テスラ缶を取り込んだ日本のスピリチュアルビジネス
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テスラ缶を取り込んだ日本のスピリチュアルビジネス

雨宮純

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ネット民を驚愕させたテスラ缶

昨年10月の終わり頃、とあるツイートがTwitterを駆け回った。

そこに写っていたのは陰謀論インフルエンサー、JOSTAR氏。謎めいた缶の周囲を囲む中高年の女性たち、「あらゆる病気や怪我が治る」という明らかに怪しげな謳い文句、「開けたら効果がなくなる」という冗談のような設定はネットユーザーを驚愕させ、1万を超えるリツイート数を記録した。

テスラ缶とは

ここに写っている通称テスラ缶は、正式には「Tesla BioHealing™ MedBed Generator」と言い、米国デラウェア州ミルフォードに本社を置くTESLA BIOHEALING社が販売している商品である。

2個で$19,999

製品ページでは血圧・血糖値の改善や認知機能の改善、さらには抗うつ効果までが記載されている。

凄い効能

製品名に入っている「Medbed」とは、陰謀論者の間で話題になった「あらゆる病気が治るベッド」であり、「プレアデス星人のテクノロジー」で「寿命が240歳まで伸びる」とまで言われている代物である。この缶でメドベッドが実現する、従って病気が治せるというわけだ。

スピリチュアル系では頻繁に出てくるプレアデス星人

このメドベッドは、昨年日本の陰謀論者の間で「岐阜大学附属病院に配備された」という噂が出回り、病院側が否定コメントを発表する事態に至っている

陰謀論者による迷惑を被った岐阜大学附属病院

また、テスラ缶と呼ばれるものにはもう一つ、「Tesla BioHealer」という製品もあり、こちらは小ぶりでメドベッドジェネレーターよりは安い(とはいえ一つ$599である)。

明らかになったテスラ缶の中身

「缶を開けると効果がなくなる」ことから空なのではないかとも思われたテスラ缶であるが、実はネット上で出回っている画像にラベルが写っているものがあり、内容物が推測できた。

ラベルには内容物として「天然素材をミックスした固形物」とあり、コンクリートのようなものが入っているのではないかと推測された。
様々な人の興味を惹いたテスラ缶の中身は、その後BioHealerのほうではあるものの開封する購入者が現れ(開封のために買ったのではなく、本当に信じて購入した後に一部が破損してしまったため開封)、割合あっさりと明らかになった。

その中身は、ラベルの通りコンクリートのような何かであった(BioHealerのほうにも砂や石と書いてある)。

自作版=大和缶の登場に陰謀論インフルエンサーも困惑

テスラ缶の周辺はこの後、思わぬ動きを見せた。同じく陰謀論インフルエンサーである甲というアカウントの元に「アマテルの神様(注:天照大神を指すと思われる)から教えてもらった」というメッセージが届き、缶に銅線を巻いて作る自作テスラ缶、「大和缶」ムーブメントがスピリチュアル系陰謀論者の間で流行し始めたのである。

さらには、智子444という陰謀論インフルエンサー(陰謀論の情報源として高次元存在からのチャネリングを行うスピリチュアル系)も「高次元存在からのメッセージ」として大和缶に効果があるツイートを行っていた。

これではテスラ缶が売れなくなると焦ったのか、JOSTARは「自作するとコトリバコになる」と何故か都市伝説と結び付けて主張した。しかし暴走する信者の流れは変えられず、大和缶は「神真都缶」と表記を変えて現在でも作成されている。

神聖幾何学

ここからはテスラ缶を取り込んだスピリチュアルの理屈について見ていきたい。日本の販売元の代表は、その中身について単なるコンクリート以上のものであることを仄めかしていた。下記動画の1分38秒頃、日本でのテスラ缶の販売元である吉田統合研究所の所長が「おそらくは神聖幾何学の形」と発言している。

吉田統合研究所のサイトを開いてみると、テスラ缶(日本では薬機法を警戒してか目立った効能は謳われていない)の他にも「縄文神聖水」や「縄文スプラッシュ(シャワーヘッド)」といった製品のページがあり、そこに「神聖幾何学」の説明が記載されていた。

短い文章の中にオカルト・スピリチュアル用語が詰め込まれている

この神聖幾何学というのはこの会社の専売特許ではなく、オカルトやスピリチュアルの世界では以前から見られたものである。恐らくその基となっているのはドランヴァロ・メルキゼデクによる「フラワー・オブ・ライフ ― 古代神聖幾何学の秘密」(原著は99年、邦訳は01年に発行)である。

