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「エグザイル 愛より強い旅」--ピエ・ノワールとアルジェリア人の旅

「ガッジョ・ディーロ」で知られるトニー・ガトリフ監督作品。父がアルジェリア出身のカビリ(ベルベル人)、母がロマ人という出自が、作品にも投影されている。
この作品は、1830年から130年間にわたりフランス植民地だったアルジェリアで、父や祖父が「入植者」として暮らしていた男性主人公ザノと、その恋人のアルジェリア系フランス人ナイマが、それぞれの思いでアルジェリアの首都アルジェを目指すというロードムービー。
アルジェリアからの引き揚げ者は「ピエ・ノワール」(黒い足)と呼ばれ、その後のフランスでさまざまな分野で活躍する。アルベール・カミュや、イブ・サンローランがその代表格。ザノが、アルジェに昔のまま残された祖父の家(アルジェリア人家族が住んでいる)を訪ねる場面があるが、独立戦争に敗れて、本当に着の身着のままでフランスに逃れた人も多かったことだろう。
ザノとナイマのカップルは、祖先が「支配するものと支配されるもの」という関係にあったという見方もできるが、この映画ではそうした対立点というよりは、同じようにルーツを探す者としての親密性、共通性が強調されているといえる。
ただ、アルジェリア系だが、母語のアラビア語を話せないなど、出自と切り離された人生を送ってきたナイマのほうが、アルジェという土地の刺激が強かったといえる。民俗信仰が混じり合ったような、イスラーム神秘主義のズィクルの渦中という、刺激の極致のような状況に置かれ、ナイマの内面に大きな変化がもたらされるところが、クライマックスとも言える。
そうした2人の「自分探し」とも見ることができる旅の道程は、フランス→スペイン→モロッコ →アルジェリアと、地理的には、地中海世界を反時計回りに半周する形になっている。この点も興味をそそられる。この映画は、長い歴史を持つこの地域のグラデーションを、音楽や視覚を動員して、情感豊かに描き出すことに成功したと言える。流れるように移り変わる風景は、2人の内面の変化と重なるかのようでもあり、それがこの作品がもたらす強い感動の大きな要因にもなっている。

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