打ち上がらない

高校時代の文化祭にはろくな思い出がない。

一年生の時は展示会の店番を本来30分でいいところを二時間やらされ、二年生の時は展示物の制作が自分の班だけ期間内に間に合わず班長(無理やりやらされた)だった自分が責められた。

中でも三年生の文化祭は特に辛い思い出である。

飲食の模擬店をやることになったのだが、クラスのリーダー的な存在の奴が「俺達で成功させよう!」と言ってクラスを鼓舞させていた。非常に陳腐なセリフだが、これを聞いた当時の僕は「よし!頑張るぞ!」とやる気になっていた。青春の力がそうさせたのか。まるで、ポカリのCMの一幕だ。

意欲的になっていたのは他にも理由がある。「文化祭終わりに打ち上げがあるらしい」という話を耳にしたからだ。

「文化祭終わりの打ち上げ」

18歳の男子高校生には魅力的過ぎる言葉だ。女子と話すことがほとんどないまま高三の秋を迎えた童貞に巡ってきた最後のチャンスである。ここを逃すと高校時代に彼女を作ることはないだろう。

そして文化祭当日、調理や接客といった花方のポジションを任せられることは当然なく、三軍の僕にはゴミ捨てや買い出しといった雑用しか回って来なかったが、後に行われる打ち上げのために与えられた役割をきっちりこなした。「調理できへんなら検便した意味ないやん。ウンコ渡し損やん」なんて若干思ったけれど、同じことを思ってるであろう三軍仲間達と近所のスーパーへ大量の紙皿やゴミ袋をせっせと買いに行った。

店とスーパーとゴミ捨て場を行き来したり、鉄板でジュージュー焼いてる同級生を「俺もやってみたいなぁ」と眺めたり、やることがないからボーッとしてる間に文化祭は終了。ずっと店を切り盛りしていた一軍の男女達は文化祭が始まった頃より心なしか仲良くなってる気がした。

店の片付けが終わり、教室で担任によるテンプレみたいな文化祭終わりのスピーチを聞かされた後、解散する流れになった。

「え?帰るの?打ち上げは?あっ!今日じゃないのね!そりゃそうか!みんな疲れてるもんね!後日やる感じね!」

が、それから何日経っても打ち上げの誘いはなく、クラスの雰囲気や一軍生徒の会話から漏れ聞こえる声により、夢の宴は女子と一部の男子のみで行われることを察した。


「俺達で成功させよう!」


「...あっ、俺は俺"達"に入ってないのか!」


「酷い!」とはならなかった。華やかな打ち上げに自分のような陰気な人間は邪魔だろうなという自覚はあったからだ。「参加できる打ち上げ」ではなく「参加させていただけるかもしれない打ち上げ」なのだ。だから、「酷い!」より「やっぱり!」という気持ちが強かった。

ただ、怒りこそなかったが「自分は恋愛をしないまま高校生活を終える」という確率が99.9%から100%になった瞬間だったので、どうしようもない胸の苦しみはあった。こういう胸の苦しみは甘酸っぱい恋で味わいたかった。

苦しみはその先も続く。というか、ここからの方がより苦しかった。

二軍三軍の男子生徒の多数は一部の生徒のみで行われる打ち上げの存在におそらく気づいていただろうが、誰一人として「打ち上げ」という言葉を口にしなかった。そのことに触れてしまったら自分が「打ち上げに呼ばれなかった哀れな奴」になってしまうから。自分だけじゃない、友達もだ。自分も友達も傷つけたくない。だから、みんなで「打ち上げなんてあることを知らない奴ら」を演じていた。あまりにも情けない理由で立ち上がった劇団の悲劇の旗揚げ公演である。

そんな公演の真っ只中、事件は起こった。山本さん(仮名)という友達の彼女ってだけで少し仲良くしてくれた女神のような子から「◯○君は打ち上げ来ないの?」と聞かれたのだ。

山本さんは、天真爛漫という言葉が似合う子だった。何の悪意もなく、純粋に僕が打ち上げに参加するのか聞きたかったのだろう。だが、聞いた場所が悪かった。教室のど真ん中で女子が大勢いる場所だったのだ。

ギロッ!

その場にいた女子達の「お前は来んなよ!!!!!!!」という視線が凄まじかった。

その光景があまりに衝撃的で何て返答したのかは覚えてないが、当たりさわりのないことを言って、ヘラヘラしながらその場から立ち去ったような気がする。そうやって逃げ続けたから打ち上げに呼ばれない側の人間なんだコイツは。

悪者のように書いてしまったが彼女達は何も悪くない。楽しい楽しい打ち上げに場違い日陰者キモメガネがいたら嫌だろう。それに「来るな」とは誰一人言ってない。もしかしたら、「○○くんも来るの?嬉しい!」という視線だったかもしれないし(だったら誘われてるけど)。

そして、もちろん山本さんも悪くない。彼氏の友達というだけで場違い日陰者キモメガネと仲良くしてくれる子がイヤミでそんなことを聞くわけがない。

悪いのは誘われてもない打ち上げに思いを馳せ、落胆し、何年も経った今も当時のことが忘れられない自分だけだ。

この投稿を読んでくれてる中高校生が何人いるのか分からないが、こんな駄文に最後までお付き合いくださった優しい皆さんには大人になった時、「楽しかったな」と思える素敵な文化祭が訪れますように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?