紙袋いっぱいの本

益田ミリさんの「おとな小学生」という本を読んだ。
懐かしい絵本に絡めて幼い頃のことについて書かれたエッセイである。
読み終わった後、わたしの頭の中に真っ先に浮かんだのは母だった。

母は大の読書好きで、一緒にお出かけをしたときは必ず「本屋行こうか」と私を本屋に連れてってくれた。

「お母さんの家は貧乏だったけど、おばあちゃんは本だけはいつも買ってくれたんだよ」「お母さんが若い時はね給料日に友達と買い物に行って、友達は洋服とかバッグを買ってたけどお母さんは紙袋にいっぱいになるくらい本を買うのがいつも楽しみだったんだ」「行ったことがないとこでも本を読めば行った気になったりして楽しいでしょ?」

母はいつもそんな話をしたあと、必ず最後に「だからあんたも本はたくさん読みなさい」と言うのであった。

そんな母の影響もあって、私は小さな頭の中にたくさんの本を詰め込むようになった。
病気で入院したときは病棟に置いてある絵本を片っ端から読んだ。入院中、父に「何か欲しいものある?」と聞かれ「本」と答えると呆れられた。家族で出かけた日、出かけ先で買った本を帰りの車の中で読み終えてしまい、勿体ないと父に怒られたこともある。私に本を買い与えすぎだと父が母に怒っているところも見たことがある。

父と母が喧嘩をし、怒った母がわたしを連れて家を出た後、2人で一緒に地元の図書館で時間を潰したこともあった。

大きくなるにつれて、児童書だけでは物足りなくなった私に母は大人向けの小説を勧めてくるようになった。それまでは私が本屋で気になった児童書を買ってくれていたが、「これは昔読んだけどとても良かったから読んだ方がいい」という母セレクトの本を読むようになる。

一番最初に読んだのは確か「アルジャーノンに花束を」だったと思う。毎月通っていた病院の帰り道にあった古本屋で母が買ってくれた。
それまで読んでいた児童書とは比べ物にならないくらい文字が小さく、その上分厚い。内容も難しい。
正直本の内容を楽しむ余裕は私には無く、「なんとか読み終えた」というレベルだったが、読み終わったよと母に伝えたとき母はどことなく嬉しそうだった。

それからは母と色んな本を共有した。
母から勧められた小説を読んで「お母さんはこんなに大人なものを読んでいたのか…」とひそかに思ったり、「これを読んでたときのお母さんは私と同じ20代だったのか…どう思ったんだろう…」と若かりし頃の母に想いを馳せたり、2人で「これはちょっと意味が分からないよね」と文句を言ったりとなかなか楽しい。

今、私は実家を出てひとり暮らしをしているため、母と本屋に行くことも随分減ってしまったが、たまに地元に帰ったりして一緒に本屋に行ったとき、私が気になった本を小脇にいくつか抱えてると母は必ず「買ってあげる」としっかりお給料も貰うようになった娘に本を買い与えてくれる。

親からの愛情の形は人それぞれ思い浮かべるものが違うと思うが、私にとって本は紛れもなく母からの愛だったと感じる。
母が小さい頃、祖母に本を買ってもらっていたときと同じように、娘の私にも本という豊かな楽しみを与えたかったのではないか。当時、決して簡単に買えるものではなかった本を母に買ってくれていた祖母の愛を母はしっかりと受け取り、私にも与えてくれていたのだ。


大人になった今、給料日に紙袋いっぱいに本を買う喜びを私は知っている。
















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