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オランウータン

「オランウータン」には、特別な思いがあります。

小学校の頃、前髪を伸ばそうとした時期がありました。
伸びてきた前髪が邪魔なので、横に分けてピンで留め、初めておでこを出して登校した日のこと。
当時好きだったクラスの男の子が、わたしを見て言いました。

「オランウータンみたい」

好きな男の子からサルに例えられて、内心とてもショックだったのですが、わたしはそれを悟られないように、「はあ?」とだけ答えました。
すると、その男の子が続けて言いました。

「知らない? この前ちょうどテレビで見たんだよ、オランウータン。ソックリ!」

もちろんオランウータンは知っていたし、かなり傷ついたので、すぐに前髪を分けているピンを取りたかったのですが、「その子に言われたから取る」というのがなんだか嫌で、そのままにしていました。

その日、その件とは別のことで、その男の子とケンカしたわたし(原因はすっかり忘れました)。彼とはしょっちゅうケンカしていたのです。好きだったのにな。好きだったからかな。
口喧嘩で負ける気がしなかった当時のわたしは、おそらくコテンパンに彼を言い負かしたのでしょう。
その男の子は下校時に、大勢の生徒がいる中でわたしに向かって、「あっ! オランウータンがいる! オランウータンッ! オランウータンッ!」と大声で何度も叫びました。
多くの生徒の視線を感じながら、彼の声を完全無視して下校したおでこ全開のわたしですが、家に辿り着くまでの間、ひそかに涙した帰り道。

涙を拭いて帰宅すると、祖母がいつものように砂糖とクリープたっぷりの珈琲を淹れてくれました。「クリープ」。懐かしい。
甘く優しく心にしみわたる、祖母のお気に入りのカップに淹れられた珈琲。
そして、向かい合って珈琲を飲む祖母を正面から見ながら、わたしは思ったのです。

「おばあちゃん、オランウータンにそっくり……」

遺伝だな。仕方ないな。
翌朝も、前髪はピンで留めて、おでこを出して登校したわたしは今、オランウータンはけっこうかわいいと思っています。


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