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2021年版・おすすめ!大人ひとりでも楽しめるミュージカル『ピーターパン』


 ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』2021年度版初日を見てきた。大人が、ひとりで。


 いや、ミュージカルを大人がひとりで観劇することは別段珍しいことではない。この未曾有の感染症禍の中、「ひとり〇〇」の需要はどんどん高まっている……なんて面倒くさい話ではなく。ミュージカルファン・俳優ファンの人達、おひとり様観劇でも劇場に行ったら知り合いにバッタリ会うイベントが頻繁に発生するし、別に知り合いに会わなくてもひとりで見るし、なんなら同趣味の知り合いがリアルにいないことも多々あるし。

――――ただ、問題は演目であって。

 ミュージカル『ピーターパン』といえば40年続く国民的ファミリーミュージカル。たとえば、普段演劇にあまり馴染みのない方々に「ミュージカルといえば?」と聞いたとして。最近はCMや映画、あるいは映像でご活躍の舞台俳優の皆様の影響で、『ライ〇ンキ〇グ』やら『レ・ミ〇ラブル』やらといった名が上がると思うけれども。一昔前ならきっと『ピーターパン』が一番に上がっていたのではないかと思う。某Dがつく夢の企業の功績も相まって、『ピーターパン』というコンテンツ自体は大人から子どもまで誰でも知っているといっても過言ではないだろう。
 が、その「ファミリーミュージカル」「大人から子どもまで誰でも」というのが曲者で。「子ども向け」「親子や祖父母&孫で見に行くもの」というイメージが非常に強い作品、だと思う。というか、イメージもなにも実際そうなのだけど。

 自分はひょんなことから今年、生まれて初めて『ピーターパン』を見に行くことになった。某Dさんとことはほぼ縁がない生活を送ってきたので、大昔に絵本を読んだくらいしか予備知識がない状態で、大人単独で。開幕前1ヶ月切ってから慌てて原案のバリー著『ピーターパンとウェンディ』をゲットしたけれど、これがまた読みにくいのなんの…ってのはまあおいといて。
「大人がひとりで見に行っていいものなのか…?」「親子連ればかりの中で浮きまくったらどうしよう」「っていうか、大人だけで見て面白いのか?」などと、楽しみにしながらも若干の不安にさいなまれつつ初日を迎えたわけだけども。多分、同じように不安で、でも興味はある方々がいらっしゃると思う。というか、いてほしい。いや、むしろ積極的に興味を持ってほしい。


 前置きが長くなったけれど。「ピーターパンといえば相原勇」世代なオタクによる“大人ひとりでも楽しめるブロードウェイミュージカル『ピーターパン』2021”を、なるべくネタバレなしで書いてみる。初日公演を見てすぐ書いているので目が足りない部分はどうしても出てくるだろうし、なにしろ今回が初ピーターパンなので2019年以前のことはさっぱりだけども。「見てみようかな、どうしようかな」と思っていらっしゃる方に届けば幸い。



~あらすじ~

 ロンドンのダーリング家はダーリング氏・ダーリング夫人・ウェンディ・ジョン・マイケル、それに乳母である犬のナナの5人+1匹家族。ある日、お母さんであるダーリング夫人は「不思議な侵入者」を目撃し、その侵入者の落とし物をタンスにしまう。
 夫妻が晩さん会に招待を受け子供たちだけで眠りについたある日の夜、侵入者ことピーターパンは妖精ティンカーベルと共に落とし物を取り返しにやってくる。永遠の少年であるピーターは目を覚ましたウェンディに「母親」を見出し、「一緒にネバーランドにおいでよ」と誘う。ウェンディは弟達と共にピーターがかけた妖精の粉によって空へと舞い上がり、ネバーランドへと向かう。
 たどり着いたネバーランドはピーターとその仲間である「迷子たち」、タイガーリリー率いる「森の住人」(※多分、今はインディアンと言えないんだと思う)、そして左手が鉤のフック船長率いる「海賊」、3つの勢力が互いに争う土地だった。ウェンディは迷子たちの母親になり、毎日忙しく過ごす。一方、一見怖そうだが妙に抜けているフック船長一味はピーターパンと迷子たちを亡き者にしようとあれこれ策略を立てるが…?


~主なキャラクター~

・ピーターパン
 日本では男装の少女が演じるのが通例なピーターパン…と言うといわゆるアイドル枠っぽい感じに見えるけども。吉柳ピーターは「キラキラしたやんちゃな男の子」以外の何者でもなかった。多分、本物の少年ではあの地に足がついていない感や生々しさのないキラキラ感は出ないだろうな、と素人ながらに思ったり。声が綺麗で歌がうまい。運動神経抜群。表情がくるくる変わる。勇ましく頼もしい座長さん。

・フック船長
 溢れ出る小物感(※褒めてる)。偉そうにしているのに考えつく作戦がどれもこれも妙にセコい(※褒めてる)。何をやらせても情けなさ満載(※褒めてる)。
 中の人である小西さん、ご本人もパンフで「これまでシリアスな役をいただくことが多かった」的におっしゃってたけども。多分、よく演じる系の役っぽいのを期待していくと超絶裏切られる。振り切れ方がものすごくてよくぞここまでと感心する。運動量もものすごい。
 どこかのインタビューでダーリング氏とフック船長を同じ役者が演じることについて語ってらしたけども(←多分有料記事なので内容は割愛)、実際見るとああなるほどそういうことかーと思う。

