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カエサルのストリクスヘイヴンチャンピオンシップ参戦レポート


 私はカエサル、プレインズウォーカーだ。

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 今回はストリクスヘイヴンチャンピオンシップに参戦した記録を残そうと思う。

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(↑画像はMTG日本公式Twitterから)

・チャンピオンシップとは?

 ストリクスヘイヴン チャンピオンシップ? いきなり言われてもわからないと思うので解説すると、それは2021年6月4~6日に行われた、賞金総額250,000ドル(日本円にして約2700万円!)が懸かったマジック最高峰の大会だ。優勝者にはなんと15,000ドルの賞金が与えられる。

 昨今の状況を鑑みて大会は紙のカードではなく電子版のMTGArenaというソフトを使って行われ、チャンピオンを決めるため3日間の激闘が行われる。

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(↑MTGArenaのゲーム画面)

 出場できるのはマジックのプロ選手や厳しい予選大会を潜り抜けた合計251人のプレイヤーだが、私は運よく予選通過し出場することができた。もちろん私はこんな大規模な大会に出場するのは初めての経験で、予選を通過したときは嬉しさに震えたものだった。

 このマジック:ザ・ギャザリングというカードゲーム、将棋や囲碁と違って対戦に大きく運の要素が影響するため、強いプレイヤーが常に勝つというわけではない。

 運が悪ければプロの世界チャンプだってあっさり負けてしまうし、並外れた幸運の持ち主ならばちょっと賢いマンドリルだってゲームに勝つことができるだろう。

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 筆者である私は別にマジックの強豪というわけではなく、腕も平凡で間違いなく強者よりはマンドリルの側だ。

 しかし予選の日、私は最高にツイていた。例えるなら目を瞑って首都高をドライブしたのに何の事故も起こさず目的地に到達するようなもの。そういったレベルの奇跡に恵まれ、私は予選を勝ち抜けたのだった。

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(↑運が絡むゲームゆえ、実力以上の結果が出ることもある。)

・大会への準備

 予選が終わってチャンピオンシップが始まるまでに私がやったことは「夜更かし」だ。これは何も頭がパーになってしまったからではなく、ちゃんとした理由がある。

 チャンピオンシップは世界大会であり、マジックを作っているのはアメリカの会社だ。オンラインの大会のため参加する国や場所は選ばないが、進行スケジュールはアメリカ基準になる。

 これがどういうことかというと、大会の開始時刻は日本時間における深夜1時ということになるのだ。

 そのため私は夜ふかしして身体を当日に備えさせたのだ。アメリカ基準に合わせて生活する私は、傍から見ると意味不明な夜行性生物だっただろう。

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(↑夜中にカードゲームを遊ぶ妖怪)

・大会当日

 そして金曜日の深夜1時。大会が始まった。対戦相手が発表される。私の相手は名前からして西洋人だろう。「hi good luck have fun」と短いメッセージを送り、ゲームが始まった。

 ここで本大会の形式を説明しよう。大会は三日間にわたり行われるが、それぞれ毎日に足切りがあるのが特徴だ。

 ゲームはトーナメント形式ではなく、全員の選手が同じ成績の相手とゲームを7回戦行う。ヒストリックを3回戦とスタンダードを4回戦、そして4勝未満のプレイヤー、つまり勝ち越せなかった選手はそこで敗退となってしまう。

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 2日目に進める選手は半分ほどだ。2日目は8回戦行われ、その中で成績上位の8名だけが最終日に進むことができるのだ。

・デッキ選択 ヒストリック

 さて、ここで私が選んだデッキの話をしよう。私は基本的にリミテッダー(リミテッドという形式を多くプレイする人)なので構築フォーマットはスタンダードを少しやる程度、デッキケースを見てもヒストリックのデッキはオンボロのゴブリンデッキだけだ。ゴブリンを並べて数の暴力でぶん殴るのは楽しいが、1マナ2点除去を大量に抱えるイゼットフェニックスが跋扈する環境でゴブリンデッキを使うのは頭までゴブリンになってしまったのと同じなので、新しいデッキを探すことにした。

 そして私は見つけた。MTG公式では「ジェスカイ・ターン」と呼ばれていたが、私はあえてこちらの名前で紹介しよう。そのデッキこそ、

「 D T W 」

 だった。Doragon Time Warp の頭文字をとってDTW、どう考えてもこちらの名前の方がクールなので私はDTWと呼ぶ。

ヒストリックリスト

(↑ヒストリックデッキリスト)

・時間をねじれ!

