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宇宙生命体はつらいよ(レビュー:『スリザー』)

オススメ度:★★★★☆

> 未知の生命体が潜んだ隕石が地球に落下。瞬く間に地上で増殖した宇宙生命体(スリザー)は人間の脳に向かって一斉に寄生を開始する。寄生され脳をコントロールされたモノたちは次々に生存者を襲い始める。果たして人間が人類として生き延びる道はあるのか!?

 あらすじから受ける印象よりは、ゆっくりとした立ち上がりのSFホラー作品。というのは、本作の宇宙生命体だが、寄生した相手をある程度、理性を残したまま操ることが可能だからだ。なので最初の方は、寄生された人間も暴れたりすることはなく「ちょっと様子がおかしい」程度の認識を周囲に持たれたまま進んでいく。なんならケンカしていたカップルの夫婦仲が改善されたりもする(寄生した宇宙人にとってはセックスが新鮮なので熱烈だった)。

 本作だが、エイリアンの描写がおおよそセックスのメタファーとして進行する。寄生された人物が女性にセックスを持ちかけるのだが、その彼からはチンコめいた触手が伸びる。そして、それが相手女性のヘソの中へと潜り込み、女性は悲鳴を上げるといった形だ。だが、考えてみれば、本来ならちんこを穴に入れるのだから、それが触手に代わって別の穴に入っても大きな違いはないと言えばない。両者を分かつものは、それに対する前知識だけとも言える(のか?)。

 さて、本作は「生理的な嫌さ」を強調したホラーである。まず、隕石で飛来した宇宙生命体が人体に潜り込む描写が嫌だ。訳の分からない生き物が体の中に入ってくるのは生理的にゾワッとするだろう。これは入ってきた瞬間から「どんな悪い変化が目に見えないところで起こるのだろう」という想像力を掻き立てるところにポイントがある。

 寄生から時間が進むと、見た目にも影響が大きくなっていき、顔が爛れたり頭が変形したりするのだが、この辺りも生理的に嫌だ。これはおそらくは梅毒をイメージしているのではないか? 梅毒を「もらってきて」病状が進み、取り返しのつかない段階に入って顔が崩れていく、あの「嫌さ」を宇宙生命体に仮託して映像化したのが本作ではないだろうか? 逆に変形が進んでいき、もはや人体の原型を残さなくなってしまうと、逆にホッとする。「人類社会から外れそうになる」ことが怖いのであって、完全に外れてしまえば、そこまで怖くないというか。

 本作はそういった「嫌さ」がしっかりと描かれた作品で、ホラーとしては良質なのだが、ところで、私としてはどうしても宇宙生命体の方に思いを馳せてしまう。こういう作品を見ると私はどうしても想像してしまうのだ。「彼らに地球征服は可能なのだろうか……?」と。

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