スピリチュアル関係でよく見るフラワーオブライフマーク(表紙に描かれた幾何学図形)に特別な意味を与えたこの本では、「神聖幾何学」について「瞑想中に出会った天使から教えられたもの」と記載され(面食らうかもしれないがスピリチュアルにおいてはこうしたエピソードが説得力を持つのである)、「いかにして現実というものがスピリットと関わりあっているのかということを表す基本的な情報」とされている。

何を言っているかさっぱりな人がほとんどと思うので補足すると、スピリチュアルでは目には見えない世界を想定することが多い。よく使われるのが高次元の世界(数学的な次元ではなくスピリチュアルな次元を指す)である。スピリットが現実と関わっているということは、「目に見えない世界での出来事が現実世界に影響を与える」ということである。このため、一般には信じられないような呪術やまじないの類がスピリチュアルな世界に影響を与え、それが現実に転化することで病気や怪我が治るというわけである。話としては面白いものの、再現性が見られない以上は標準治療に取り入れられることはない。

この本では超古代文明やUFOといったオカルト・スピリチュアルの定番が登場し(勿論古代にハイパーテクノロジーが存在しており、そこに宇宙人がやってきていたことになっている。文明は何度も滅びており、そこでは神聖幾何学が知られていたのである)、遺跡や自然界に黄金比やフィボナッチ数列が見られることから「古代文明や自然界に神聖幾何学が生きている」と主張している。常識的に考えれば、特定の法則が見られることとそれが病気を治癒させるような力を持つこととは全く別なのだが、とにかくスピリチュアルではそういうことになるので仕方がない。

またこの本には「マカバ」という言葉も登場し、これは身体の周辺にあるエネルギーフィールドを指す。この言葉も吉田統合研究所のサイトに記載されている。スピリチュアルのロジックが多少は読み解けるようになっただろうか(読み解けたところで特に良いことはないが……)。

カタカムナ

吉田統合研究所の説明にはカタカムナも登場し、カタカムナ文字が描かれたシャワーヘッドも売られている。

カタカムナというのは古史古伝(一般的な歴史とは異なる古代史が書かれた文献)の一つで、電気系の技術者だった楢崎皐月という人物が1949年、「カタカムナ神社」の神官と名乗る平十字という人物から書写を許されたという古代文献である。その文献はカタカムナ文字という独特の文字で書かれていたという。

カタカムナ文献によれば、日本にはかつてカタカムナ文明という超古代文明が存在しており、そこには製鉄や商業、農業、医学といったハイパーテクノロジーが存在していた。本当であれば物凄い話であるが、現在、一般的にはカタカムナは偽書とされている。

また、「製鉄や商業、農業、医学」といった多岐にわたる知恵が記載されていたにも関わらず、現在見られるのはカタカムナ文字に特別な力があるとするものか、癒される土地であるイヤシロチに関するものがほとんど(一時期話題になったさわやか砂もその一つ)である。これはビジネスにしやすいのがこの二つだからと考えられる。オカルト好きとしては寂しい限りである。

陰謀論界隈をターゲットにするスピリチュアルビジネス

先にも述べたが、薬機法の規制があるため、吉田統合研究所ではテスラ缶に対して特段の治療効果を謳っておらず、「当研究所では、疾病の見立て、アドバイス、治療等の一切を行っていません。」とまで書いている。
その一方で治療効果を発信していたのは陰謀論インフルエンサーであった。ここからは陰謀論インフルエンサーとスピリチュアルビジネスとの協力関係が窺える。そして、吉田統合研究所の所長は先日の神真都Qデモにも参加しており、ファンの集いのようになっていた。

神真都缶を広めた人物は、テスラ缶を売っている側からすれば商売敵にあたりそうなものだが、テスラ缶以外の商品も販売することを狙っているのではないだろうか。拙著にも記載した通り、陰謀論界隈を見ているとスピリチュアルを支持している人が多い。

これにはスピリチュアルの中核である代替医療(波動やスピリチュアルヒーリングを想像するとそのスピリチュアル性が分かりやすい)が公認されないのは何かの陰謀である、という形でスピリチュアルと陰謀論が合体しやすく、また明確な証拠が存在しない(明確な証拠が存在するものは陰謀論と呼ばれず「本当にあった陰謀」とされる)陰謀論がその世界を作り上げる際に、宇宙人や古代文明といったオカルト・スピリチュアルを援用するという事情がある。

マルチ商法に限らず、人が集まる場所には怪しげなビジネスが入り込むものである。十分注意して頂きたい。


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雨宮純

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雨宮純
悪徳商法,エセスピリチュアル,疑似科学,陰謀論などについて取材・執筆しているライター。 スピリチュアルやオカルト、陰謀論については「それ自体の真偽ではなく、社会的な背景や影響に注目する(どのような経緯で出てきたか、詐欺やテロに繋がっていないかなど)」立場です。