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バケモンには工藤をぶつけんだよ!(レビュー:『戦慄怪奇ファイルコワすぎ』)

オススメ度:★★★★★

ある映像制作会社に送られてきた1本のテープ。ディレクターの工藤は、アシスタントの市川と共にそのテープを再生してみた。そこには、トレンチコートを着た長髪の女が映っていた。そして口にはマスクをして何かブツブツとつぶやいている。そしてその女は突然ものすごい速さで走り出し、投稿者が逃げ出した所でテープは切れた。「マスク・コート・長身・足が速い…」全てのキーワードを当てはめると、それは日本で最も有名な都市伝説“口裂け女”の容貌そのものであった。工藤と市川は、この女の正体を確かめるべく、投稿者の元へと向かうが…。

『戦慄怪奇ファイル コワすぎ』は心霊ドキュメンタリー制作の体で作られたPOVホラードラマである。なお、今回の星数はあまり信頼してはいけない。もちろん私は面白いと思うのだが、本作はもう何度も見過ぎているし、「コワすぎが楽しい」は理性ではなく身体感覚のレベルで染み付いてしまったので、客観的に見てどうなのか、もうよく分からないのだ。

『コワすぎ』は作中の名物ディレクター、「工藤」の存在感がひたすら大きな作品である。粗暴で暴力的、極めてヤンキー的な思考・感覚を持った工藤は、女性アシスタントの市川や動画の投稿者にまで粗暴な振る舞いを見せる(投稿者はかなりの確度で犠牲になる)。単に暴力を振るうというだけでなく、交渉や説得の中にも暴力性を滲ませてくるので、とにかくあらゆる面から見てトータルで粗暴な人物である。なお、白石監督いわく金払いは良いらしい(なので市川は文句を言いながらも工藤と仕事している)。粗暴だがケチではないのだ。

 そして、この対人的な粗暴さが霊的現象に対しても等しく向けられる。ここには一種の「大長編ジャイアン」効果が発生している。普段はのび太をいじめているジャイアンの暴力性が、共通の敵に向けられた時には、「こうなったら頼もしい」という感覚に変わるのだ。工藤にも似た感覚があり、これは「バケモノにはバケモノをぶつけるんだよ」の一種でもある。

 しかし、実際の工藤は、口ぶりの勇ましさの割には、ヤバイと思ったらケツをまくって逃げ出すなどの卑怯さも備えており、「有事には頼もしい」だけでは済まないい複雑なキャラクター性を持っている。マジで考えが足りず、軽率で、想像力にも欠け、その愚かさゆえに危険にも立ち向かうが、しかし、その恐怖を肌身で感じたら逃げ出すのである。

 そんな工藤がみんなから大人気なのは、われわれのような

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