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地球に優しい? 侵略者(第2話 赤紙来たる)

   蒼介は自分のアパートに引きこもりながら、テレビやスマホに流れてくるニュースの奔流に圧倒された。恐らく彼だけでなく、世界中の人達もそうだろう。
 ようやくコロナ禍が収束し、その記憶が徐々に過去の物になろうとしていた矢先であった。
 もしかしたらコロナも異星人による謀略だったのではないか? そうネットで論ずるつぶやきも現れた。
 そしてガシャンテ将軍の放送が終わった後次第に地球のあちらこちらで、様々な変動が始まる。
 まず地球上の全ての武器が消失したため、全世界のあちらこちらで勃発していた地域紛争が激減したのだ。
 銃が撃てなくなったため、戦争が殴り合いの喧嘩に変わった地域もある。
 ボクシングやレスリング、サッカーやかけっこやなわとびで、国の勝敗を決める地域も出てきた。
 ある独裁国家は軍人や警官の持つ銃が消えたため民衆が蜂起して革命が起こり、圧制を敷いていた指導者が、権力の座から転落する。
 全ての銃がなくなったため世界中の犯罪も、激減した。
 銃器メーカーが慌てて新たに工場で銃を生産しても、どんなテクノロジーを使ったものか、作るそばから煙のように消えるのだ。他の兵器も同様である。
 しかたないのである銃器メーカーは、子供用の水鉄砲の生産に、業務を鞍替えする始末だ。
 さすがにこっちは本物の銃と違って消えなかった。
 やがて上空の宇宙戦艦からチャマンカ帝国の兵士達がマイクロ・ワープで地上に転送されてきた。
 チャマンカ人は地球の空気を呼吸できないのか重力が違うのか、あるいはウィルス感染予防なのか、宇宙服のようなスーツとフルフェイスのヘルメットをつけている。
 ヘルメットの中には、地球の熊に似た顔が見えた。
 かれらの額には、卵型の透明な物体がついている。身長は2メートル位(チャマンカの単位では1チュータン)。
 のちにわかったが遺伝子操作で生まれてくるチャマンカ人は、平民の男性は誰でも1チュータンの身長で、かれらが作った2足歩行型のロボットも、その高さである。
「諸君らに警告する」
 ヘルメットにとりつけられたスピーカーから流れでたのは、日本語だった。
 これは後でわかったが、ヘルメットにとりつけられた翻訳機が瞬時に聴衆の中で、一番多くの者が理解できる言語に翻訳するのだ。
 チャマンカの進歩した翻訳機は地球上いや、銀河系のあらゆる言語を翻訳できた。
「今日ただ今をもってこの惑星は、偉大なるチャマンカ帝国の統治下に入る。恭順の意を示すなら、無駄な血を流すような真似はしない。が、抵抗するなら遠慮なく殺すので、そのつもりでいたまえ。すでに君達が所有する原始的な武器や兵器は、一瞬にして原子レベルまで分解した。無駄な抵抗は、やめたまえ」
 結局その後紆余曲折はあったが世界中の指導者が降伏条約に調印する流れになり、テレビや新聞やネットでも、報道された。
 やがて路上は、身長2メートル位の人型というよりクマ型の黒いロボットが巡回をするようになる。
 報道によれば、これはポリスロボットだった。
従来の地球人の警官も普通に勤務していたが、ポリスロボットが交番に常駐するようになり、以前から問題視されていた日本の空き交番問題が解決される。
 地球で使われる主要言語をマスターしており脳内に周辺地域の情報をインプットされていたので、日本人や外国人問わず道を聞かれても返答できたので、日本人にも外国人にも喜ばれた。
 ポリスロボットの腕にショックガンが内蔵されているため、ひったくりを撃って相手を気絶させて逮捕するのも可能である。
 地球人の警官も、拳銃の代わりにショックガンを持たされるようになった。
 間違えて別の人物を撃っても相手が死なないし、登録した警官の指紋に反応して撃てる設定になってるので、盗まれても、他の人間がショックガンを撃つ事はできない。
