「参政党!」コールに1万人以上が熱狂~参政党の熱い夜~(2022.7.9)
(全文無料)
2022年7月9日、第26回参院選の選挙期間最終日となるこの日の夕方、筆者は芝公園にいた。今回選挙の台風の目とも言われた、参政党のマイク納めを取材するためである。
筆者はこの党の事務局長である神谷宗幣氏を、2年ほど前に起こったばら撒くチャー騒動(バクチャーという黒い粉(正体は水質浄化剤)を無許可で全国の水場にばらまく、2万人規模の集団が発生するという怪事)がきっかけで知っており(※参政党がこの運動を主導しているわけではない)、また神真都Qのオープンチャットでも参政党支持の投稿を見かけるようになったことから注目していた。
このため筆者は公示前から参政党の街宣に足を運び、首都圏候補者の声を聞いてきた。他のウォッチャーが天命党や日本第一党もウォッチ対象にする中、筆者はその対象をほぼ参政党一本に絞り、投票日が近付くと共に増える支持者の数と高まる熱気を肌で感じてきた。当然ながら主な候補者が一堂に会するマイク納めは外せないイベントであり、主催者発表によれば1万500人もの人々が芝公園に集まった。
この記事では、支持者ではない筆者にとっても忘れられない夜になったその熱気をお届けしたい。
参政党とは
参政党については筆者もそのうちまとめる予定であるが、現在無料で読める記事としては宮原ジェフリーいちろうさんの記事が大変よくまとまっている。
簡潔に言えば元吹田市議会議員の保守系政治家、神谷宗幣氏を中心に結成された政党であり、保守思想をベースに自然派を取り込んだ主張を展開している。参政党の自然派への傾倒はかなりのものであり、公式サイトを見ただけでは分かりづらい(というより、ウェブサイトや選挙公報では過激な主張を意図的に隠しているように見える)が、街宣では反ワクチン発言を繰り返し、陰謀論への言及も多々行われている。それはこの後の演説レポートを読めば実感して頂けるはずだ。
「ゴレンジャー」が芝公園に集結
事務局長である神谷氏をはじめとした比例候補者の5名(神谷宗幣氏、赤尾由美氏、武田邦彦氏、松田学氏、吉野敏明氏)は参政党の中心人物であり、「ゴレンジャー」と呼ばれて支持者に絶大な人気を誇っている。
選挙期間中は各々散らばって選挙区の応援に行っていた「ゴレンジャー」、さらには東京選挙区の河西泉緒氏が揃うとあって、この日のマイク納めには多くの支持者が詰めかけることが予想された。
実際、開始前の17:30時点で芝公園には多くの人が詰めかけ、ぱっと見ただけで1,000人以上集まっているのではないかと思われた。
ここからはゴレンジャー+河西氏の演説をレポートする。それぞれの主張を逐一書くと膨大な量になるため、筆者が特徴的な部分を要約する。
演説の全てを知りたいという方については、有志が動画をアップロードしているためそちらを参照されたい。
1人目:武田邦彦
メディアでの露出も多く知名度が高い武田邦彦氏は、その疑似科学を多分に含む主張(例:地球温暖化否定論)の他、日本人女性が韓国人男性に暴行される動画が拡散した際に「日本男子も韓国女性が入ってきたら暴行しないといかん」と言い物議を醸すなど、過激な発言で知られる。
この日は「明日は日本の歴史的な一日になると思うんですね!」と第一声を発すると、支持者からは「そうだー!」と大歓声が上がった。
続く内容のうち、主な主張は下記である。これまでの政治の批判や、日本の伝統・国民性を称賛する発言が目立つ。
バブル崩壊以降、日本の政治はダメになり、失われた30年を生んでしまった
今の日本は働く人のための日本ではなく株主のための日本であり、ひいては外国資本のための日本になっている
元々は日本だけが世界で唯一、力づくではない社会、能力や権力で人に優劣を付けない社会だった
このように武田氏の演説では、他の候補者に見られるような濃い陰謀論が飛び出すことはなく、個性派揃いの参政党の中では大人しいほうである。
2人目:松田学
