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「マリアムと犬ども」--チュニジアの「アラブの春」の一断面

8回目のイスラーム映画祭。今年も東京・渋谷のユーロスペースで始まった。いわゆるイスラーム地域や、欧米などのイスラーム地域に出自を持つ人々を扱った作品が上映される貴重な機会。
毎年、主宰者である藤本高之さんの問題意識が、作品のセレクションや、上映後のトークに反映されている点もとても興味深い。今年は、初日からそうした映画祭のトーンが強く感じられたような気もした。
初日、1回目の上映作は、北アフリカ・チュニジアの「マリアムと犬ども」。2012年に実際に起きた、警察官による性暴行事件を題材にしている。
チュニジアは2010年12月に、中東の民主化運動「アラブの春」の発火点となり、最初に政権変更が実現した国だ。
「ジャスミン革命」とも呼ばれるこの大変動が起きた翌年に、性暴行事件は起き、チュニジア国民の警察や権力への怒りは沸騰したという。
作品は、「革命」後の女性の社会進出、伝統的価値観と西洋近代的な価値観の相克、民主化運動の変節、といった、この時期の混沌とした状況がベースにある。
主人公のマリアムは、地方から首都チュニスの大学に進み、女子寮で門限を気にしながら、都会の華やかな私生活も楽しみむ学生。クラブでダンスパーティを企画する一方で、イスラム教に根差した伝統的な価値観も持っている。
警官に暴行を受けた時、そうしたマリアムの価値観の二重性は、彼女が事態に対応を複雑にする。
告訴するかどうか迷う時、マリアムの口から「神が罰してくれる」とか、「復讐してやる」と言った言葉も飛び出す。イスラム社会が持つ、西洋的な法治主義とは異なる感覚を抱えている女性として描かれており、そうした女性が、「革命」後に起きた既存の価値観の揺らぎの中でどういう選択をしていくのかが、この作品の見どころ、と言えるかも知れない。「革命」後のチュニジアを2度、訪れたことがあるが、マリアムが抱いた葛藤と同質の苦悩を抱える人々と会ったこともあって、この作品が描きだそうとしたものが、具体的には異なるものであっても、チュニジア国民に共通しているものなのだと思った。


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