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問題提起といやしの「合わせ技」…ノルウェー映画「ヒューマン・ポジション」

氷河が作り出したフィヨルド地形に囲まれた美しい街、ノルウェー・オーレスンが舞台。病気休職を経て、地元新聞社に復帰した女性の仕事とプライベートを、北欧の風景や街並みとともに描く。女性は記者として、ある事件をきっかけに消息を絶った難民申請者の行方を追いかけている。

と、書くと、社会派作品の範疇という印象にもなるが、みていて、そういう雰囲気がほとんどない、静かで淡々としたタッチの不思議な映画だった。美しい風景とともに静かで端正な生活を表現した、「癒し」の映画という評価もあるようで、確かにそうなのかも、と感じた。

「ヒューマン・ポジション」という作品タイトルは、「消えた難民申請者」の問題を追いかける中で、ノルウェー社会をみる上での、自身の「立ち位置」に悩んでいる主人公のありようを表現しているようだ。ただし、そうした様子を過度に深刻にはとらえず、淡々としたトーンの映像で表している。そのあたりが、なんとも不思議な雰囲気を醸し出している。

監督のアンダース・エンブレム監督は、作品の舞台であるオーレスン出身。「ノルウェーで最も美しい」ともいわれるこの街を知り尽くしているようだ。また、作品では、スタイリッシュな北欧家具の椅子も重要な小道具として登場する。その椅子の座り心地についてのシーンは、家具だけの話ではない、もっとスケールの大きな「人生の心地よさ」のメタファーとして描いているようだった。「ヒューマン・ポジション」というタイトルは、その点でも意味ありげだ。

ちょっと面白いと思ったのは、主人公とパートナーの共同生活の中で現れる日本文化受容の様子。それぞれ柔道着と浴衣を着て、箸を使って食事をとったり、よくルールはわからないながらも2人で囲碁を打ったり、日本の古い映画を鑑賞したり。日本に旅行する人が世界的に増えている中で、ノルウェーでも、日本の文化への興味・関心が高まっていることが、そうした場面からもみてとれる。

9月14日から、東京のシアター・イメージフォーラムなどで上映が始まる。


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