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マジック:ザ・ギャザリング、和訳担当者のお爺さんがボケ始めている。

・前書き 認知症

 認知症。いわゆる「ボケる」という奴だ。これは人間なら誰だって発症する加齢による認知障害のことであり、古くは「痴呆(ちほう)」と言われていた。しかし、2004年に「痴呆」という語は行政分野から廃止され「認知症」に置き換えらることとなっている。

 そしてこの認知症、「症」というだけあって疾患……病気の一種だ。全世界で3000万人を超える人間が罹患しているとされており、程度の差はあれど、長生きする人間は多かれ少なかれその兆候を示す疾患だ。つまりそうなってしまったことを恥じる必要はないし、それを攻めるのは間違っている。

 そして本題だ。私はひどく心を痛め、また心配している。何故なら、マジック:ザ・ギャザリングのカードテキスト和訳担当者であるお爺さんにこの認知症が発症し始めているからだ。恐らくは。


 自己紹介が遅れた。私はカエサル。ただの一般的なMTGプレイヤーだ。マジック:ザ・ギャザリングを開発しているウィザーズ・オブ・ザ・コーストの社員でもなければ関係者でもない。ましてやその日本支社にも何の関係もないし、知り合いだって一人もいない。正真正銘の一般ユーザーだ。

 では何故いきなり「お爺さんがボケ始めている」などとぬかしたのか? それは……そうとしか説明がつかないほど「日本語カードの誤訳」が発生しているからだ。

 もう一度いっておく。私は関係者ではないからウィザーズ・オブ・ザ・コーストがどういった内部構造をしているのかは一切知らない。なので先に断っておくが、この記事に書かれた内容は私の推測・想像で、事実ではない。

・経緯

 経緯を説明しよう(この経緯説明は事実だ)。まず、私の愛するゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」の新セット「フォーゴトン・レルム探訪」が2021年の7月23日に発売されるという事実がある。これは、TRPGの元祖「ダンジョンズ&ドラゴンズ」とマジックとのコラボレーション・セットであり、ファンタジーの世界観を共有している両タイトルがコラボするということで発表された時点から大きな期待を寄せられていた。

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(↑画像はMTG公式サイトから)

 そして同年7月7日、本セットに収録されているカードの内容が全て公開された。いつだって、新しいカードが登場するというのはマジックに限らず全てのTCGにいえることだ。この時も。新カードを楽しみにしていたプレイヤーは胸を躍らせながらセットの内容をチェックしたのだ。

 そして、首をかしげたプレイヤーが大量に発生する。理由はこうだ。

 「日本語版のカードに書かれたテキストが、英語版の内容と違っている」

 例をあげよう。

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(画像はMTG公式サイトから、以下カード画像も引用元省略)

 上記カードは「君はノールの野営地に出くわした」というカードの日本語版だ。

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 そしてこちらが同カードの英語版である。カードテキストの誤訳がわかるだろうか?

 日本語版の「威嚇する」の効果に注目してほしい。「それらのクリーチャーではブロックできない」とあるが、英語版の「this turn」が抜けている。日本語なら「ターン終了時まで」という意味だ。つまり、この日本語版のカードテキストのまま処理をしてしまうと、対象にとられた最大2体のクリーチャーはそのターンだけでなくゲーム中ずーっとブロックが不可能になってしまうのだ。

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 正しい和訳テキストは上記だ。

 例をもうひとつあげよう。

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 「スフィアー・オブ・アナイアレイション」。これはカードを唱えたときに置かれるカウンターの数以下のマナ総量を持つクリーチャー等を追放する全体除去呪文なのだが、カード中だけでカウンターの名前を間違えている。テキストを読むとわかるが、このカードに乗るのは「虚空カウンター」だが、追放時に参照するのは「虚無カウンター」となっているのだ。

 和訳テキストどうりにプレイした場合のシーンを想像してみよう。


 対戦相手のケンジが大量のクリーチャーを繰り出してきたピンチな展開、しかしあなたは全体除去の「スフィアー・オブ・アナイアレイション」が手札にあるので一安心だ。相手のクリーチャーは最大でも4マナ、なのであなたはX=4と指定してこれを唱えた。テキストどうりに4つの「虚空カウンター」が置かれて呪文が戦場に出る。

 ケンジはあなたと同じ小学5年生だが、彼の方が学校の成績は優秀だ。そして体格のいいケンジはサッカーでもドッジボールでも大活躍、一方で運動が苦手なあなたは体育の授業ではクラスのお荷物……だがしかし、マジック:ザ・ギャザリングなら違う。ケンジとだって対等に戦える。

