晩夏に響いた狂詩曲

 8/24、日本武道館で不可解参(狂)を見てから今日に至るまで、本当に体の底から余熱に浮かされていて、「ライブよかったな……」以外考えられなくなっていた。ようやく意識が武道館から帰ってきたので、ライブを通してもらった感情を言語化しておこうと思う。基本備忘録的なスタンスで綴っていくが、もしこれがあなたの思い出や、言葉にできず靄のかかった感情の具体化に役立ったなら、それは望外のことだ。

セトリ順にざっくりと

 まずはこれについて語らねば始まらないだろう。一曲目に堂々と披露されたのは系譜曲「魔女」。花譜の、魔女としての彼女の始まりの曲。これが最初にきたらもう盛り上がるしかない。原曲でもラスサビだけメロが変わっているが、今回のライブアレンジではさらに高音域まで突き上げるようなメロに変容していて不可解参(狂)の世界へ一気に誘われた。その後のオーケストラの終盤のような怒涛の畳み掛けも、曲の終わりと次曲への期待感を高める最高のアレンジ。

 「魔女」の熱量を引き継いでの次の曲は「畢生よ」。転調するアレンジが反則級にかっこよかった。より切実に、痛烈に歌い上げる花譜ちゃんの姿に、声にきっと心臓を揺さぶられたはず。

 更に続いて「ニヒル」「アンサー」「命に嫌われている」「私論理」「戸惑いテレパシー」「糸」と、彼女の歩みを辿るように曲が続いていった。かなり好きな曲だけど「ニヒル」が歌われると思ってなかったので本当に嬉しかった。歌詞のメッセージもライブのコンセプトと繋がるところがあるように思う。

 コラボパートその1。まさか「化孵化」歌うとは……。sasakure.UK氏の曲にありがちな拍が崩壊するとこみんなノリあぐねてたな。私もだけど。その分次の「流線型メーデー」でかなりリズム取りやすかったのでは?

 「飛翔するmeme」ではたなか氏の艶やかな低音が花譜ちゃんの高音と最高の絡みを見せていた。あとたなか氏のシンプルファンなので得した気分になった。次の大森靖子氏との「イマジナリーフレンド」がもう凄まじかった。ここからライブの話展開する人もきっと多いことだろう。たなか氏の支えるような歌声とは一転、この一瞬だけでも花譜ちゃんを食うような勢いの、芸術と狂気の境目でのパフォーマンス。時にその境界の向こうに行きながらの歌声の迫力ったらない。「死神」とのRemixを刺してきたのも粋な演出。いつかの花譜ちゃんのライブでの「死神」カバーで彼女の魅力に更に引き込まれた人間なので、過去の想起と合わせて込み上げるものがあった。
 「裏表ガール」は卒業記念ライブとはアレンジが変わっていて穏やかな雰囲気に。初公開時の卒業というシーンにかざすなら、しばらく経ってから卒業式を回想しているような、ノスタルジーを孕んでいた。

 K.A.F DISCOTHEQUEについても何か書いておきたいが正直、楽しいという感情しか覚えてない。黙ってノッた方がいいという本能にしたがってひたすらペンライト振ってた。

 コラボパートその2。MIKEYさんほんっとにかっこよかった。一瞬音が消えると同時に黒い衣装を纏って登場。神椿の十八番の光の演出が散りばめられているとはいえ、黒基調のステージの上で、ひときわ輝かしい黒とともに舞う姿の魅力たるや。歌声以外発することなく紳士的な一礼とともに退場したのも徹底してるよなぁ。
 
 ORESAMAVALISら深脊界組とのコラボは予告されていなかったサプライズだったが、両組ともしっかり爪痕を残していった。これは今回初めて現地参加して驚いたことだが、MIKEYさん、VALISの両者とも映像の何百倍も凄かった。正直VALISへの興味爆上がった。ダンスってこんなかっこよかったのかという衝撃と発見。配信ライブに慣れ切っていたがやっぱりライブは現地に尽きる。

 V.W.Pパート。魔女たちくるのか!理芽ちゃんもくるのか!という驚きや彼女たちの微笑ましい空気に和むのも束の間、怒涛のデュオ曲ラッシュ。花譜×幸怙の新曲「歯車」スタイリッシュで好きな曲調だった。間の三拍子のところバッチリノれたので気分がよかった。続く「共鳴」、この曲のコーレスを会場でできるとは…… 声は出せないので身振りでだが、いつかしたいなが思わず叶って慮外の喜びに包まれた。

 最終パートは”花譜のライブ”という原点に立ち返ってのソロ曲パート。「過去を喰らう」の2Bメロでドラムが(リズムが)重たくなるの大好きなポイントなのだが、ペンライトの光たちもそれに合わせてて「やっぱ皆ここすきだよな!」とひとりで盛り上がっていた。ライブ定番の流れで「海に化ける」へと続くのも生で聞けて感激。加えて今回初披露の「人を気取る」に繋がり、この曲群のストーリーに更なる展開が。「あなたがいない人生はまるで死んだみたいなのに 今生きている味がしたんだ」という歌詞の、受け入れがたい矛盾と、そこから来る悲しみと、乾いた笑みがないまぜになったような感情が好き。そしてこの系譜の曲はギターのリフがかっこよすぎる。しょーまさん輝いてた。

