冴えない中学生だけで祭りに行った話
中学一年生の夏、暑い日差しがジリジリと照りつける中、僕はAくんという子の家でゲームをしていた。
お金持ちのAくんの家でクーラーをガンガンに効かせジュースを飲みながらスマブラ三昧。十数年前の話だが、当時の僕は今よりよっぽど良い夏の過ごし方をしていた。
僕が操るルイージのファイアパンチが炸裂したところでAくんはある提案をしてきた。
「なぁ、今日祭り行かん?」
それを聞かされた僕は、「いやいやいやいやいや...」と即座に拒否反応を示した。
Aくんが行こうと誘った祭りは、地元の一番大きな神社で行われ、周りの多目的広場にも屋台が立ち並ぶ大規模なイベントだ。リア充(今はほぼ死語ですが当時はめっちゃ使われてました)の巣窟のような場所。自分達のような根暗なガキはどう考えても場違いである。
Aくんよ、我々にお似合いなのは小学校で開催されてる地域の人向けの祭りだよ。そんなミニマム祭りでさえ、人目を気にしながら歩く自分にとって神社の祭りに行くことは背伸びどころの話ではない。池谷直樹でもないのにモンスターボックス25段に挑戦するぐらい無茶だ。
さすがに「俺たちゃ三軍!身の程を知れ!」とは言えないが、それとなく行くべきではないと説得した。
しかし、Aくんは「面白いから行こう!」の一点張り。何が彼をそこまで熱くさせたのか未だに分からない。暑さで頭がおかしくなって僕のことが堀北真希に見えてたのだろうか。
結局、Aくんの熱意に押し負けた僕は、Bくんという自分達の亜種版みたいな地味で気の弱い子も誘い、スクールカースト最下層のズッコケ3人組で祭りへ行くことになった。
夕日も沈みかけた頃、普段なら東京フレンドパークを見ながら呑気に夕飯を食べてる時間に僕らは祭りというウォールクラッシュに挑戦していた。
まず、目に飛び込んできたのは人!人!人!これだけの人数の人がどこにいたのかというほど大量の人!客層は家族連れからイケイケのグループ、腕にタトゥーが入ったお兄さんやお腹丸出しファッションのお姉さん等々で、やはり僕らのような「近所の床屋で散髪しておかんが買った服着てます!」という人間は皆無だったが、そんなことも気にならないぐらいの人の多さだった。
人混みをかき分けて...というより人混みに流されながらといった感じでなんとか神社に到着。
人の多さに驚嘆した後は屋台の価格に高さにドン引きする。何となく「屋台=300円」と算段していたが、それは一番安い屋台であって400円や500円、700円なんて店もあった気がする。かき氷なんて氷削って甘い汁かけただけなのになんで数百円にもなるのか未だに疑問だ。腹は減っていたが当時の小遣いは月に1500円、慎重にもなる。
そんな僕を横目にAくんは500円の焼きそばを購入していた。ここで僕は、「500円って遊戯王のパックが3パック買えるんやぞ!」とツッコんだ記憶があるが、冒頭にも書いたがAくんの家はお金持ちで、親に頼めば小遣いとは別におもちゃやゲームを買ってもらえるような家庭なので、金銭感覚が自分のような庶民とは違う。よって、このツッコミはめちゃくちゃ間違ってた。ごめんAくん。
格差というものを初めて痛感する中、正面からバリバリ一軍のリア充グループがやって来るのが見えた。
ヤバい!
アイツらは、何もしてなくてもいきなり肩殴ってきて爆笑するようなサイコ野郎だぞ!陰キャ三人で祭りに来てることがバレたら卒業までずっとイジられるに決まってる!
僕らは、三人揃ってうつむきリア充グループの方を一切見ないようにした。...いや、他二人もそうしてたかは分からないが少なくとも話しかけるという選択肢はなかっただろう。腕っぷしは底辺レベルの我々だが危機回避能力には長けていた。
「あっ!○○やん!」
すぐバレた。
「何してんの?」
「何って祭りに来たに決まってるやん」
「そらそうやな。じゃあ!」
「おう」
予期してた展開にはならず、杞憂に終わる。短い会話だったが悪い印象はなかった。もしかすると、次学校で会ったら仲良くやれるかもしれない...と思ったが、二学期に入ってからまた肩を殴られ爆笑されることになる。こういう輩が学校外で会うとイイ奴なのと、異常なほど肩パンが好きな謎をどこかの研究者が何かの学会で発表してくれないものか。
その後、フランクフルトやりんご飴を頬張り、射的を楽しみ経済力の違いを見せつけるAくん、原価率の高そうな物を買ってた堅実なBくん、熟考に熟考を重ね何も買わず2時間歩いただけの僕。三者三様の楽しみ方をした祭りもそろそろお開き。
そんな時、同じクラスの女の子を発見した。発見したといっても、声をかけることもないのでそのまま素通りするだけだ。その横に彼氏らしき男性がいなければ。
見覚えのない顔だし、どこか大人びてたので上級生、もしかしたら高校生かもしれない。
これが何かショックだった。
その子のことは好きというわけではない。自分みたいな日陰者は女子と喋る機会がなかったので特別な感情を抱くこともないのだが、同級生が知らない異性と歩く姿は当時の自分には刺激が強かったのだろう。
それ以降の記憶はほとんどない。結局1円も使わず門限までに帰宅し、「祭りってのは雰囲気を味わうもんやからね~」と謎のイキりを父親に発動させてた気がする。
でも、ハッキリと覚えてるのは「いつか夏祭りに彼女と来る!」という目標を建てたことだ。なんだかんだで楽しかった祭り、今度は彼女と来るんだと誓った。
ちなみに、あれから十数年経った今も「いつか夏祭りに彼女と来る!」は目標のままである。
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