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壊れたヘッドホン 〜ちょっとせつない話〜

息子が大事にしていたヘッドホンが壊れてしまった。
床に置いてあるのを気づかずに踏んでしまい、耳当て部分が根元から折れてしまったのだ。

メルカリで調べてみると、同じ品で状態のいい中古が安く売っている。
「これでもいい?」と尋ねたところ、こんな返事が返ってきた。

「これサンタさんからのプレゼントやねん。だからこれを修理して欲しい」

この言葉に私は胸が熱くなった。
なんでもコスパで考える自分はなんてさもしい大人になってしまったんだ。

「そうやったな。物を大事にするのはいいことや。これ修理に出そう!」

早速、修理センターに問い合わせてみると品物を送って欲しいとのこと。

「状態を確認してから、見積もりを出させていただきますね」
「いえ、見積もりは結構です。即修理でお願いします!」

お金など問題ではない。
私は清々しい気分でそう答えたのである。

1週間後、修理センターからヘッドホンが返ってきた。
修理代と送料合わせて800円。ほぼ無料で修理してくれたことになる。
こちらの過失なのに申し訳ないなぁ。感謝の気持ちを抱きながら箱を開けた。

「あれ?」

なんと箱の中からは未開封のケースに入ったヘッドホンが出てきたではないか!
ご丁寧に送っていないはずの付属品まで一式で付いている。

察するに人の手で修理するより、新品と交換してしまった方がコストはかからないのだろう。先方としても悪気があってのことではない。むしろこちらに過失がある修理品に対して、無料で新品と交換してくれているので感謝しないといけないくらいだ。

しかしだ。

今回に限っては事情が違う。
あの使用感があるヘッドホンには、手垢とともに「サンタさんからのプレゼント」というプレミアがついている。だが今さら修理センターに連絡したところで処分されているだろう。
悩んだあげく気づかないかもしれないと思い、なにも言わずしれっと渡すことにした。

「ヘッドホン返ってきたで」

そういって息子に渡してみると、受け取ったヘッドホンをじっと見ている・・。

「これ、新品ちゃう?」

(はい、大人の事情で)

少しかわいそうに感じたのだが、息子はそれ以上なにも言わず、黙ってヘッドホンを使用し始めた。彼なりに思うところがあったのかもしれない。

こうやって僕たちは長いものに巻かれていくんだなぁ・・・。

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