 撮影OKだった「不可解」では、撮影はしたいが現地にいるんだしこの目で見たい!とカメラは構えつつも目線は直にステージに向けていた。想定外のマルチタスク。自然な繋ぎで「未観測」へと移った時、わたわたしながらカメラしまった観測者たちの民度よかったな。「未観測」は本当に懐の大きい歌で元気漲る。こちらの系譜の新曲「狂感覚」にも言えるが、どうしようもない弱さ、醜さを受け止めてくれるようなカンザキ氏の優しく、力強い歌詞がたまらなく好きだ。

 最後にして最大の目玉、「シンガーソングライター花譜」として初の公開曲「マイディア」。いわゆる花譜ポエムでもその片鱗が見えていた、彼女の美しく言葉を紡ぐ力がいかんなく発揮された一曲だった。そしてタイトルからも感じた人は少なくないだろうが、彼女の詞には、言葉にはカンザキ氏の言葉の血が色濃く流れているようで、それでいてしっかりと彼女の言葉で、その連なりすらも美しかった。

狂を冠する意味

 当日ライブを見るまで、花譜の憧れのミュージシャン数名を招きはすれど、基本的には”花譜のワンマンライブ”という形を取るのだと予想していたが、いざ始まってみるとゲストは事前告知よりはるかに多く、ステージに花譜不在でDJが場を盛り上げるパートがあったりと、もはや花譜がテーマのフェスだった。これはMCでも語られた今回のライブ構成の意図通りの印象だ。あれはフェスだった。フェス行ったことないけど。しかし同時に、ライブ全体を俯瞰してみると、今までのライブや彼女の活躍によって拡張された可能性、獲得した繋がりが至る所に散りばめられている。可能性の拡張という花譜を語るうえで重要なワードが、この次々とシーンの変わるライブを一本のストーリーたらしめているのではないか。彼女の紡いできた歴史を、歩んできた道程を、色濃く反映したセットリストと言えるのかもしれない。異なる曲調が一曲に収まる狂詩曲のように、複数にして一つ。フェスのようであり、やはり”花譜のワンマンライブ”だ。

 大森氏が体現したような字面通りの「狂」、目まぐるしく変わるライブ全体の印象を表した「狂」、あなたに、何かに夢中という、ライブ中明かされた秘めたる意味の「狂」、私含む観測者の、これを観測できたことへの「狂」喜…… まだまだ私の考えの及んでいないところにも「狂」があるかもしれない。言葉の多義性のフル活用。言葉を、想いを届けることを生業としている人たちはたった一文字に想像も及ばないほどの意味を込める。


ライブコンセプトより近く

 暗い雰囲気の続く世界に、祭りのようなライブで光を。といったようなコンセプトだったが、皆様的にはどうだろう。世界に暗い雰囲気を日々感じるだろうか。私は正直そうでもなくて、なんというか、コロナとか戦争とか、漠然と、広範に、長期的に世に蔓延ってるものへの認知が鈍くなっている。    さらに言えば、もっと目先の対人関係とか、将来だとか、他人からすれば取るに足らない些細な不幸とか、そういうものへの小さな絶望の蓄積でキャパいっぱいなのだ。世間なんて見てられない。故にライブコンセプトが語られたとき、「なんて遠くを見ているのだろう」とも思った。ライブは楽しむことが第一目的だが、神椿主導のライブは特に、それに加えて何らか、メッセージみたいなものを求めてしまう。だから今回については、そういう人たちへ向けているんだと。そういう人たちが救われるような祈りなのだと。

 しかし特に終盤パートの歌詞は、そういう大衆が抱くような恐怖や絶望を和らげるためというよりは、もっと小さくて、しょうもなくて、醜くどうしようもなく、共有しえない個人的な弱さに寄り添うようなものに感じた。(都合がよすぎるだろうか)。これは「私のために歌ってくれた!」とかそういう話じゃないのは一応断っておく。遠くまで手を伸ばしつつも、こちらにも目を向けているような、遠くを見ているのではなく、「遠くも見ている」のかと。ライブ中何度も観測者をテーマに話す彼女の持つ誠実さは、歌に、詞に乗ってきっと届いた。
 あるいは花譜というのは彼女自身が述べていたように、個であり空間的な概念、現象でもあるのかもしれない。そのぐらい広さを感じる。

 ライブコンセプトの話とは若干それるが、花譜というバーチャルシンガーが、単独で、武道館に立つということは、花譜自身、そして神椿の他のミュージシャンたちのみならず、もっと広範囲の人々の可能性を拡張した。バーチャルの存在がもっと人口に膾炙していくための歴史的なイベントになったのではないか。バーチャル界隈(何て言うんだ?)も好きなのでこれを契機にもっと盛り上がるといいな。

最後に

 改めて最高のライブだった。ありがとうが尽きない。ディティールについては配信チケット買って見直してからまた一人でいろいろ考えよう。今回初の現地参加だったが、こんなもの見せられては今後隙あらば現地参加を狙う妖怪になってしまう。
 長文、駄文失礼しました。もしよければこんな具合のレポほかの人のも読みたいのでもっとみんな書いてほしい。あなたの目に映った不可解参(狂)を教えてください。
 

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