 またチャマンカ人の在日総督府が東京に置かれたが総督の命令で日本の刑法が重くなり、殺人や性犯罪等の凶悪犯罪者は死刑や終身刑になったため刑務所に入った囚人が短期間で出所して、また似たような犯罪が起こす事が減り、犯罪自体が激減した。
そのため多くの国民が喜んだ。
 チャマンカのテクノロジーでは容疑者の思考を瞬時に正確に読みとれるので冤罪の心配はなくなり、無実の罪で刑務所にいた囚人は釈放された。
 また海外では、独裁国家の政治犯達が解放される。
 また、法の網から逃れていた世界中のギャングやマフィアや暴力団や黒社会のメンバーは一斉に逮捕され、取調べを受けた。
 かれらの思考は読みとられ、それに基づいて裁判にかけられ、刑務所に収監された。
 チャマンカ帝国には十五歳以上の男女の投票で選ばれる議会があり、憲法で思想と言論の自由は保障されていた。
この憲法はチャマンカ統治下の全域で適用されたのだ。
 なので地球上で言論や思想の自由を弾圧し、大勢の自国民を虐殺していた独裁者達はチャマンカ人の警官やポリスロボットに逮捕され、裁判で死刑になった。
 特効薬が開発されたとはいえ、未だに不安がられていた大型感染症はチャマンカのテクノロジーで、物理的に一掃される。
 全ての兵器を消滅させた時のように原子レベルまで分解してしまったのである。
 それだけではない。ガン、エイズ等多くの病気がチャマンカ人の開発した特効薬で治療された。
 チャマンカ人にも治せない病気はあったが、地球上の全ての地域で尊厳死が認められたため患者が希望すれば、穏やかな死を迎えるのが可能になる。
 チャマンカの統治に反対する人も多くデモが連日行われたが、新しい為政者は平和的な物である限り、デモを弾圧する事はなかった。
 そんなある日蒼介のアパートのインターホンを押す音が響く。居留守を使おうと黙ってたら、インターホンから朗々と響く男の声が聞こえてくる。
「生体反応があるから、中にいるのはわかってる。私は厚生労働省から派遣された者だ。出てこないと大家さんに鍵を借りるか、このドアをポリスロボットにぶち破らせるはめになるぞ」
 インターホンのモニターには50歳ぐらいの男がおり、厚生労働省の身分証を開示していた。
 観念して、蒼介は扉を開ける。ドアの向こうにいた男は、赤い封筒をつきつけた。
「君は前の会社をやめてから、仕事してないな。今回チャマンカの進駐軍から招待状が来た。君はチャマンカ星に行き、そこで勤務についてもらう」
 一瞬蒼介は、相手が何を言ってるか理解できなかった。お笑いコンビの『サンドウィッチマン』の名台詞『何言ってるか、わかんない』が、一瞬脳裏をよぎる。
「そ、そんなの急に言われても」
 思わず声が情けないほどうわずった。
「これは、命令だ。君に拒否する自由はない」
 相手は、あくまで居丈高だ。
「あんた、地球人でしょう」
 思わず蒼介は、相手にどなった。
「なのに、宇宙人の言いなりですか」
 相手の男は、不機嫌そうに顔を歪めた。
「次にそんな発言をしたら、遠慮なくなぐるぞ」眼前の男は筋肉質の体型で、身長は恐らく180センチを超えていた。
 彼の後ろに20代位の若い男がいたが、彼も同じ位の身長で、ガタイもいい。
「ともかく君は、書類に書いた日時に指定した場所に来たまえ。ちなみに君の行き先はドローンが把握している。逃亡すれば身の安全は保障しないので、注意したまえ」
 2人はそれだけ言い残すと、玄関から立ち去った。空を見上げると、確かにドローンの姿がある。
 何と形容していいのか、地球で開発されたドローンと違い、不思議な形だ。これが今やこの惑星を監視している尖兵だった。
 いや本当は、以前から姿形を隠しながら、この星を監視していたのだと、総督府の連中は発表している。
 用意周到なやり口だ。蒼介は、手にした赤い封筒を思わず破りたくなった。


地球に優しい? 侵略者(第3話 異星人の地球統治が進行中。これがまた、意外な流れに)|空川億里@ミステリ、SF、ショートショート (note.com)

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