ひとりで暮らすこと

去年の冬、友だちとクリスマスマーケットに行き、カップルまみれの会場で凍えながらココアを飲んで「彼氏を作る!」と思い立った。我ながら実にありきたりなシチュエーションである。
友達に勧められるがままにマッチングアプリを登録し、色んな男の人とメッセージのやりとりをした。すると、1ヶ月後には彼氏が出来た。人生で初めての彼氏だった。
すること全部が新鮮で楽しくて、今思えば多分「彼氏がいること」自体に浮かれていたのだと思う。恋愛初期あるあるなのだが、彼氏のことが大好きで仕事中も家でひとりのときも友達と過ごしているときも彼氏のことで頭がいっぱいだった。
付き合って2ヶ月後、彼氏に誕生日プレゼントで洋服をあげたとき「これサイズでかいね、交換してきてよ」と言われた。私の心の中で何かが小さく壊れ、別れた。

同時期頃に「花束みたいな恋をした」を観た。
時期が時期だったゆえに、私の感想としては「永遠の恋なんてないんだな」だった。

春、私は再びマッチングアプリを入れた。
またすぐに彼氏が出来た。夜、海を見ながら告白された。私が初めての彼女だと言われた。
その人と私の性格はあまり合ってないな、とうすうす感じながらも私は、どうにか距離を縮めようと頑張った。ちゃんと恋人でいられるように頑張った。
そう、「頑張った」のである。
結果、LINEをブロックされ、終わりを迎えた。

暑い夏をひとりで過ごし、色んなことを考えた。
友だちの話を聞いたり、ドラマや映画を観たり、本を読んだりして、ようやく気づく。
私は多分、本当に好きではなかったんだなと。
ただただ「彼氏がいたらしたいこと」をやってみたかったんだなと。
「頑張って」一緒にいるようなカップルなんて長続きするわけないじゃないか!なんで気づかなかったんだ!
なんとも初歩的なミスに気づいたあと、私は一気に恋愛への意欲を失った。
なぜなら「頑張らなくても一緒にいられる人」を見つけるのは宝くじを当てるのと同じくらい難しいと分かってるからである。
もうそれならひとりで気ままに楽しく過ごしていくほうが心身の健康のためには良いんじゃないか?合わない人と無理に付き合う時間は無駄じゃないか?
そう思い始めたわたしは恋人作りをきっぱりと辞め、「まあいつか宝くじ当たったらラッキーだよね」感で生きていくことにした。

根暗でインドアでオタクな私(字面最悪)はひとりで過ごすことに慣れていて、ひとりで行きたいとこに行き、食べたいものを食べ、たまに会いたい人に会う日々を続けていると「あ、全然これでいいな」と思えるようになった。社会人も2年生となり、仕事がそれなりに安定してきたのも多少影響していると思う。

そんなとき、「耳をすませば」を観た。
中学1年生のとき金曜ロードショーで初めて観て以来、私の中のベストワンになった映画である。
やっぱり何回観てもいいな〜なんて一人暮らしの部屋でしみじみ観ていると、「雫って中3なんだ」とふと思った。「私、いま雫と何歳差なんだろう?」「私、いつの間に雫より年上になったんだろう」
バカみたいだけど、私は結構ショックを受けていた。
もう大人なんだな…働いた自分のお金で生活してるんだな…
大学の同級生が結婚したと聞いた。
ますます私は自分が大人なのだと認識させられた。


母親から「鬱病になった」と連絡が来た。
心配になって、連休でもないのに実家に帰った。
母親は元気そうに笑っていたけれど、車の中で「お父さんは全然心配してないのよ」とぽつりと言った。


それ以来、美味しいものを食べても欲しい洋服を買ってもお笑いを見てても、ふっと真顔になってしまうようになった。
母親が鬱病になって、しかも夫婦仲もあまり良くないなんて話、誰も聞きたくないよなあと思うし、自分もショックすぎて口にするのがつらい。
「何かあったら何でも話してね、いつでも聞くからね」
友だちや職場の後輩にこんな風なことを言ったことが何回もあるが、本当につらいことって話すのもつらいよなあ。なんてしみじみ思った。

そのとき、「あ、寂しい」と思った。
結婚する人、これからもずっと一緒にいる人、お互いの嬉しいことも悲しいことも一緒に共有していく人。
そういう人がもしいたら、話せたのかな。
彼氏欲しいなあ、と本当に身勝手な理由だけど思った。

だけど世の中にはひとりでも上手く楽しく健康に生きている人はたくさんいる。みんなちゃんと大人だからだ。
私が大豆田とわ子を好きな理由もそれだ。

私はもう中学3年生の雫よりずっと年上で大人だから「かなしいよー!つらいよー!」と大声で泣き叫んだらかなりヤバい奴になってしまうので出来ないし、生活していくために仕事に行かなくてはいけない。自分の精神状態を保つために好きなことをたくさんした。欲しい本を買って、観たかった映画を観て、行きたかった喫茶店でご飯を食べて。
そんな最高な1日のラストに「サイゼで豪遊するぞ!」と欲望のままに注文して食べた。
嘘みたいに人工的なピンク色のたらこパスタを見ながら、私は何をしてるんだろうと虚無感に襲われた。
私はまだまだ大人になりきれない。







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