登壇の際に「参政党の頭脳、知恵袋」と紹介された通り、松田学氏は元財務官僚で衆院議員歴(2012年に旧日本維新の会から出馬し当選)もあり、ゴレンジャーの中では最も整った経歴を持つ。たちあがれ日本、太陽の党、次世代の党などに所属してきた保守系の政治家である。
演説開始後すぐに「安倍さんの敵ですからね、岸田さんは!」と発言して聴衆からの声援と拍手を受けた松田氏は、その後も「GHQに歴史を改竄されて日本人は自信を失ってしまった」「敵は国内ではない、グローバル勢力!こんなことを言っている既成政党は一つもない!」と支持者を沸かせ続け、極めつけに「安倍さんの志を受け継ぐのは参政党ですよ!」と言った時には「そうだ~!」という声が聴衆から上がり、大歓声が会場を包み込んだ。
松田氏の演説を聞いていて気になったのは、既存の政党や政治家を全て否定する発言である。例えば下記のような発言が行われていた。
「こんな国にしたのは誰か?自民党もそう、しかし野党も全部そうなんですよ!改革改革とバカの一つ覚えみたいに」
「賃金が上がっていない責任を取って(既存の政治家には)全員辞めてもらいましょう!」
「これまで投票したって碌な政治家いなかったでしょう!」
「政治家はアホ、メディアはまともに報道しない、専門家はウソばかり、賢いのは皆さんなんです!」
つまり、「既存の政党は今の日本を作ってきたので全て駄目であり、新しく出てきた我々こそが理想社会を作れるのだ」という理屈である。これは議席を持っていない新興政党だからこそできる主張であり、ポピュリズム政党でよく見られる戦略だ。
ポピュリズム研究で知られる千葉大学法政経学部教授の水島治郎氏によると、近年の政治学でよく使われるポピュリズムの定義とは次のようなものだという。
また、氏の著書「ポピュリズムとは何か」で紹介されているツヴェタン・トドロフの指摘が興味深いので引用する。
左右に関係なく既存の政党を批判し、エリートや主流医学を否定するために陰謀論や自然派を持ち出す参政党は、紛うことなきポピュリズム政党なのではないだろうか。
3人目:河西泉緒
3人目は東京選挙区から出馬の河西泉緒氏である。今回の選挙では都ファの荒木氏に続いて2.2%の票を獲得した。
河西氏は銀座のクラブを経営していることから、新型コロナにおける飲食店への規制に反対する演説を行うことが多い。この日もその話を少しした後、「五黄の虎」の話を始めた。調べたところ五黄の虎というのは九星気学という占いで言われているもののようだ。
河西氏によれば五黄の虎は36年に一度やってくる強運の年であるが、一方で凶事も起きやすいという。つまりロシアのウクライナ侵攻や安倍晋三元首相の死はその凶事に当たると河西氏は言う。しかしその一方で、良い方向に進むとその年は改革の年になる。つまり参政党こそがその改革なのである、と主張し短めに演説を締めた。参政党の持つオカルト・スピリチュアルの一端が垣間見える。
ところで気になるのは、河西氏が出馬するきっかけとなった、吉野氏による治療だ。彼女は「吉野氏に脳梗塞を救ってもらった」と発言している(これは筆者も街宣で聞いたことがある)が、吉野敏明氏は歯科医である。一体どのような治療を行っているのだろうか。
4人目:赤尾由美
4人目は赤尾由美氏。「赤尾」と聞いてピンと来る方もいると思うが、彼女はステッキを振り上げる姿がよく知られた大日本愛国党総裁、赤尾敏氏の姪である。
そんな赤尾由美氏の特徴は、ゴレンジャーの中でも突出してスピリチュアルに傾倒していることである。彼女はパワーストーンショップのYoutubeチャンネルに頻繁に登場しており、例えばエネルギー大豆(スピリチュアルなエネルギーが込められた大豆)を増やす会を開催したり、木村拓哉さんの母親でスピリチュアル講師を務めている木村まさ子氏と何度も共演している。さらには有名スピリチュアリストである並木良和氏との共著もある。
