ずっと一緒

 僕は3歳の時に不思議な体験をした。
 そう、いわゆる霊感というものに初めて出会った瞬間だった。
 全ての始まりは、母方の祖母の実家に泊まった夏のことだった。よく、夜にトイレ目が覚めるのだが、トイレから戻って布団に入った時に聞こえてきたのだ。
「こっちにおいで、怖くないからこっちにおいで」
 祖母も母親も兄も眠っていて、僕にだけしか聞こえていない。声をするほうに目を向けると、仏壇の周りにある写真の1枚に目が留まる。
 老人と老婆が笑顔で二人並んで撮られた写真であった。その写真がその時だけは、こちらに向かって歩いてきているのだった。歩きながら僕に呼びかけていたのだった。
 その日を境に僕は霊感があることを知ってしまった。翌朝、母親に夜のことを告げると、案の定、否定されたのだった。
「そんなのあるわけない、うちの家系に霊感がある人は誰一人いない」と。
 僕の体験を信じる者はいなかったが、霊感がさらに強くなったと実感したのは、大学生のときであった。
 小学生から高校生までのなかでも心霊現象や見えないものが見えるなど当たり前になっていたのだが、大学生のときは違ったのだ。
 何が違うかというと、当時一人暮らしをしていたアパートに僕は黒い影の男性と一緒に生活をしていた。金縛りにはほぼ毎日かかり、キッチンで料理をしている間、節約のために電気を消すと黒い影はいつも部屋の真ん中に立ち、僕を見つめている。
 ご飯を自宅で食べるときは、彼の分も必ず作り、彼の立つ近くにご飯とおかず、水を並べる。霊がご飯を食べることはないのだが、毎日水だけは気づくと半分以上減っている。彼が飲んでいるのかは定かではないが、これを大学卒業するまで毎日繰り返していた。
大 学を卒業してから、交際していた女性の知り合いに霊媒師のような力のある男性がいるとのことで、紹介され霊視をしてもらった。その結果、僕には複数の霊が憑いているのだという。
 正直なところ、そんな気が僕はしていた。霊媒師のような男に対し、僕は覚えていないがこう言い放ったのだという。
「あなたには私を引き離すなど無駄だ、彼と私はずっと一緒」と。
その一言にその場は凍り付いたのだと、当時交際していた彼女が後日話していた。
霊視の後、僕は感覚的に彼女へこう言った。
「あの霊視してくれた男性、事故に気を付けたほうがいい。大きな事故。」
彼女は特に気にしていなかったが、後日、霊視をした男性は交通事故に遭い、重傷だった。この事故をきっかけに、その彼女とは別れた。この霊感や霊の力が強すぎるために。
社会人となってからも霊とのつながりは深い。黒い影は変わらずおり、どこに行くにもついてくるのだ。守ってくれているのかはわからない。彼の感情も未だにわからないが、事実なのは未だに霊感が健在であるということ。
心霊スポットには絶対行かないと決めていても、そうでないところでも必ず霊とは出会うことは多く、引き付けやすい体質のようである。
 いわゆる除霊といったものは専門ではないが、そこに浮遊する霊の姿や声、感情を読み取ることはできる。彼らが今どうしてほしいのか―
 僕に憑依するということはほとんどないが、憑依しているのは1人だけ。そう、黒い影である。彼は、僕に対して必要な時に憑依する。霊は善でもあれば、悪になることもあるのだ。僕が怒りでなりふり構わず呪おうと思えば、霊は悪になり、僕を守ろうとすれば善となる。
 僕は1度だけ怒り狂ったことがある。その時とある人を呪いたいと思った。強く願うと、夢にその人が出てくる。黒い何かが、見えない何かを振りかざしている…。何度も、何度も。そして黒い影は僕に言う。
「君のためにしているんだ、君は何も悪くないんだよ」と。その瞬間にやりと笑っているように見えた。
 翌日、ふとつけたテレビで、ある人は亡くなったのだと、ニュースで流れた。僕はその時ゾッとしたのだった。
 今日も僕には黒い影がまとわりついている。
 そう、「ずっと一緒」だから。


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