・ウェンディ
 少女らしい愛らしさの具現化。さすがは3人姉弟の長女、面倒見がいい。ピーターが男装の少女なので、よけいに「女の子らしい」を強調したキャラクターなのかなと。最初は発声方法が独特だなーという印象だったけど、ラストとの落差をつけるためかなという気がした。表情の演技がお見事。

・ダーリング夫人
 しっかり者の美しいお母さん。正直、なんであのご夫君を選んだのかが不思議なレベル。ウェンディの「お母さん」のイメージは自分の母親なんだなーというのがよくわかる。兼役のダチョウとの落差がすごい。というか、想像の50倍くらいダチョウ大活躍。
 
・タイガーリリー
 勇ましく明るい、野性味あふれる女族長。みんなどこか抜けてる海賊たちと比較して森の住人たちがわりとまともなのは、やはりリーダーの資質の違いなんじゃないかと…(not中の人)。身が軽い。幼児番組の体操のお姉さんっぽい。

・ナナ(犬)
 出てくるだけで大人も子どもも大喜び。よく働く犬。「…犬…?」と思う方、ぜひ劇場へ。

・マイケル
 ちっちゃいのにうまい。ロンパース超かわいい。


~見どころ・その他~

 基本的にファミリーで楽しく観劇する演目なので、未就学児でも楽しめるようなコミカルなシーンが多い。ピーターと敵役であるところのフック船長一味との戦いも、トムとジェリー的なコミカルさがある。いい意味で懐かしい、古くからある笑いの取り方だと思う。今も昔も子どもはこういう笑いが好きなんだなあと劇場での反応を見ていて思った。
 今回の演出家・森さんが「ネバーランドの住人は全員子ども」とおっしゃるだけあって、出てくる人物全員がみんなハイテンションで子どもっぽい。着ぐるみが出てきたりパペット的なものが出てきたりもする。ただ、字面だけで見ると「じゃあやっぱり大人はお呼びじゃないんじゃない?」となりそうだけど、決してそんなことはない。パペットその他のデザインや世界の色使いはかなりシックだし、ラストは大人が見るとグッとくるものがあると思う。
 そして布や影絵などを結構使う。映像をあまり使わないアナログな表現で、見る人の想像力にゆだねる部分が多い演出なのかなーという気がする。シーツやカーテンが他のものに化けたり、シンプルなセットが場面によっていろんなものに変わったり、子どもの頃のごっこ遊びのようなイメージ。「ネバーランドは子どもの空想上の世界」というのが視覚でもわかりやすいと思う。

 なんていうのかな、「子ども向けだけど子供だましではない」と言えばいいかな。子供たちのために上質なものを作ろうと大人が懸命に力を注ぎこんで作った作品、だと思う。なので大人も童心にかえって楽しめる。あと、フライングや妖精の粉はやっぱり心が躍る。

 東京公演は生オーケストラ。なんと21年ぶりの生オケ復活だそう。地方公演にはオケが行かないの残念。公演時間は1幕60分・休憩20分・2幕65分の2時間25分。終演後は後列からの規制退場。
 
 物販は今回公演のグッズに加えて前回以前のものも。500円のガチャガチャ機もある。東京公演に限って言えば、ロビーにジオラマっぽいのが飾ってあったり過去公演出演者のコメントがいっぱい貼ってあったり。フォトスポットもあって等身大ピーター&船長と写真が撮れる←開演直前や幕間は結構並んでいた。



 初日なので特別かもしれないけれど、と前置いて。子連れと大人オンリーは2:1くらいかな?と周囲をざっくり見て思った。未就学児どころか3歳以下のおちびちゃんもちょこちょこいて泣き声も頻繁に聞こえたけど、自分は気にならなかった。
 ただ普通のミュージカルと比較するとやはり途中のお子さんの私語等は多いし、飽きちゃったのであろうガサガサ音や椅子を蹴る振動などもあったりするので、そういうのがどうしても苦手な人にはお勧めできない。キャストFC席なら大人が多いだろうけども。


 以上、初日一回しか見ていないので本当のほんとにざっくりとだけど“大人ひとりでも楽しめるブロードウェイミュージカル『ピーターパン』2021”終わり。

 東京公演は緊急事態宣言の影響でチケット売り止め、当日券もないけれど。もし譲渡で見つけたらぜひぜひどうぞ。神奈川公演も会場が都内からそう遠くない相模大野で、そちらだったらまだ普通にチケット購入可能。その後は大阪→仙台→名古屋と1週ごとに地方を回るので、東京神奈川に行くのは不安だなあと思う方はぜひそちらで。

 こういうご時世なので「絶対足を運んで」とは言えないけれど。気が滅入るあれこれを一時忘れたいなーと思われる方、よかったらネバーランド探訪を選択肢に入れてください。どうぞよろしくお願いします。