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陰謀論基礎問題50(解答編③:事件・事故編、気象・地震編)

解説:事件・事故編

問18. 2001年に起きた米国同時多発テロの際、ペンタゴンに空いた穴の「ある特徴」により「ペンタゴンに飛行機は激突していない」と言われるようになり、さらにはミサイル攻撃説も主張されました。この穴の持つ特徴とは?
答. 飛行機の翼幅より狭い

個別の事故や事件に関する陰謀論には様々なバリエーションがある。特に証拠に疑問を投げかけるタイプの陰謀論では様々な証拠がそのターゲットとなっており、広く共有されているか確信が持てないため、問題としては作成し辛かった。

今回はその中でも広く知られていると思われる、「ペンタゴンに空いた穴が、飛行機の翼幅よりも狭い(ので違うものが衝突したのではないか)」という説を採用した。これについては「建物の強度が高かったため、翼が剪断された」というのが一般的な見方である(冷静に考えれば、翼の全幅がそのまま穴になるほうが不自然に思えないだろうか)。

米国同時多発テロについては無数の陰謀論が存在するが、それらについてはASIOSの『陰謀論はどこまで真実か』(9.11陰謀論部分の担当は奥菜秀次氏)や、同じく奥菜秀次氏の『陰謀論の罠』で検証されている。

問19. 本来は「防災訓練において、現実味を増すために参加する俳優」を指すものの、陰謀論の世界では「捏造された事件・事故を演出するための役者」を指す言葉は?
答. クライシス・アクター

陰謀論の世界で「CA」というと、キャビン・アテンダントではなくクライシス・アクターを指す。問題文にも書いた通り、これは元々訓練をリアルにするための役者を指す言葉だったが、陰謀論の世界に取り込まれると、事件を捏造するための役者という意味に転化した。

この言葉が使われるようになったきっかけとして知られるのは、2012年のサンディフック小学校銃乱射事件である。元フロリダ・アトランティック大学教授で、陰謀論者として知られるジェームズ・トレイシーがこの銃乱射事件と翌年のボストンマラソン爆弾テロ事件でクライシス・アクター陰謀論を展開し陰謀論概念として定着、2014年のマレーシア航空機墜落事故や、日本でも2021年の京王線ジョーカー事件や2022年の安倍晋三元首相銃撃事件など、大きな事故や衝撃的な事件が起こるたびに同種の陰謀論が出回るようになった。

また日本独自の展開として、TBS社員のMという女性がクライシス・アクターであり、数々の事故・事件の被害者として登場しているという主張が盛んに行われている(筆者の目には無理があるようにしか見えないものが多い)。

これはご本人も認識されており、フォロー理由を尋ねるアンケートを実施されていた。結果は実に45.5%の人がクライシス・アクターを理由として選んでいた(ネタ回答も多そうだが…)。

問20. 安倍晋三元首相銃撃事件の後、付近のビルの屋上にあった白い物体が銃撃事件に深く関わっていたのではないかという情報が拡散しました。その説で、この白い物体は何と呼ばれていた?
答. スナイパー小屋

安倍晋三元首相銃撃事件に関する陰謀論の中でも急速に拡散され、BuzzFeedが記事にもしていたので、目にした方もいると思う。

スナイパー説は安倍晋三元首相銃撃陰謀論の中でも主流と言ってよく(目にするもののほとんどがこれである)、様々なバリエーションを生んでいる。

その中でも音に着目して分析しているアカウントは多くのRPを稼ぎ(主な主張は「二発は空砲だった」というもの)、これは保守系月刊誌にも掲載されていた。編集部がどこまで信じているかは分からないが、売れると判断したから特集を組んだはずだ。「荒唐無稽な説がSNSで広まっている」と笑っているばかりでもいられない。