この日も冒頭から「神様がこの国民運動を応援してくれますよ!」と発言した赤尾氏は、「参政党は日本で初めてできた反グローバル政党です!左右ではなく、反グローバルかグローバルか。グローバル勢力に利権を取られている政党か、そうでない国民のためのナショナリズム政党か!」と参政党としての対立軸を訴えた。
反グローバルは参政党の演説では一貫して主張されており、この党の特徴となっている。さらに赤尾氏は参政党の先行者として米国のドナルド・トランプやフランスのマリーヌ・ル・ペンに言及しており、ここでもポピュリズムが意識されている。
さらに強烈だったのが、「このコロナ禍はプランされていた、プランデミックだったというのが言われているんです!国民を恐怖でコントロールする。次はサル痘、その次は別のウイルスとシナリオが用意されているんでしょう!」という発言である。これを中心人物が堂々と演説できる既成政党はないだろう。そのような過激な発言を政治の場で行う姿に支持者は熱狂している。
5人目:吉野敏明
5人目の吉野敏明氏は反ワクチン・反コロナ言説を調べる中でも何度も目にしてきた歯科医であり、ウォッチャーの間ではメタトロンという代替医療機器を扱っていることがよく話題になる。
ただこの吉野氏、演説は抜群に上手い。参政党の中でも神谷氏と吉野氏は演説が上手いとよく言われるが、支持者でなくても聞いていて面白いのは吉野氏のほうだと筆者は思う。くすぐりも入れながら過激な話を次々に繰り出すその話術には、陰謀論漫談とでも名付けたい風情がある。一方の神谷氏は、その主張に共振する人々を熱狂させるのに長けている。
この日の吉野氏は「元気ですかー!」「元気でーす!!」「私は誰ですかー!」「よしりーん!!」のコールアンドレスポンス(これは彼の街宣でよく行われる定番)で支持者との一体感を高めた後、「65,000人も超過死亡が出ている。大地震があったわけでも火山が噴火したわけでもない、もうアレしかないでしょ!」と聴衆を煽った。ここで言う「アレ」とは勿論ワクチンのことであり、続いて「名前は言いませんが河野太郎ワクチン担当大臣!」と河野氏の批判を始めたことからも明らかである。
ここで詳細な反論は避けるが、そもそも日本の死者数は毎年増加しており、またワクチン接種が進んだ2021年においても、ワクチン接種の開始後に急激に死者数が増えたわけではない。少なくとも、ワクチンのみを超過死亡の原因とするのは性急ではないだろうか。
吉野氏はその後もワクチン批判を続けた後、マスコミ批判にシフト。これは他の街宣でも言われていることだが、「何故マスコミがワクチンの真実を報道しないか。それは株主を辿っていくとJPモルガンに辿り着くからだ。JPモルガンとは何か。ロスチャイルドである!つまりマスコミはグローバリストに支配されており、それは製薬会社や銀行も同じである。NHKをぶっ潰したところで根を潰さないと意味がない。」という旨の発言がされた。
ここで言われる「グローバリスト」とは、ロスチャイルド家に言及していることや吉野氏の他の街宣、さらに「参政党Q&Aブック」にも書かれている通り「国際ユダヤ金融資本」を指す。つまりユダヤ陰謀論を堂々と選挙の街宣で言っていることになる。参政党Q&Aブックには
とあり、単に「グローバル勢力により日本が搾取されている」という話を超えたレベルで陰謀論に傾倒していることがうかがえる。
ちなみにここでは若干のN党批判が行われているが、N党と参政党の間では、N党の黒川氏が参政党の演説会に突撃するという事件が勃発している(ワクチン反対のはずの福岡選挙区の参政党候補(野中しんすけ氏)がワクチンを打つ仕事をしていた疑惑などを黒川氏が追及し始めたため)。
吉野氏はこの後
どこかの都知事なんて山手線を二階建てにするって言っていたんですよ!全然なっていないじゃないですか!そして二階繋がりで二階元幹事長!不動産を外国人に売るルールを整備してしまったんです!
今日は歯磨いて寝て明日は起きて選挙に行く!ババンババンバンバン!選挙行けよ!
