったいないです。せっかく生きてるんだから。恋をしましょう。恋を。

で、どういう人が好きかというのを考えるのが苦手なら、どういう人は嫌いかで考えた方がいい。この人とはあまり一緒にいたくないなという人を一人一人思い浮かべてみるのです。

ズバズバと言いたいことを言う女、あんまりガリガリな人は好きじゃない、ポジティブな人よりおとなしめの人が好き、やっぱり胸はおっきい方が好きだなとか。

そういうのがだんだん定まってきたら、その人と何をしたいか想像してみる。(ちょっと可哀想な人になっちゃうけど、ま、イメトレってことで)水族館とかいきたいなとか、そこで、例えばまんぼうを見たら、その想像上の彼女はどんなことを言うのか、面白いことを言うのか、或いはただあなたが言う冗談にクスクス笑ってるのか。

ほら、見えるでしょう?見えてきたでしょう?マンボウの君が。

ついでに言うと、どうしてそう言う人が好きなのかなと言うのも考えてみると自分に合う人というのが見えてくる。ズバズバいう人といると自信がなくなっちゃうからとか、自分がおしゃべりするのが好きだから相手には笑いながら聞いてくれる人がいいんだとか、そういうやつですね。デートに行こうと言ったら、ここにいきたいと自分から言ってくる子が好きなのか、或いはおとなしく自分の決めたところについてくる子が好きなのか。

そして、こういう分析ができてくると、初対面の時にどの子が自分の好みのタイプで、どの子がそうじゃないのか、すぐわかるようになるんですよ。ま、僕がわざわざこんなこと言わなくても、できる人は簡単にできていることです。恋愛から縁遠い人は、大体、自分の異性に対する具体的な好みが言えない人が多いし、誰かと出会ったときにその相手がすぐ自分の好みかどうか見ただけでわからないものです。それは恋愛体質ではない。

そして、さらに今日は結婚の相手を選ぶときのコツのようなものまで説明して終わりにしましょうか。恋愛と結婚は違います。相手を選ぶときに共通する部分もありますが、あまり色々いうとわかりにくくなるのでまとめると

(ここでシロ、グラスをもう一度持ち上げクイっと飲む。「お代わり」と言ってみたがお代わりは出てこなかった。そして、スクリーンにまた字が浮かび上がる)

お金を軸に価値観が近いかどうか

生活を一緒にする相手はとにかくこれです。そして、人間のこの価値観を決定するのは何かといえば

生まれ育った環境

これが違えば違うほど結婚した後お互い苦労します。

例えば裕福に育って、ずっと実家でしか暮らしたことなくて、独身時代は家にお金も入れず働いて余ったお金で年に一回は海外旅行へ行っていたような女の子。また、子供の頃は家族で海外へ行くのが当たり前だったような女の子。働くのは疲れるから結婚したら働きたくないと言っている。

結婚後もその子が当たり前だと思っているような生活を与えてあげられるのかどうか、僕がわざわざ言わなくても、男の人なら普通に考えますよね。

人間ってねぇ、生まれ育った頃の生活レベルを下げて生きてゆくのはなかなか厳しいですよ。。そして、こういう苦労をしたことがない子というのは、世間知らずなんですね。誰と結婚しても自動的に自分のお父さんがくれたのと同じような生活ができると思い込んでる。子供はピアノとバレエを習わせてとかね。そういうところが可愛くもあるのですが……。

好きになった子と自分の生まれ育った環境にちょっと差があったら、よく話し合って愛で乗り越えていくというのも、まぁ、アリだと思うんですが、婚活とかで自分がある程度冷静に相手を選べるのであれば、結婚相手は価値観の近い相手を探すに限る。必ずそこが、結婚後の喧嘩のポイントになってくるので。ほとんどの夫婦がやってます。

つまりは、何に、どのぐらいお金をかけるのか、が、ある程度近い相手がいい。

食べ歩きが好きな二人なら、1ヶ月に一回は豪華な食事をしようと決めて一緒に出かけられるし、旅行好きなら、子供も入れて一緒に旅行に行けるでしょ?でも、価値観が違えば自分のやりたかったことは結婚後できなくなります。旅行嫌いなご主人を説得して旅行にでても、旅先でぶつぶつ文句言われたら泣きたくなりますよね?美味しいものに価値を覚えない人は、せっかくいいもの食べてもいつもと食べてるのと何が違うの?というしやっぱり泣きたくなりますよね?

泣きたくなるんですが……

(ここでまたウサギちょっとほおっと遠くを見る目になる。みんなは話の続きを行儀よく待っている。「ね、樹くん、もう一杯もらえませんかね?」なんだ!よっぱらってるんじゃねえか!)

失礼失礼、話を続けましょう。結婚してしばらくお互いの価値観が違くて喧嘩ばっかしちゃう夫婦は結構いると思うし、この人にするんじゃなかったと後悔する人も結構いるんじゃないかな。ただね、できるだけ価値観の近い人を選んだとしても全く一緒な人はいないから喧嘩は必ずするだろうし、また人と人ってさ、ずっと一緒にいるとゆっくりとだけど変わってきます。

人ってね、好きな人のためだったらゆっくりとだけど変われる動物なんですよ。最初は旅なんて金の無駄だと思っていた人も、好きな人に大いに拗ねられて、ちょっと反省して、渋々付き合うようになる。それが、5年後、10年後、15年後で20年後か?もしかしたら旅の楽しさを教えてくれてありがとうなんて相手に言っているかもしれない。

最初っから素敵な夫婦なんて一部の人たちだけだと思いますよ。だから、価値観の近い人と結婚した方が楽だと思うけど、少し離れていたとしても愛があるなら頑張ってみればいいんじゃないかなぁ。

(そこでまた頬杖をつきながら天井の一角を見て動かなくなったウサギ。「あのすみません、お酒入れてあげてください」オーディエンスから声がかかり樹くんがグラスにお酒を入れた。すると動き出した。ウサギ。ウイスキーはガソリンか?)

お互いに譲歩しあってね。ふぅー。

(なぜそんなに疲れているのかわからないが長いため息をつくと、酒を飲んだ。そして、急にシャッキリする)

ま、でも、まだ皆さんは独身ですから、まずは自分の好みをちゃんと言えるようになって、パッと女性を見たらすぐに自分の好みかどうかわかるようになってね!では、次は彼を知るに入ろうと思います。

さらば!

壇上からスタスタスタと去ってゆく白いウサギにまさかの拍手が。

パチパチパチパチ

どうなるかと思ったが最後はいいこと言ってたな。酒飲みながらだったけど。

(お笑い芸人、乙女共著)
2024.04.29



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