CAEを自動化すると設計者は馬鹿になるのか!?

CAEの自動化開発をすると言うと必ずと言っていいほど聞かれる反対意見。この意見に屈するとCAEの自動化はおろか、他の自動化や効率化も頓挫することになる。

この意見の大半は、保身によるものと思っている。自動化することで、これまでその人が暗黙知としてひた隠しにしていたことが明るみになることやそれによりその人が必要とされなくなるという恐れからの発言であることがほとんどのように思われる。もうこれはその人に時代遅れですよと一蹴し退場いただくのが早いがそれをしてしまっては、その人の中にある暗黙知を失うこととなり損失である。そういう人こそ多くの暗黙知を持っているので活用しない手はない。

また、CAEを自動化すると設計者は馬鹿になると言っている人はCAE自動化により達成しようとすることがわかっていない可能性が高い。CAEを自動化できるのは解析作業手順が明確で感覚的にでも基準が決まっている作業に限られる。逆に言うと解析作業手順が決まっておらず、新たな設計を行うときなどに、解析工程を新たに考えながら創って行くことは自動化できない。あくまでも単純作業と化した解析作業だけが自動化の対象であり、その作業を行っている時に設計者は少しは考えているもののすでにわかりきった手順を単純に繰り返しているに過ぎず、その状態がクリエイティブとは言えないと思う。

そのため私としてはCAEを自動化することは組織にとってメリットしかないと思っている。とはいえCAE作業の一部分のみを自動化したところで大したメリットはないので、ここでいうCAEの自動化とは単にメッシュ作業の一部だけ、解析実行だけというような作業の部分的な自動化ではなく、CAE作業全部の自動化であり、使う人は一切の解析作業をすることなく、例えば設計者なら設計した形状を入力したらその形状の合否はおろか最適形状までを自動的に得られるCAE作業全工程の完全自動化のことである。

CAE自動化によるメリット

CAEの自動化をすることによるメリットとしては次のものがあると考えている。
・作業工数の大幅な削減によるコストダウン
・暗黙知の形式知化による経験と知識の可視化及び蓄積
・膨大な数のケース検討による最適解の取得
・人に依存しない解析結果の取得
それぞれ詳細を次に述べる。

作業工数の大幅な削減によるコストダウン

これは言わずと知れたこと。人間が単純作業から解放されるため、これまで解析作業していた時間を他のクリエイティブな時間に充てることができる。

暗黙知の形式知化による経験と知識の可視化及び蓄積

自動化する際にその手順をプログラム化するため、作業手順が明確に可視化される。また、判断基準も数値的に決めなければ自動的に判定できないために、感覚的に判断していた基準も厳密に数値化する必要がある。その意味で、感覚的な作業のすべてが記述されることになり、形式知化される。これはその後の教育や判断基準の見直しにも有効で組織としての知識化にもつながる。

膨大な数のケース検討による最適解の取得

最適化ソフトを売っているベンダーがよく口にすることでもあるが、最適化は自動化が達成されていなければできないことである。CAEの自動化が達成されることで初めて最適化に乗せることができるし。CAEが自動化されていれば設計パラメータのすべてを設計変数とすることが出来たり、複合領域の最適化も可能になる。これにより、今まで検討できなかった条件やケース数を行うことで新たな可能性を見出すことができる。

人に依存しない解析結果の取得

CAEを専門に行っている人であれば暗黙の事実であるが、CAEは行う人によってほんの少しでも入力が異なれば結果も異なる。特に人によるばらつきが大きいところとしては、形状単純化の違い、メッシュの違い、解析パラメータの違いである。これにより同じ形状、同じ解析条件であるはずにも関わらず出てくる結果が異なることがある。CAEを知らない人からするとなぜこのような違いが出てくるのか、何を信じてよいのか判断に困るが、自動化することで入力条件が同じであれば誰が実施しても同じ結果を得ることができるようになる。

これまでいくつかのCAE自動化を実施してきたが、そのすべてでCAE自動化開発を始めるときに初めから周囲に理解されたことはない。基本的には反対派しかいないような中から開発を始めて、開発終盤に効果が見えてくるとこれまで反対していた人たちが手の平を返す。そして初めから効果が出ることはわかっていたと言う。「それオレ詐欺」に合うのは覚悟した方がよい。


コンピューターはミスをしない、ミスをするのは人間が行う入力である

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