トラウマ
何が引っかかってたのか考えた。
あの最後の日、確かにランチに行きましょうって約束したつもりで、
良いですよって言われた筈だった。
結局忙しいから、また、ってなってたけど、それは仕方ない。でもあの人はその日、お弁当を食べていたんだ。
最初から行くつもりなかったんだなって、
そうゆう細かい事が気になったんだ。
それで、思い出した。
なんで、「やめたい」って思ったか。
私にとっては、「次に新しい案件きたらやらせて下さい」「ああ、いいですよ。つまらないですよね、同じ事するの」これは、約束のつもりだった。
でも、いくつ案件が入っても、呼ばれる事はなかった。
「なんでわたしだけ入れてくれないんですか?一緒にやりたいから呼んで欲しいです。」
確かに私ははっきりそう言って
「良いですよ、まだはっきり決まってなくて」
ってそう言われて、はっきり決まろうと決まらなかろうと、その後呼ばれる事はなかった。
後で聞いたら、「私がいると、全て終わってしまうから呼ばなかった」って事だった。
呼ぶ気はないのに、あの人は、何度も何度も、良いですよって言った。私は何度も期待して、裏切られて、またあの希薄な「良いですよ」に何度も何度も騙された。
言葉をなんだと思っているのか
約束をなんだと思っているのか
最後にやめたいって思った時、新しい案件は別の人が担当になりますと発表があって、私は、ああこの先も、この人は、こんなつまらないどうでもいい案件を私に押し付けて、口先だけいいこと言って、新人たちに楽しい案件をやらせたいんだなって思ったんだ。
仕事は選べない、上司も選べない。そんなのはわかってる。
けれど、私は何度も何度も新しい事をしようとして、一歩出ようとする度にぶったたかれて整列させられて、それをもっともらしくいい事だって説明されて、理解したつもりになった。
私にとって、開発も運用も、難しい事なんてなにもなかった。分かることをやる事以上の何もなかった。この人は、私の仕事の飢えを埋めてくれる人なんじゃないかって、ただ純粋に信じてしまった。
だから悲しかった。
最終日のあの日、お弁当を食べるあの人をみて、ああ、軽い。また嘘だったのかって思った。
私にとっては約束だったのに。
私がやめる少し前、後輩が辞めてった。不器用で間の悪い男だったけれど、悪い奴ではなかった。彼がチーム内で疎外されていくのをただあの人は見ていた。私のチームの後輩の女の子に、毎日彼の愚痴を言っていたからだ。
その子は良かれと思って、彼を、指導しようとしていた。
確かにあの人がきっかけを作ったはずなのに。
そうして今度は同じチームの女の子に相談された。最近上司の事が分からないと。急に何も情報共有がなくなったと。急に、そうゆうのは止めろと言われたと。
私が辞めると彼女に言った時、彼女は、もう私の味方になってくれる人は居なくなってしまうのですね、と、私に言った。
彼も彼女も私と同じだ。あの人を信じて、そして裏切られたんだと思う。
私は今でも、彼女たちを見捨てたんじゃないかって罪悪感でいっぱいだ。
一人逃げ出したんじゃないかって。
だから苦しい。そんな事はその人達が勝手に行動した事だってわかってる。けれど、その原因を自分の中に探してしまう。
そうでないと、自分が納得できないからだ。
そんな風に落ち込んだとき、救ってくれるのはいつも彼女だ。
気付いてくれるのもいつも彼女だ。
大丈夫ですよ、って言ってくれる。
私は彼女が正しいかどうかは、分からないけれど、ただ、あの真っ直ぐな言葉たちが、
正直だな、と思う。全部嘘じゃないって信じられる。
そうして、自分はまだ大丈夫かもしれないって、ただそれだけを思える。
私は、それでまた前を向いていられる。
今ままだ、後輩たちが心配でたまらない。今もまだ、皆に好かれていると信じているあの人が、心配でたまらない。
けれど…彼女がいるならば、きっとなんとかなるんじゃないかって、そう思う。きっと…。