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人生総決算!たった一台の最終決戦

舎回良和

俺は、負け組だ。53歳、独身、年収250万弱、高卒、素人の女との触れ合いはもう三十年もしていない。最近は少し抜け毛も気になる。アソコの毛まで白髪が生えてきやがった。クソっ。日雇いの仕事も年々辛くなっている。
どこかで終わりが見えている。分かってる。どれほど過去を恨んだか。でも、仕方が無い。俺がガキの頃親が離婚したのも、中学の時イジめられていたのも、偏差値の低い高校に行ってグレたのも、バカだから大学に行けなかったのも。全部、俺が悪い。俺だけが悪役だ。誰にも慰めてもらえない。分かってる。んなこと。クソっ。ま、んなこと考えても仕方ねぇ。暇だし外出て散歩すっか。
「キュィーン!ガチャンガチャン!ドガガガガ!」
パチンコ屋だ。昔大負けしてから行ってなかったな。ふと中を覗いた瞬間、サイッコーに気持ちええ記憶が蘇ってきたんや。「きょ、今日だけなら...…。」一歩一歩踏みしめながら歩き、なんとなく奥の方にある台を選んだ。ガンダムのユニコーンという台らしい。隣のおっちゃんが言ってた。「よし、打つか。」軍資金は3万。ハズレればすぐに吹き飛ぶ金だ。だが、俺には歴史を変える戦いだった。少なくとも関ヶ原なんかよりずっと。取り敢えず、打つ。出だしの流れは好調。よく穴に入り、演出も出る。だが、そう当たりは引けない。クソっ。次第にみるみる飲み込まれる。流れを変えるためにコーヒーを買う。一気飲みする。残りの約1万をぶっ込む。「やべぇ…腹が痛ぇ」キンキンのコーヒーを一気飲みとかするからだ。クソっ。ダッシュでトイレに行く。終わらせたら手を洗ってハンカチで手を……っと、「ん?」そこにあったのはハンカチではなく一万円だった。天はまだ、俺を見捨てていなかったのだ。「勝つんだ。」そう、呟いた。帰りのバス代も電車賃も飲み物代も食事代も無い。この一万円だけ。勝たなきゃ全て失う。何もかも持っていないこの人生ですら奪われる。先程のユニコーンに座る。1000円……2000円…。飲み込まれていく。その時だった。「タラタラタラタラタラタラリーン、タラタラタラタラタラタラリーン。」鳴いた。台がッ!!大当たりだッ。脳内に直接入り込んでくる爆音に溺れながら打ち続ける。ただ、ただ打つッッ!「あへぇ、へへ、あ、当たったんや、わ、ワシの勝ちや」左手でガッツポーズをし、右手でノブを捻る。その姿はさながらパチ屋のブッタであった。天上天下唯我台尊。ユニコーンが、鳴いたんだ。俺には聞こえたんだ。ユニコーンの声が。「貴方にサチアレ」って。泣いた。俺も泣いた。台と共鳴するように。愛してくれたんだ。こいつだけは、最後まで俺のことを。「ユニコーン!!!お前はざぃごぅだぁ!!!」涙とピカピカと光る大当たり演出で視界がボヤケながらも打ち続ける。自分の物語ですら主人公で居れなかった俺が、唯一この時間だけ主人公になれたんだ。俺の人生というカラカラの砂漠に突如現れたオアシス。それがユニコーンだった。6歳の時出てった親父よりも、中学の時虐めてきた山本よりも、スポーツで高校も大学も進んだ田中よりも、俺は…俺は...…勝っているッッ!!「うぐぁぁわぁ!!!」心からの声が爆發する。店内に響き渡るように。台も何度も鳴く。何度も当たる。今までのハズレの伏線回収のように。俺も、何度も泣いた。「救ってくれて有難うございます…神様ぁッッ!!」取り戻した。負けを。そうして、もう二度とない幸運を飲み干した。水道を捻るよう流れ出ていた水は無くなり、また砂漠と化した。気づけばあんなに流れ出ていた玉もいつの間にか止まっていた。余韻に浸りながら、出玉を換金所で換金し、店を後にする。「せっかく勝ったし風俗でも行くか!ガッハッハ」

そして俺はまた、オアシスを求めて放浪する。


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