 現代のゲーム市場は、SSRだがURだかいう当たりを輩出するためにアイテム課金を促すソーシャルゲームが大きな存在感を放っている。私はその是非を問う立場には無いが、マジックにもガチャの波が来ていたのは間違いない。

 「マジックにガチャ……? どういうこと?」 それではDTWのギミックを説明しよう。《ドワーフの鉱山》から出現するドワーフトークンか、《プリズマリの命令》、《マグマ・オパス》から出現する宝物トークンを対象に《不屈の独創力》を唱えると、ライブラリーからクリーチャーかアーティファクトが出るまでめくってそれを戦場に出すが、ライブラリー内に入ってる対象カードは《ヴェロマカス・ロアホールド》だけ、つまり7マナのドラゴンを4マナで繰り出す確定ガチャだ。

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 しかし、本当のガチャはここからだ。《ヴェロマカス・ロアホールド》の能力はアタック時にライブラリーから7枚のカードをめくり、そこから5マナ以下の呪文を1枚唱える。つまり、7連ガチャだ。大当たりは言うまでもなく《時間のねじれ》、これを唱えると、自分のターンを終えても更にもう一度自分のターンが来るのだ。まさにタイム・ワープ。これがどういうことかわかるか? 追加ターンが来るということは、更にもう一度《ヴェロマカス・ロアホールド》でアタックし、7連ガチャに挑戦できるということだ。

 ドラゴンのパワーは5、つまり4回アタックすれば相手は顔面爆発(フェイス・エクスプロージョン)。つまり3ターン連続で《時間のねじれ》を当てる事さえすれば……? そう、相手は文字通り一生自分のターンが来ることなくゲームが終わってしまうのだ。最速4ターン目に始まるこのコンボ、圧倒的なスピード感と破壊力、まさに最速・最強のベストデッキだ。

にまい

(↑ドラゴンがアタックするたび、私は「ねじれろっ!!」と叫ぶ)

・シャニマスでDTWを回せ

 そしてこのギミック、どこかで見た覚えは無いだろうか? そう、「アイドルマスターシャイニーカラーズ」とシステムが酷似しているのだ。「マジックとアイドルゲームが似てる……? ついに狂ったか?」あなたはそう思ったかもしれない。確かにドラゴンは歌って踊りはしない。だが、先述したガチャのシステムがほぼ同一なのだ。

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(↑通称「シャニマス」 有栖川夏葉(画面中央)や他多数のアイドルをプロデュースできるゲーム。)

 シャニマスではジュエルを消費してガシャを回し、当たりのカードを引いてそのアイドルをプロデュースすると、ミッション報酬としてジュエルが貰えるというシステムがある。

 つまり、ジュエルを消費してガシャ⇒当たりカードを引く⇒ジュエルが貰える⇒再度ガシャ というサイクルがドラゴン・タイム・ワープと同一なのだ。シャニマスではジュエルを、マジックでは宝物・トークンを使ってガチャを回す。宝物もジュエルもほぼ同じ意味だし、完全に一致といっても過言ではないだろう。

 この相似に気づいた時点で、私がDTWデッキを使っているその他のプレイヤーより先を行っていたのは間違いない。何故なら、私はシャニマスで「運量の調節」ができるのだから。

 DTWが最強のデッキなのは間違いないが、それはデッキトップ7枚から「時間のねじれ」を当てた場合の話だ。このゲームは先述の通り運が絡むゲームなので、大会本番に向けて「運量を調整」する必要がある。「なんかオカルトみたいな話になってきたな……」と思った読者諸氏は、頭が賢いので次の見出しまで飛ばすといいだろう。

 話を戻そう。つまり、私はシャニマスのガシャで「不運」を消費し、チャンピオンシップ本戦へと「幸運」を残しておく……。完璧な戦略だ。

 なので私は大会本番、一回戦の組み合わせが発表される直前、シャニマスを起動し、ジュエルを使ってガシャを回した。ここで当たりを一枚も出さずに、「不運」を消費する……! なあに、シャニマスはそもそもそんなにバンバンレアカードが出るゲームではない、確かSSRが出る確率は2~3%くらい、まず当たらない、大丈夫だ……。

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……!?

