南欧⑦ 夜のカフェテラス ゴッホの絵
ゴッホの跳ね橋から、市内に戻った。
私たちはグループで旅行時には、会計係りを一人決める。
当座に必要な金額を集めて、会計係りがまとめて払うことにしていた。
今回の会計係は仏像彫刻教室の榎本先生の奥さんが担当してくれた。
彼女はしっかりものだった。
この時点までに、同行者ほとんどが、旅先で何かを無くしているか、忘れ物をしていた。
唯一彼女だけが、無傷だった。
彼女は又、奥ゆかしさもあり、いつもグループの最後を歩いていた。
広場まで戻ってきて、そこにあった公衆トイレを順番に使った。
最後にトイレを使い、戻った彼女が、待っていたみんなの輪の中央に入った。
その顔は緊張していた。
そして財布が入っているバッグを、しっかりと抱え込んでいた。
「ジプシーの女性たちが、後をつけてきている。」
そして「お金を狙っている」と言った。
トイレのそばには、ジプシーの女性たちがいた。
そういわれてみると、彼女たちはバス停にもいた。
ここまで来る途中も、そばを歩いていた。
奥さんは、みんなのお金を預かっており、周りにも気をくばっていたので、すぐに気がついたようだ
わたしたちを少し観察していれば、お金を払うのはいつも彼女だということはわかっただろう。
バスに乗る前に、バス停の近くの広場に市場がたっていた。
そこで食べ物を買い、昼ごはんにした。
レストランで食べるより、現地特産の珍しいものが安く食べれた。
それぞれが食べたいものを買うと、すごい量になった。
安いので、つい買いすぎる傾向になる。
手元には食べきれない果物が、貯まっていった。
マルシェは本当に安くて美味しいものがたくさんある。
パリのホテル近くの遊歩道が、土曜日だけマルシェになった。
端から端までだと電車の一区間もあった。
肉を焼く良い臭いや新鮮な果物の匂い。
雑貨から衣類まで何でもあった。
そのマルシェに気づいたのは、昼近かった。
もう終わり頃に行ったのだが、その時に買って食べたチキンが美味しかった。
そして何より一番美味しかったのは、そのチキンの焼きたれがしみ込んでいる野菜が最高だった。
丸ごとチキンが、いくつも横棒に刺されていた。
それを、回しながら焼いていくのだがその下にはたっぷりの野菜が置かれていた。
ピーマンや玉ねぎやきゅうりやその他の野菜が、上から落ちてくる油や汁を吸い込んでいた。
だが、もう最後近かったので、野菜も少なかった。
その少ない野菜をすべて入れてもらった。
ホテルに持ち帰り、中庭にあるテーブルで食べたが、まさにパリの味だった。
どんな一流のレストランに行っても、食べれないほどの美味しい味だった。
今でもその味は忘れられなく、メンバーに逢うとその話になった。
ジプシーの女性たちは、マルシェがあったところにいたようだ。
その時の様子や、その後の様子を見ていたのだろう。
奥さんが怖がっていたので、それからは常に彼女のそばに誰かがいるようにした。
このアルルには、ゴッホゆかりの場所が、多くあった。
そしてその場所には、そこを書いた絵が置かれていた。
「夜のカフェテラス」という有名な絵があり、そのカフェテラスは現在も営業している。
夕食にそこに行く予定だったが、そのカフェにそっくりなレストランを見つけた。
外のテラス席の雰囲気は、まるでその絵のままで黄色の色調がゴッホそのものだった。
その店を勝手にゴッホの店にして、夕食にした。
それは大正解だった。
わからず頼んだ料理は、どれも素晴らしかった。
色彩も飾りつけも味もフランスだった。
目の前に、写真集の皿が並んだようだった。
丁度、川のそばの席だったので暗くなると、夕焼けが色を増して行った。
やがて星が空を飾り始めると、
ワインを飲みながらゴッホの世界は広がっていった。
明日は衣装祭りだ。
中世が甦る。
ホテルのオーナーの娘さんがミスアルルに選ばれ、ポスターにその素晴らしい姿をみせていた。
序曲はもう始まっており、その期待は、膨らんだ。