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電磁波を防げると謳われ、神宮も存在した「CMC」とは何か

先日、ある商品が筆者のTLで話題になっていた。単なる黒い筒にしか見えない物体が、「電磁波ブロック」「電磁波カット」などと謳われ、50万円以上の高値で販売されていたのである。

「CMC」と名の付く商品は電磁波対策グッズでよく見られ、小型から大型のもの、さらには「水の活性化」や健康グッズまで幅広く展開されている。一体これは何なのだろうか。

製品カタログより
製品カタログより
製品カタログより
製品カタログより

CMC=カーボンマイクロコイル

CMCは「カーボンマイクロコイル」の略で、岐阜大学名誉教授の元島氏によって発見・量産化された、らせん状の炭素繊維である。

『CMCのすべて』によれば、気相におけるセラミック結晶の合成研究において、たまたま指導学生がらせん状のセラミック結晶を1989年に作ったことでらせん状の結晶に関心を持ち、1990年にアセチレンの熱分解実験を行ったところCMCを発見、その後大量合成技術の開発に成功したという。

『CMCのすべて』より

元島氏の経歴を見ると、東亞合成の社員、岐阜大学化学科教授、豊田理研のフェローと、化学者としてのキャリアを順調に積んでいるように見える。

また、CMCによる電磁波吸収の論文を多数科学雑誌に投稿しており、それなりの根拠はありそうだ。電磁波防止系の商品は疑似科学グッズの定番だが、その一方で、電子機器の開発で使われる電波暗室というものがある。

そのような用途に使うための電磁波吸収体が各メーカーから販売されており、CMC製品を製造している「CMC技術開発(株)」が販売しているシートも、同種の製品と見受けられる(ただし、CMCスタビライザーのように「置いただけで環境の電磁波を減衰させる」効果は期待できないだろう)。

主張にスピリチュアル用語が含まれ、CMC神宮も存在

ここまでの情報からすると、元島氏については成功した化学研究者といった印象を受ける。開発者は純粋に材料として作ったものが、スピリチュアルビジネスに悪用されてしまったのか、という予想も筆者の脳裏をよぎった。

ところが、筆者が元島氏の著作を読んだところ、その印象は大きく変わった。先にも引用した『CMCのすべて』には、「ケガレチ」「イヤシロチ」「ゼロ磁場」「波動は現実化する」「水の活性化」といった、オカルト・スピリチュアルグッズでは定番となっている用語が頻出するのである。それは例えば、次のような記述である。

地磁気が低い土地には、憑依霊・地縛霊が憑きやすい傾向があります。除霊するには、もちろん霊能者などの専門職のかたに除霊を依頼するという方法もありますが、何よりも地磁気を上げることです。

『CMCのすべて』P.123

まるで心霊本のような話になってしまっている。

『CMCのすべて』目次の一部

さらに、販売サイトや書籍では、CMCの原料20kgを保有する「CMC神宮」というものの存在が語られ、分杭峠(強力な「ゼロ磁場」パワースポットとして、オカルト・スピリチュアルの世界でよく知られる)を越える最強のパワースポットとして記載されている。

CMC原料20kgがご神体なのか、ここに祀られた原料から作ったものでないと本物のCMCとは認められないのか、など興味は尽きない。移転でなくなっていないことを祈るばかりである。

『CMCのすべて』より

さらに、2022年には「ヘリカルミュージアム」という博物館が完成、これはCMC総合研究所のサイトで確認することができる。

ここでも出てくる「あの人物」

元島氏の研究者としてのキャリアや、一応は真面目に研究していた風に見える点と、電磁波や活性水といった疑似科学グッズは一見同居し得ないように見える。元島氏はいつ頃から疑似科学に傾倒していったのだろうか。

CMC製品を販売している主な会社には、CMC総合研究所(2009年設立)と、CMC技術開発(1999年設立)の2つがある。どちらも元島氏が設立した企業だが、疑似科学グッズを売っているのは前者で、後者が取り扱っているのはごく普通の工業製品だ。

以前存在した元島氏のウェブサイトによれば、少なくとも2016年時点で「CMC技術開発とは全く関係ありません」と記載されていた。実際、例えば2003年時点のサイトは元島氏の色が強く、後述する「CMC研究会」についての記載もある。一方、現在のウェブサイトからは元島氏の名前は消えており、ごく一般的な業者のホームページといった体裁になっている(「宇宙はらせんからできており〜」「可能性は無限大」といった仰々しい表現は一切見られない)。恐らく、元島氏が抜けたことによって現実路線に変わったのだろう。

一方のCMC総合研究所は現在も元島氏を全面に押し出しており、少なくとも2016年時点で現在のような個人向けの電磁波防御グッズや波動グッズが見られた。そして、元島氏と疑似科学との関係を探るうち、筆者はある人物に辿り着いた。船井幸雄氏である。

元島氏は船井幸雄氏と対談しており、船井氏のウェブサイトに掲載されていた。

ここで気になるのは、「私たちがCMCの実用化・事業化のお手伝いをしようと大阪にCMC研究会の事務局を構えたのが、10年前でしたから…。」という部分である。

CMC研究会は1997年に発足しており、その所在地は船井総研の中であった。

『CMCのすべて』にも元島氏が船井氏に世話になっている旨記載されており、船井氏がCMCの活用に関する助言を与えていたのは事実のようだ。

90年代といえば、船井氏が「フナイオープンワールド」を開催して多数の参加者を集め、「ほんもの」商品と称した疑似科学グッズを展開していた時期であり(詳細は『カルト資本主義』を参照)、元島氏もそのような空気の中で、この手の商品への抵抗をなくしたというのは想像に難くない。

また、80〜90年代には東洋思想と自然科学の結合による「新しい科学の探求」=ニューサイエンスが流行して(概要は下の記事に書いた)、インテリ層の支持者を集めており(何しろ『現代思想』で特集されていた)、元島氏が筋金入りだったとしても不思議はない。そこでは、自然科学や工学の知識と、疑似科学やスピリチュアルが違和感なく同居する。

開けてはいけない

CMCスタビライザーについて、「開けてはいけない」とされている画像があったことから、ウォッチャーの間では「まるでテスラ缶のようだ」と話題になったが、これには興味深い事情があった。

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