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 よりによってこんなときに出やがった。SSR《田中摩美々》 新規のレアだし完全に大当たりだ。彼女はかなりHOTでミステリアスなアイドルだが、残念ながら追加ターンをもたらさない。運量の調節という目論見が完全に外れていた。

 だが、まあ私がめくりたいのは新規SSRではなく神話レアだ。常識的に考えてシャニマスとマジックには何の関連性もない。私は気持ちを切り替えて、ストリクスヘイヴンチャンピオンシップへと挑んだ。

・ヒストリック3回戦

 Round1、相手はグルールアグロ。アグロデッキよりDTWの方が速い。特に問題なく勝利。

 Round2、相手はドラゴンストーム。……ドラゴンストーム!? そんなデッキを使ってチャンピオンシップにやってくるプレイヤーがいるとは思ってもみなかったが、問題なくこちらのガチャが当たって勝利。まだ幸運は残っていたようだった。

 そして第3ラウンドの対戦相手を確認し、私は驚愕した。

 モニターに表示された名前は 「Kenta Harane」。それはマジックを競技シーンでプレイしている者なら誰でも知っている日本のトッププレイヤー。サッカー少年にとってのクリスティアーノ・ロナウドのような存在、まさにスター選手だ。

 もちろん私もリスペクトしており、これがオフラインの場だったならばサインをねだっていたかもしれない。

 しかし、対戦相手ならば話は別だ。私は吠える。「絶対勝つ! 右足骨折させる!! その首討ち取ったる!!!」ほぼ野武士と同じ精神性で勝負に挑んだ。

 必要ならばぶん殴ってでも勝利をもぎ取るくらいの勢いだったが、オンライン対戦だったので拳は届かない。その分カードを操作する手に力を込めた。

 そして勝負が始まり…………秒殺された。

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 私は《這いまわるやせ地》の土地能力を起動し、大地をクリーチャーに変えて攻撃を仕掛けたが、何事も無かったかのように捌かれてしまった。最終的に彼の操る巨大なゴーレムに踏みつぶされた。マジックは二ゲーム先取で勝負を行うのだが、余裕の2連敗。手も足も出ないとはこのことだった。

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 この《這いまわるやせ地》、私がサイドボードに潜ませた対コントロール用最終兵器だったが、原根選手の唱える《捌きの一撃》に文字通り簡単に裁かれた。

 デッキ構築中、《ドミナリアの英雄、テフェリー》にを殴ることができ、更に除去することが難しい《這いまわるやせ地》をサイドに入れようと気づいたときには「私は天才だ……」と思ったものだったが、そう上手くはいかないものだ。最終的にこのカードをDTWのサイドボードに入れていたのは大会参加者中私だけだった。

 これは余談だが、私はこの《這いまわるやせ地》をデッキに入れた事について後悔はしていない。しかし、カードゲームの難しいところは「カードの強さの確証を得るのが難しい」という点で、もしかしたら他プレイヤーからしたら「サイドにそんな弱いカードを2枚!? 自殺と一緒だろ!」と思われるかもしれない。なので、もしこれを読んだプレインズウォーカーが何か思う所があったのなら、ぜひコメント等で私に意見を送ってほしい。


・発見 自分のデッキが弱い!?

 ヒストリックは三連勝とはならなかった。しかしそれでもめげるわけにはいかない。先ほども言ったとおり、負けても大会は続く。幸いヒストリックは2勝1敗、最高とはいかないがまあ悪くはない結果だ。そして次はスタンダード4回戦。私はスタンダードには自信があった。何故なら本大会への予選で私のデッキは完璧に近い勝率を叩き出していたため、いわゆる「負ける気がしない」という状況だった。

 しかし、ゲームが始まってから気づいたことがあった。

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 カードゲームプレイヤーには今更何を言っているんだと思われるかもしれないが、私は大会中に「自分のデッキが弱い」ということに気づいたのだ。

 デッキ、山札というのは自分が使用するカードの束のことで、それはプレイヤーにとって己の武器と同一だ。

 それはもちろん自分自身の選択で組み上げるものだが、プロレベルのプレイヤー達(マジックには専業プロのプレイヤーも存在している!)はチームを組んでデッキを調整しているのが通常であり、熟達したプロプレイヤーの集合知で完成されたデッキは大変強力だ。