といったくすぐりを入れながら話を進め、「あと4時間、響いた動画をLINEで1人30人に拡散」するよう訴えかけた後、「頑張るぞー!」「頑張るー!」のコールアンドレスポンスで締めた。
そしていよいよ話の主は事務局長である神谷宗幣氏に移る。
6人目:神谷宗幣
知名度は高くなかったと思うが、神谷宗幣氏は2007年に吹田市議会選に当選、その後の2012年には自民党の公認を得て衆院選に立候補したこともあり(その際は維新の候補に敗れている)、政治活動歴は長い。参政党と先日の1議席獲得は、長年の政治活動の成果なのだ。
吉野氏の話術で会場の熱気と一体感は一層高まっており、神谷氏の登場に至って周囲からは真打登場という雰囲気が感じられた。神谷氏が開口一番「ここに7,000人いるらしいですよ皆さん!」と人数の推定を発表すると、会場からは驚きと興奮の声が上がる。
続いて「日本にいると右翼と言われる。日本人がなぜ日本のことを大切に思っちゃいけないの。日本人であることに誇りを持っちゃいけないの。それはそういう教育をされてきたから。戦争に負けて、アメリカの良いようにされてきたんでしょうって。いつまでやってるんだよこんなこと!!」と神谷氏が絶叫すると聴衆からは「そうだー!!」「いいぞー!」と会場が揺れるかのような大音声が返され、熱い支持を受けていることが実感された。
続いて話は教育に移り、「なぜこれだけ若者の自殺が多いのに政府は止めようとしないのか。それは受験勉強のし過ぎで社会の上にいる人間の頭がおかしくなっているから。参政党の目指す教育は煉獄さんのお母さんが教えてくれますよ。自分の力を弱い人のため、世のため人のために使う。教育がちゃんとされていないから大人が鬼になっているんでしょ!偏差値エリートは日本を守らない。」と鬼滅の刃を引用しながら既存の体制を批判。ここでも既存体制を全て否定する戦術が使われている。
その後は「この島国は何万年も続いている、我が国は縄文時代から続いている。日本人としてまず自分達の国を誇り、次の世代へ伝えていかないといけないでしょう!」と発言。この「縄文時代から続く〜」日本観には右派スピリチュアルの影響が垣間見える。
そして話題はこれも参政党の重要な柱の一つ、食に移る。ここでは「日本人は何を食べさせられているのか。どれだけの化学薬品を我々の体に入れているのか。どんどん日本人の体を駄目にして、自公政権は何をやっているのか。我々は薬ではなく、病気にならない体が欲しいの!」と主張。添加物忌避と自然派な傾向が見て取れる。右派が得意とする愛国思想の他、本来左派が得意としてきた自然派・オーガニックも取り込んでいるのがこの党の特徴であり、強みである。
この後はグローバリズム批判が続き、神谷氏の話術に会場のボルテージは頂点に近づきつつあるのが感じられた。特に「僕は諦めそうになった時、心の中の小さな声を増幅してきたんだ。日本をナメるな!日本をナメるな!!日本をナメるなって!!!」と絶叫した際には、会場からも上がった「日本をナメるなー!!」という声が轟音となって渦巻き、あまりの熱狂に危険を感じるほどであった。まるで参政党カラーであるオレンジ色の火の玉が、爆発の時を待っているかのようだ。
そして神谷氏は、この時点で既に次の目標を設定していた。
「来年の地方選では1,000人くらいの候補者を出す!そして来たる解散総選挙までに小選挙区全てに候補者を立てる!かかる費用は20億ですむ!20億集めましょう皆さんで!そうすれば一回の総選挙で、自公政権をひっくり返せるんだー!!」と叫び、政権交代までの筋書きを提示。これには聴衆も大興奮していた。このように大きな話をぶちあげ、それと繋がれる感覚を持たせる手法はモチベーションを上げる際には非常に効果的である。
「参政党!」コールに1万人以上が熱狂
このような演説をしているうちに集会も終わりに近づく。「今党員の方が教えてくれました。何と観客が増えて、1万500人になりました!こんなの自民党でも公明党でもできませんよ!」とまさかの1万人超えを発表(後ろから見ていた知人によると、一気に人数が増えたようには見えないが、7,000人程度はいてもおかしくなかったとのこと)。
その興奮を引き継ぐように、いつもの締めの挨拶が始まった。皆で指を突き上げながら行う「イチ、ニ、参政党!」である。これでイベントも終了、どの経路で帰宅するかと筆者が考えを巡らそうとした瞬間、想定外の事態が起こった。
「参政党!参政党!!参政党!!!参政党!!!!」というコールと手拍子、拳の振り上げがどこからともなく発生し、会場を席巻したのである。その瞬間の熱狂は凄まじく、まるで芝公園の空に大輪の花火が打ち上がったかのようであった。明日にでも地上天国が実現するかのような興奮。一応周囲に合わせて手を動かしていた筆者も、支持者でもないのに会場の波に飲まれそうになる勢い。そこにあるのは理屈ではなく、人間の持つ原始的な行動原理を刺激する何かであった。
候補者や党員も言っている通り、ここまでの熱狂を生み出せる政党は他にないだろう。しかしその熱狂を支えるのは新しい政党が作り出す理想郷への期待と、まだ世に知られていない変革運動に初期から関われているという特権意識である。果たして参政党はこの熱狂を維持することができるのだろうか。
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