「CAEが使える」という言葉の罠

CAEが使えるとはどういう状態を指すのか。たいていの場合メーカーとCAEベンダーで認識が異なることが多い。この認識が異なったまま購入してしまうと結局メーカーの経営者や管理者にはCAEは使えないというレッテルをはられ、ライセンス費用だけを払い続け、使われることのないソフトウェアだけが残ることになり、儲かるのはベンダーだけという構図が出来上がる。多分ベンダーはその状態にするために言葉巧みに営業するし、導入のためのサポートには最大限の支援を惜しまない。それはベンダーはソフトウェアライセンスを売ってしまえば利益が上がるためであり、その後サポートを使わず文句も言わず毎年更新だけしてくれるサイレントカスタマーをどれだけ抱えられるかが利益の面で重要になるためである。
私からするとこれはもう、ほぼ詐欺と言ってもいいのではないかと思う。

では、CAEベンダーが言う「CAEが使える」とメーカーが思う「CAEが使える」はどういった違いがあるのか。

メーカーが思う「CAEが使える」状態とは、CAEを使って新製品の開発であったり、設計プロセスの変革であったり、製造時の不具合の対処であったりと、メーカーのQCDや利益に貢献した成果が出せることである。決してCAEソフトウェアが操作できるようになって、綺麗なコンターやアニメーションが描けるようになることではない。

一方、ベンダーの言う「CAEが使える」とは、まさにCAEソフトウェアが操作できる状態になることであり、その後CAEをどのように使うかや、さらにその先のメーカーがどのように利益をあげるか等は二の次であったりどうでもよいことであったりする。もちろん口ではCAEを使えば利益が上がる等いろいろ言うだろうが、そこをベンダーが支援してくれることはないし、してくれたとしてもそれはソフトウェアとは別に費用が掛かる。

ここにそもそもの暗黙的な認識の差が存在する。

ベンダー側はメーカーが思うことはわかっているにも関わらずそれをまず口にすることはない。それは、そこまでベンダーが支援したところで更なる目先の売り上げにはつながらないからである。そのため、メーカー側は、CAEを導入してソフト操作ができるようになったとしてもメーカー内で売り上げをあげることができないし、ベンダーに問い合わせてもそれはユーザー責任として相手にしてもらえないのでベンダーに騙されたという感情になる。

このようなベンダーに騙されないようにするためには、ユーザーはどうするとよいのか。
一番の対策は、CAEを正しくメーカー内に活用できるCAEエンジニアを採用することである。もちろん自社内でCAEに投資し教育し育てていくことができるだけの費用と時間があればそれに越したことはない。しかし、技術が早く進化・変化していく中では、CAEエンジニアを内製化して一から育てていくのは現実的ではないと思う。ちなみに、外部コンサルに依頼するのは自社の製品の売り上げと技術開発にコミットした場合でなければCAEベンダーと同じ結果になるのでお勧めしない。

このような構造になるのは単にベンダー側の構造の問題であると思っている。しかし、今後このベンダー側の構造的な問題をどうにかしなければ商用CAEソフトウェアが大手や一部のヘビーユーザーにしか使われず、中小企業を含めたメーカー全体やモノづくりの基幹技術として広がっていかないのではないかと思う。


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