 今回の大会で印象に残ったのは「ジェスカイ変容」と呼ばれるデッキタイプで、それは呪文を使って一体のクリーチャーを強化しとてつもない化け物を生み出しつつ、効果でアドバンテージを獲得し相手を圧倒するという戦略だ。

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(↑この恐竜を強化する戦略が非常に強力)

 日本のトップ層の選手にも使用者が多く、それはさながら現代科学の粋を集めた最新兵器、ホロスコープと拡張マガジンなどのカスタムをフル搭載したアサルトライフルみたいなものだ。

 一方で、私が握っていたのは竹やりだった。「ティムールアドベンチャー」というデッキを使用していたのだが、そのデッキには最新カードが全く使われていない古いデッキで、さらに私の調整も甘かった。

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(↑私が使用したカード。いい笑顔のオジサンだが、伝説の恐竜と戦うには荷が重い)

スタンリスト

 具体的にいうと私のデッキに入っている《星界の大蛇、コーマ》がウィークポイントだった。メインボードは強いカードだ。しかしサイドボード後、《アクロス戦争》というカードに致命的に弱すぎるのだった。ご存知の通り《アクロス戦争》は一時的に相手のクリーチャーを奪うカード。これでコーマを奪われると、相手に莫大な戦力追加をもたらしこっちの盤面は壊滅、さらにコーマは能力で自身をタップしアクロス戦争で死んでしまう。つまりコーマは帰ってこない。ジャイアンにおもちゃを貸したのび太だってこんなヒドイ目には合わないだろうという惨劇を目にすることになる。

こrま

(↑非常に強いカードだが、相手に利用されてしまう可能性を考えると強すぎるというのが仇となる。)

 さすがにそうなるわけにはいかないので、赤いデッキ相手にはコーマとその相棒ルーカをサイドアウトすることになる。そしてそもそもスピードが足りないのでアグロデッキ相手にもサイドアウト。スルタイ根本原理にもコーマではスピードが遅いのと相手デッキに「絶滅の契機」という回答があるためサイドアウトせざるをえない。

 そうなると、ほとんどの対戦でコーマという大蛇はルーカや《ラノワールの幻想家》と共にデッキからサイドアウトされることになり、その分下がったデッキパワーは無視できない。デッキリスト公開制のチャンピオンシップのもあり、サイド後にかなり苦しい戦いを強いられることになるのだ。つまり、すぐに折れてしまう竹やりだったということだ。

 なんでそんな竹やりデッキを使ったの? と思われるかもしれないが、そのデッキを使って予選を勝ち上がった成功体験があり、「自分にはこれしかない」と思っていたからだった。

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 しかし、大会の最中に弱さに気づいたとしてももう遅く、途中でデッキを変更することはできないルールなので、私は大声を出しながら竹やりを振り回すことしかできなかった。

 だがしかし、その日もギリギリ私の幸運は残っていたようだった。竹やりは竹やりでも地元で一番硬い竹で作った竹やりだ、当たり所が悪ければ人は死ぬ。

 幸運なことにその日も私はツイており、まあまあの頻度で竹やりの尖った部分が対戦相手に命中した。

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(↑竹やりデッキの一番硬い部分。この剣が上手く相手に刺さると勝てたりする)

 Round4、白単アグロに2-0で勝利
 Round5、赤青ドラゴンに1-2で敗北
 Round6、赤青ドラゴンに2-1で勝利
 Round7、スルタイ根本原理に0-2で敗北

 そうして大会一日目を4勝3敗のギリギリ勝ち越しで終え、2日目への進出が決定した。

 深夜1時に始まった大会も終わったのは午前9時、その頃には既にヘトヘトになっており、私は気絶するように眠った。

・父

 全出場選手の251名中、2日目に進めたのは半分の126名。そして二日目は8回戦、私がここからTOP8に入るためには全勝しなければならないとかなり厳しい条件だったが、可能性がある限り諦めるわけにはいかない。

 そして日が暮れ、もうすぐ二日目の戦いが始まろうとしたそのとき、父が私に言ったのだ。

「昨晩は何してたんだ?」

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 私は父親と同居しているため、夜通しでパソコンに向かって奇声をあげている息子のことを不審に思ったであろう父がそう聞いたのだ。

