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2つの貯金

あるカップルのお話です。


彼の名は、太郎さん。
彼女の名は、花子さん。

2人が結婚する前の交際期間、花子さんは貧乏生活をしていました。
主食はパン耳、嗜好品は断念、毎月の光熱費の請求額を前月よりもいかに少なくするかに情熱を注ぐ節約生活真っ最中。
デートで外食する際は、いつも太郎さんがご馳走してくれました。
でも、花子さんは自分の手料理も振舞いたい。
恋する女のパワーはすごいので、限られた食材で、喜んでもらえる料理を作る術を、花子さんはその時期に得ることができました。

すると、その手料理に感激した太郎さんは、その食事にお金を払うと言い出しました。
もちろん断った花子さん。
でも、花子さんの節約生活を知る太郎さんは、一食ご馳走になるたびにせめて500円払わせて欲しいと言って引き下がりません。
それでも絶対に受け取る気はない花子さん。
宙に浮いてしまった500円。
そこで、花子さんの手料理を食べるたびに太郎さんは、『太郎貯金』として、毎回500円を袋に貯めることにしたのです。

また、太郎さんは器用で、ちょっとした棚や建て付けの不具合、機械の故障など、花子さんが困った時にはパパッと作ったり、直したりしてくれました。
本来業者さんに頼むとしたら、材料費とは別にけっこうな工賃がかかるはず。
花子さんは、きちんと工賃相当のお礼をしたい、と言いました。
すると、「じゃあ、それも貯金しよう」と太郎さん。
今度は、太郎さんへの工賃相当額を、花子さんが『花子貯金』として、貯めることになりました。

こうして2人の間で、『太郎貯金』と『花子貯金』という2つの貯金袋ができあがり。

さあ、そんな双方の貯金が、1年経過してみるとそこそこの額に。
ちょっと遠くへ2人で出かける旅費くらいにはなるのです。
交際中はこの2つの貯金のおかげで、お出かけ費用を心配することはありませんでした。

さて、その後めでたく2人は結婚し、2つの貯金袋は消えました。
お財布は一緒になるので、花子さんがご飯を作っても、太郎さんが何かを作ったり直したりしても、当然ながらお金のやり取りは発生しません。
お出かけする際の費用も、日々の生活に追われると捻出するのに一苦労です。

結婚してとても幸せになった花子さんですが、ときおり、あの2つの貯金生活を懐かしく思い出すそうです。
何かをしてもらった感謝の気持ちを、きちんと形にしていたあの頃。
どれぐらい助かったか、貯まった金額で実感できたあの頃。
お金も、いい仕事をするものです。



家族という身近な人に対しては、つい、やってもらって当たり前と思ってしまいがち。
そういえば、わが家のトイレにある格言にも、こうあります。

ときおり来て涙を流してくれる人よりも
いつもそばにいて汗を流してくれる人にもっと感謝しなさい

若い頃は、格言カレンダーなんて「ケッ」と思っていたのですが、夫がトイレに掛けていたものを眺めてはふと「じーん」とするようになってしまいました。

身近な家族に「ありがとう」、忘れちゃいけないなぁ……と思うこのごろです。



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