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BSフジ『白玲 ~初代女流棋士No.1決定戦~』が意外に面白い

年末の日曜日、昼食を終えた私は家族の年賀状印刷に取り掛かっていた。宛名面は白黒なので速いが、通信面を「きれい」モードで印刷するとかなり時間がかかる。用紙の補充、用紙の二枚食いやインク切れなどのトラブルに備えて一応ウォッチしなければならないという中途半端な時間だ。

そんな中、Twitterに目をやると、BSフジで『白玲 ~初代女流棋士No.1決定戦~』という番組が放送されていることが分かった。新女流棋戦「ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦」の紹介番組である。今日が初回。まだ開始5分足らずだったので何となくテレビをつけてみる。冒頭、棋界唯一の「女流七段」清水市代先生が紹介されているところだった。清水先生の女流棋士としての実績や常務理事としての活躍の紹介、信頼感あふれる記者会見の様子……と、無難な出だしであった。すっきりした編集で、やはりテレビは一枚上手だなと思わせる。しかしここからこの番組、唖然としてしまうほど女流棋士の生活に密着した紹介がなされるのである。

今回密着取材を受けていたのは、里見香奈・咲紀姉妹、香川愛生女流三段、室谷由紀女流三段である。まずは里見姉妹。里見(香)女流四冠のヒストリー紹介とインタビューから始まるが、何とこれが自宅の模様。ファッションにはあまり興味がなく、「取材だからといってきれいにしようとも思わない」「動きやすさ重視」といったいつもの里見節であるが、そこに咲紀女流初段登場。二人が同居しているという話と共に、ナレーションが「お姉さんとは雰囲気も違い、メイクもばっちり」という身も蓋もない紹介。姉本人曰く、自分は「インナー、アウターといった用語も分からなかった」のだそうで、クローゼットから出してきた服に対しナレーションが「お気に入りの服はほとんど妹のお下がり」と追い打ち。ちなみにナレーターは早見沙織さんという声優で、アニメ「鬼滅の刃」では胡蝶しのぶを演じているらしい。胡蝶しのぶというのはにっこり笑って辛辣なことを言うキャラクターなのだが、意図的なキャスティングか。そして自然な流れを装って、なぜか回転寿司での姉妹大食い対決の模様が入る。その結果、姉26貫もすごいが、妹はなんと50貫! いや成人男性でもそんなに食えないよ。そして二人でデザートまで平らげる。回る寿司でよかったな、フジテレビ。

香川女流三段については「将棋カフェCOBIN」でのYoutube撮影の様子やコスプレの紹介がメインだったのだが、中高生時代からの変身ぶりを写真で比較することはもちろん、女流王将獲得時の紹介として「そのスカートの短さも話題に」というナレーションが。室谷女流三段については、自宅マンション(さすがにボカシ入り)を早朝に出てウォーキングする姿や、ひたすら二重跳びをする様子など、万全の体力づくりを紹介。あえて自宅でマスクをつけて研究し、公式戦に備える様子も放映された。

この番組のよいところは、前半を実績・プロフィール・生活面の紹介に充てつつ、後半は対局に向けた準備、そして女流順位戦の対局映像と真剣味が徐々に増していくところである。棋譜並べに励む里見(香)、対局前にまさかの成分献血に行くという里見(咲)。

そして東西の女流順位戦一斉対局の模様が流れる。壮観である。対局室にテレビカメラが入っていたとは知らなかった。対局の模様は、清水-加藤(圭)、里見(香)-山口(仁)、里見(咲)-石本の3局を放映。対戦相手についても簡単ながら紹介がある。対局開始時と終局時の様子はもちろん、昼休みに食事もとらず考え続ける里見(香)の姿もあれば、各局の盤面・着手の映像も入っている。女流棋戦はあまり映像中継が入ることがないのだが、様子がよく分かる。石本女流二段がサウスポーだとは今まで知らなかった。ここまで見て私はようやく気付いた。「この番組は将棋のことをよく理解した人が作っている」と。考えてみれば、フジテレビ社長の遠藤龍之介氏は非常に将棋が強く、連盟の非常勤理事でもある。中途半端な番組制作は許されないのかもしれない。印象的だったのは山口仁子梨女流2級の局後インタビューである。里見(香)女流四冠ははっきり格上なので、負けは仕方がないと思わせるのだが、インタビューにしっかり答えた後、悔しさをかみ殺すような様子を見せて去っていくのであった。

最後にリーグ戦各組の全結果を紹介し、次回予告をして番組は終わる。親しみやすい内容から入るが、きちんと棋戦を紹介する番組なのだ。将棋の内容と結果だけを紹介しても興味は湧かない。どんな棋士なのかを知らなければ面白くない。かといって棋士の生活面だけを紹介するのでは「ゆるい」番組で終わる。普段の生活、対外活動におけるそれぞれの個性、棋士になるまで/なってからのストーリー、そして対局に向けた真剣な準備、本番たる公式戦の様子、とワンセットで流して初めて感情移入が可能であり、気分も引き締まり、棋戦も盛り上がる。そして気がつけば年賀状の印刷も終わっている。

この番組フォーマット、何かに似ていないか? そう「情熱大陸」や「プロフェッショナル仕事の流儀」が採用しているフォーマットである。今やありふれたフォーマットではあるが、この番組は実態以上に深刻ぶった/カッコイイ取り上げ方はしていないし、そして将棋を理解した人が作っているので違和感がない。長さも1時間弱で、複数の女流棋士を紹介しているためダレがなく充実感がある。日曜日の14時~14時55分という時間帯もいい。サンデーモーニング(喝!)、NHK杯将棋・囲碁、みんなのKEIBA(BSスーパーKEIBAもある)、ゴルフ、笑点、ちびまる子ちゃん、サザエさんという強力ラインナップの中で、唯一ポカンと空いた穴というべき時間帯だ。家族とチャンネルの奪い合いも不要。

『白玲 ~初代女流棋士No.1決定戦~』はもちろんヒューリックの提供で、月1回の放送が予定されている。次回は1月24日(日)、予告映像によれば、初回に引き続き香川愛生女流三段、室谷由紀女流三段のほか、飯野愛女流初段の登場が予告されている。将棋ファンには一度視聴してみることをお勧めしたい番組だ。


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