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同期の大園 11. 欲望

 
 彼が出張に行って一週間が経った。
 戻ってくるまであと二週間。

 短いようで、私にとってはすごく長い二週間。

井上「……でな~。あ、梨名おかわりとってくる」

大園「私も行く~」

武元「あんたらよう食べるね」

井上「甘いものは別腹だから!」

大園「そうそう」

(うんうん、別腹別腹~)

 井上と二人、これでもかと盛り付ける。
 


武元「うわ!? めっちゃもってくるじゃん。……しかも甘いものじゃないし」

井上「まだまだ前哨戦だから!」

大園「にひひ。そうそう」

武元「ふ~ん。……それにしても、玲ちゃんさ」

大園「ん?」

 私のお腹を触る武元。

武元「ちょっと……太った?」

大園「え?」


 
 ……

 

大園「ありゃ……」

 気付かなった。

(ダイエットしなきゃ……)

 運動しようか、食べる量を減らそうか。

(いや……違うよね……)

 彼と会えていないからだ。
 私の欲求が満たされていないから。

(……由依さんに相談しなきゃ)

 

 
『おかけになった電話は現在……』

(そういえば、学会でしばらくいないんだっけ……)

 あと十四日。
 今日がもう終わるから、あと十三日。

(うん……大丈夫)

 我慢できないほどではない。 少しの辛抱だ。

(大丈夫……大丈夫……)


 

  

……


 


『ちゅんちゅん』と雀の鳴き声が聞こえる。
 暖かな日差しに目が覚めた。
 
 暦の上ではもう春だ。 会社近くの公園では梅が咲き始めている。

大園「ん……」

 瞼が重い。

(……疲れてるのかな?)

 朝には強いはずなのにまだ眠かった。

(……む)

 もう少しだけ寝てしまおうか。
 出勤にはまだ時間がある。

 そうして、目覚ましを掛け直そうと腕を伸ばす。
 寝ぼけているのか、ベッドからずり落ちる私。

(……あ……あれ?)

 そのまま強烈な睡魔を感じて――


 



 
俺「只今、戻りました~」

 数週間ぶりのオフィス。

(……おん?)

 天気とは対照的に、やけにどんよりとしている室内。

武元「おかえり……」

俺「ただいま。何かあったのか?」

武元「……えっとな、実は――」

俺「……え? は?」

 思わずカバンを落とした。

(嘘だろ……)

 昨日の朝、大園が自宅で倒れていたらしい。


 



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