 しかしもうすぐ還暦も近い私の父に「カードゲームのオンライン大会に出てて……」と言っても理解が得られるかは怪しいところだろう。しかし他に説明のしようもないのであるがままの説明をすると、

 父は

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 「夜中やってるなら腹が減るだろ。おにぎりでも握ってやろうか」

 と言った。

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 私の父は口数が多い方ではない。表情も少ないため何を考えているのかあまりわからないが、その言葉は間違いなく私を応援しているそれだった。

 私が呆気にとられつつも「ありがとう」とお礼をいうと、父はすぐに台所で作業を始めた。

 そしてしばらくしてから

 「できたからここ置いとくぞ。頑張れ」

 と言い残し寝室に引き上げていった。テーブルには少々不揃いな四つのおにぎりがラップにくるまれて並んでおり、私はそれを手に取って自室に戻った。

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(↑おかかが雑に混ざったおにぎりだった)

・Day2

 私はおにぎりを食べつつ、試合に臨んだ。

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 チャンピオンシップ二日目は一日目で勝ち越しを決めた選手だけが残る戦場だ。もちろん全体のレベルはDay1に比べ上がっている。

 二日目もヒストリック4回戦からだ。
 Round8、相手はジャンドフード。何事もなく時間がねじれて2-0で勝利。
 Round9、5色ニヴミゼット。相手のデッキリストを見て絶望する。ハンデス7枚に打ち消しまで入っている。コンボに親を殺されたのかと思われるほどのリストになすすべもなく敗北。0-2。

 そしてRound10、対戦相手名の表示はBrad Nelson…………Brad Nelson!?!?? 彼は10年以上マジックの最前線で戦い続けている世界的実力者。24人しかいないマジックのプロ・リーグでも常に上位に位置している完全なるカードゲームのプロ。強大にして強烈。少年にとってはティラノサウルスみたいなものだ。

 私は震えていた。Brad Nelsonと戦えただけでも光栄……と思いそうになるが、ここは戦場。相手をリスペクトする暇があれば1秒でも多くデッキリストを眺めて戦略を立てるべきだ。彼のデッキは「イゼット・フェニックス」私のDTWとは、相性的にこっちが有利なはずだ。私ははやる気持ちを抑え、対戦へと挑んだ。

 そして勝った。なんてことはない。相手のデッキがうまく回らずこっちがブン回ったのだ。4ターン目に繰り出した私のドラゴンがしっかりと時間をねじり、私に勝利をもたらしたのだった。2-0。まさに幸運というしかない。私は今の内に宝くじを買いに行くべきかと迷ったが、深夜だったのでそれは諦めた。

 Round11、相手はまたも「イゼット・フェニックス」これも2-1で勝利。またも4ターン目に展開したドラゴンが時間をねじり一方的に殴りきって勝利。改めて思う。自分でやっといてなんだが、目に余るくらいの暴力・コンボだ。将棋で例えれば私が4回連続で指しているようなもの。7六歩⇒3三角⇒5一の王を取って勝ち。1手余るほどの余裕。このルールなら藤井聡太二冠にだって負けはしない。

 先手3ターン目に相手が展開したフェニックスの群れを私は《神々の憤怒》で処理したが、本当に憤怒したかったのは対戦相手だっただろう。

ふんぬ

 だがここでひとつ残念な知らせだ。本大会で猛威を振るい過ぎたため、記事更新現在、ヒストリックでは《時間のねじれ》は禁止カードに指定されている。流石にやりすぎだったのだろう。

・浮かれる

 ヒストリックのラウンドが終わり、ここまでの戦績は7勝4敗。最高ではないが、最低でもない結果だ。そして私は直近の二戦を連勝したことで、完全に浮かれていた。ここから4連勝できれば、まだギリギリTOP8の可能性がある。次の対戦が始まるまでにはまだ時間があったので、私は明朝の5時という時刻にも関わらず踊っていた。BGMはEarth, Wind & FireのSeptember。私はファンクミュージックに身を任せ、指を鳴らして腰をツイストしていた。

