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のたり松太郎に感じる心地よさ

おもしろい漫画は数あるが、何度も読めてしまう漫画はあまりない。のたり松太郎は何度読んでも面白い、心地よさの漂う漫画だ。

角界を舞台にした漫画で、体が大きくて乱暴者の主人公が巡業で町にきていた関取と喧嘩さわぎをおこし、その資質を見込まれて部屋にスカウトされる。

学校を退校させられたあとも就職もせずふらふらとしているし(元関取の勢にも似たような話があった)、部屋のある東京に行けば恋焦がれたあげく暴行未遂してしまった女教師にまた会えるかもしれないからと、なまくらな理由で入門を決める。

ところが元々強いものだから稽古にまったく身が入らない。

相撲にのめり込むどころか、嫌っているような素振りも隠さない。

幕下付け出しから始まり、勝ったり負けたりで番付も幕下のままで10巻くらい続く。そのあたりの巻がほんとうに不思議なことだが、やたらにおもしろいのだ。
主人公の坂口松太郎はあっさりと勝つし、あっさりと負ける。

勝負事の漫画なのに勝ち負けに妙な湿っぽさがない。負けても朗らかさすら漂う。

十両より下の幕下は場所中の15日間の内7日間土俵に出るが、主人公が相撲を取っている場面よりもなまじ場所中は中休みがあるものだから、場所中にもかかわらず大酔して騒ぎをおこしたり、横柄な兄弟子たちを向こうにまわして喧嘩をしたりしているところの方が試合よりも面白いのだから困ってしまう。


漫画の主人公の勝敗がここまで問題にならない漫画というのはそうないのではないか。

やたらと感情を揺さぶろうとしてきたり、物語に劇的さを出そうと急展開が始まったりはせずにゆったりと漫画の中で時間が流れていく。それが心地よいのだ。




感想のようなことを書いたが、ただ単に最近は漫画を読んでいても試合で勝っただの負けただのと、やたらと感情を沸騰させている熱い場面には疲れてしまい乗れなくなってきているだけのことかもしれない。

少年誌的なものから離れても、たとえ疲れたおじさんになっても読めるこうした漫画があるのはしあわせなことだ。

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