見出し画像

手を引いて

信号が青になった
隣にいる母の手を引いて 私は歩き出す
母は何も言わずにしっかりと私の手を握り ゆっくり歩いていく
行き先もわからずに ただ私と共に
いつからだろう 私が母の手を引いているのは
小さくなった母
子供の頃の私は 母を見上げていたのに いつの間にか 母が私を見上げるようになってしまった
小さくなった母 大きくなった私
どちらが先でも後でもない
幼かった私が見えたものは 広く大きな世界だった
その世界に行くと何でも出来る様に思えたし 思い通りにいくと信じていた
しかし この現実は私が描いていたのとは違い 儚かった
あの時に憧れていた世界とは どこに行ったのだろうか
母は 人に迷惑をかけてはダメよと口癖のように私に言った
迷惑って何?生きている事が迷惑なの?
私の住む世界は殺伐としていて 私という存在がそこにいるのかさえ 誰も知らない
母は何も知らない
ただ 目の前の訪れる出来事を一生懸命こなすだけ
こうして 一歩ずつ歩くということ
もしかしたら 大切なことなのかも知れない
いつも 母から教えられる
大切なこと
力があるとか 動かせるとかそんなのじゃなくて ただ自分のペースでブレずに遅くても‘歩く‘ということ
今までも 有り難う
これからは 私がいるから


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?