 一通り踊った後に私が次にとった行動は、「洗面台に行って髪をセットする」というものだった。オンライン対戦なのに身支度? 頭が狂ったのではない。私は「配信されるかもしれない!」と思ったのだ。そう、このチャンピオンシップという大会、オンライン大会ではあるがYouTubeやTwitchなどで大会の様子が配信されるのだ。そしてその配信では、プレイしている人物がWebカメラを通して中継される。

配信画面

(↑実際の配信画面。左側に選手の中継が配置されている)

 しかし、この配信に載るのはごく一部の対戦、それも対戦戦績の良いトップ層の戦いのみだ。私のような雑兵が配信に載ることはないと高をくくっていたのだが、今の戦績からしてここから連勝すれば話は変わるかもしれない。そしてもし、いざ世界に中継されたとき、私の髪の毛が寝ぐせでボサボサだったら恥だろう。だが逆に、きちんと身支度を整え人様に見せられる顔で中継に載り、そこであまつさえ勝利したら……?

 配信で全世界に中継されながら、華麗な勝利を決める。全世界に3000万人の私のファンが生まれ、ファンレターが山ほど届いてモテモテに。そこから知り合った可愛い女の子(ゲームするのとイラストを描くのが趣味、優しい性格で髪が長い)とマジックを通して親交を育み、やがて結ばれて幸せな家庭を持つ。子どもに初めて握らせるデッキは緑系のマナ加速デッキにしよう…………とそこまで考え、私はよれよれのシャツを脱いでタンスから勝負服を引っ張り出した。

 そして、スタンダードのラウンドが始まった。もちろん配信などはされないが、それも勝ち続けさえすれば後は時間の問題だろう。大丈夫だ。こっちは大会優勝後のインタビューの内容まで考えている! 私は万全の準備を整え、スタンダードラウンドを迎えた。

・そして、負けた。

 普通に1戦目で負けた。ボコボコにされた。なーんもいいとこ無かった。

 相手のデッキは青赤ドラゴン、《黄金架のドラゴン》が展開された返しのターンに唱える《銅纏いののけ者、ルーカ》が《否認》されて負け。相手のデッキが回っていたといえばそれまでだが、私の落胆はこれ以上ないものだった。早朝6時、なぜか精一杯のオシャレをした惨めな敗北者がそこにはいた。

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(↑私の幸せな未来は否認された)

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 Round13、スルタイ根本原理。2-0で勝ち。
 Round14、サイクリング。2-1で勝ち。
 Round15、青赤ドラゴン。1-2で負け。

 私はTOP8には残れなかったため最終日への進出は叶わなかった。

・ゲームオーバー


 最終的にチャンピオンシップを優勝したのはアメリカの強豪Sam Pardee選手。

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(↑画像はMTG日本公式より)

 私と同じく《時間のねじれ》を操っての貫禄の勝利、そのダイナミックなゲーム展開に私はライブ配信を観戦しながら大声を出してしまった。

 私カエサルの最終成績は9勝6敗、251人中48位といささかパッとしない成績である。しかし、これが最後の大会というわけではない。私はこの悔しさをバネに、これからもこのゲームに取り組んでいくだろう。

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・終わってみて

 当たり前のこと過ぎて説明を忘れていたが、このマジック:ザ・ギャザリングというゲームは本当に面白い。真剣勝負でハイレベルなゲームならばなおさらで、私はこのチャンピオンシップを通してMTGというゲームを更に好きになった。

 そして応援してくれた人たちへの感謝をここに書いておきたい。練習試合に付き合ってくれた友人。Twitterで応援してくれたフォロワーの皆様。そして家族。本当にありがとうございました。

 それでは、そろそろこの記録を終わりにする。

 余談だが、本大会では48位という成績にも1,000ドルの賞金が与えられた。

 常に懐が寒い私には非常にありがたい金額、無駄遣いは控えて計画的に使うべきというのはわかっている。

 しかし、とりあえずは父の好物であるビールを買いに行こう。


《カエサルのストリクスヘイヴンチャンピオンシップ参戦レポート》

 終


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(マジック関連)

(マジック以外)


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 これは余談だが、チャンピオンシップで賞金が1000ドル出たにも関わらず、日本在住の私は「連邦税」という税制によって30%もの額をアメリカに持っていかれてしまった。レガシーのデッキを持っていないのに、デス&タックスを味わうことになろうとは。私がレガシーのデッキを作るのはまだまだ先になりそうだ。

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