人々が限られた証拠から「真実」を見出そうとするところは、次のJFK暗殺陰謀論と共通している。こうした行為は人々を興奮させる手段の一つなのだろう。

問21. ジョン・F・ケネディ大統領暗殺の瞬間を捉え、その後何度も見返されることとなった8mmフィルムの名前は?
答. ザプルーダー・フィルム

JFK暗殺陰謀論は陰謀論の中でも1,2を争う知名度を誇るが(陰謀論としての知名度でいけば、これと9.11陰謀論やアポロ月面着陸陰謀論がよくあるランキングの常連で、世界に与えた影響で言えばやはりユダヤ陰謀論が頭一つ抜けている)、そもそもJFK暗殺自体が歴史的な事件のため、陰謀論は知らずとも、この映像自体は見たことのある方が多いだろう。暗殺の瞬間が記録されている、あの短い映像である。

このフィルムの名前は、撮影者であるエイブラハム・ザプルーダーに由来する。ザプルーダーは当時大統領パレードを撮影していた一般人(服飾関係の企業で働いていた)で、偶然にも歴史的瞬間を捉えてしまったのだった。

ザプルーダー・フィルムはその後、決定的瞬間を捉えた記録映像の代表として多数の人々に何度も見返されることとなる。この映像から真相の手がかりを得ようとする人々も多く現れ、特に映像の中で「大統領は後ろから撃たれたはずなのに、銃撃の瞬間体が後ろに倒れている」という事実は様々な憶測を呼んだ(その一方、頭部の破片は前に飛んでおり、フロントガラスは無傷である)。

JFK暗殺事件では、犯人とされたリー・ハーヴェイ・オズワルドも逮捕直後に暗殺されており、これは人々に大きな陰謀の存在を感じさせた。JFK暗殺陰謀論では「弾は複数の人物によって発射されたのではないか」「銃弾は後ろからではなく前から命中した可能性がある」「銃創の位置からすると、公式見解で言われる弾丸の進路は不自然」といった現場状況に関するものから、「黒幕はKGBか」「いやCIAだ」「オズワルドこそCIAのエージェントだったのだ」「マフィアだ」という黒幕に関するもの、さらには「JFKは宇宙人に関する情報を公開しようとしたから消されたのだ」と宇宙人を絡めるものまで多種多様な説が存在し、これらをまとめるだけで大きな仕事になる。筆者もいつかは挑戦してみたいテーマである。

問22. 今でも様々な陰謀が囁かれる国鉄三大ミステリー事件と言えば、下山事件、三鷹事件と、あとは何?
答. 松川事件

下山事件に関してはその謎めいた経緯が長く関心を集めており、多数の書籍が出版されている他、マンガに登場する事件のモデルにもなっているため知名度は高い。下山事件について調べていれば「国鉄三大ミステリー事件」は自然に出てくるため、陰謀論者でなくとも、戦後の事件に関心がある方なら知っていたかもしれない。

三鷹事件は三鷹駅で無人列車が暴走した事件、松川事件は国鉄東北本線で起きた脱線事件(脱線を狙って線路に細工をした形跡があった)である。下山事件は自殺説・他殺説が入り乱れる中で捜査本部が解散、三鷹事件は一人を除いて無罪が確定(一人についても状況に不可解な点があることから何度も再審請求が行われており、2022年にも特別抗告が行われている)、松川事件は全員無罪と、いずれも真相ははっきりしていない。これらの事件については多数の書籍が出版されているので、関心のある方は調べてみてはいかがだろうか。

解説:気象・地震編

問23. 政府が空から有毒な化学物質を撒いているとされる、飛行機雲に似たもののことを何と呼ぶ?
答. ケムトレイル

ここまでは「陰謀論者でなくとも、その界隈に詳しければ知っている」言葉が多かったが、気象・地震編や医療・健康編では「陰謀論者でなければそもそも知らない概念」が多く登場する(文化系の陰謀論と自然科学系の陰謀論の違いと言えるかもしれない)。
このケムトレイルもそうである。試しにX(旧Twitter)で「ケムトレイル」と検索してもらいたい。相当に多くの人がこの陰謀論を信じている(少なくとも知っている)ことが分かるだろう。あなたの知らない世界は、すぐそこに広がっているのである。

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