 そしてケンジのターンをなんとかしのぎ、自分のアップキープを迎えた。あなたは意気揚々とこのアーティファクトを追放して彼の操るクリーチャー共を葬ろうとする。「虚空カウンターが4つだから、キミのクリーチャーは全滅さ!」ケンジの悔しがる顔でも見てやろうと視線をあげる。しかし、彼はキョトンとした顔をしてこういうのだ。

「参照するのは虚無カウンターだろ? そのカードに乗ってるのは虚空カウンターだから、ぼくのクリーチャーは追放されないよ」

 そんなバカな!? あなたは目を皿にしてカードを読むが、テキストには確かに二種類のカウンターの名前が書かれている。虚無カウンターを置く方法はどこにも書いていないし、虚空カウンターが何のためにあるのかもわからないが、テキストにそう書いてある以上それがルールだ。

 電池切れのリモコンより役に立たないそのカードを握りしめ、あなたは困惑するしかない。パックから引き当てたときは全体除去の強力なレア・カードだと思ったのに、今やケツを拭く紙にもならない紙クズだ。何かがおかしい、間違ってると思いつつも、それを訴えたり調べたりする方法はなく、なすすべなくあなたはケンジに負けてしまう。急にしらけた雰囲気になってしまったあなたはMTGのカードを放り出し、スマブラでカズヤのコンボを練習し始めた…………。

 というようになることは目に見えている。確かに英語版のカードには間違いがないため、ネットで検索すれば正しいカードテキストを参照することはできる。しかし、カードに「このテキストは和訳を間違えています」と書いているわけでもないのに「これは間違ってる気がするな」と判断するのは困難だ。初心者ならなおさらだし、普段ネット環境がない人ならいよいよどうしようもない。そうでなくともカードのテキストが間違っているのがゲーム製品として問題だということは誰が見ても明らかだろう。

 そして、このようなカードのテキスト間違いは前述の2枚だけでなく、なんと同セットに10枚以上も存在しているのだ。日本語版のカードは、ゲームとしてまともな商品ではない。


・エラーの二段攻撃 MTGArena

 カード公開後、この誤表記エラーのショックは大きかった。しかし衝撃は再度やって来た。マジック:ザ・ギャザリングの電子版、「MTGArena(以下アリーナ)」である。

 マジックでは紙のカードの発売日より前にアリーナで新セットをリリースするのが恒例となっている。今回も新セットのカードリスト公開の翌々日、7月9日にアリーナに「フォーゴトン・レルム探訪」が実装され、いち早く新セットを楽しみたいプレイヤーが集まった。そしてまたも、首をかしげる事態に直面したのだ。

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 ↑こちらが日本語版、紙のカード「アルボレーアのペガサス」。紙の英語版との違いもなく、「正しく」和訳されている。

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 ↑そしてこちらがアリーナ版の日本語テキスト。紙版だと+1/+1だった修正値がアリーナ版では+2/+2となっている。「虚空」「虚無」はまだしもこちらは数値が間違っており、もはや和訳ミスですらない。もちろんゲーム上では正しい方の効果(+1/+1)が適用されるため、日本語でプレイしているユーザーだけが間違えるリスクを負っている。

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 帆船を襲う水龍が描かれた「竜亀」のカード。こちらも紙版にはエラーがない。

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 ↑こちらがアリーナ版。肝心かなめのカード名が「ドラゴン・海亀」となっている。「おいおい、こんなミスあるはずがないだろ……悪質なコラージュか?」とあなたは思ったかもしれない。残念ながら真実だ。私も信じたくはないが、少なくとも7月11日現在、この誤表記は修正されていない。

 そもそも、紙のカードは正しく和訳できているというのに、何故電子版のみのエラーが発生するのか、そのメカニズムも謎である。

 数値ミス、表記のミス、20を超える数のエラーが発見されており、少なくとも現在のMTGアリーナは日本語版でまともに遊べるゲームではない。テキストの修正は公式HPで確認できるが、これらのミスを記憶してからじゃないとまともに遊べないゲームというのは完全に低品質と言わざるを得ない。

 

・和訳担当のお爺さん

 人間が行う作業からミスを完全に取り除くことはできない。それはわかる。現に直近のセットの日本語版にもミスはいくつかあった。

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 ↑文章の最後が「してよもよい」となっており、舌足らずの幼女の発音のような文章になっている。

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↑「~離れるたび、は各対戦相手に~」と本来ならカード名が入る部分が抜けており、思わず「あなたは誰?」と問いかけたくなるような誤植になっている。

 確認すると、直近のセットではひとつやふたつのミスは必ず見つかっており、『ゼンディカーの夜明け』『カルドハイム』『ストリクスヘイヴン』『モダンホライゾン2』と4セット連続で誤訳や誤植などのミスが見つかっている。

 そして今回の『フォーゴトン・レルム探訪』だ。紙製品と電子版合わせて30以上のエラーというのは前代未聞だ。5セット連続で完全な製品が作れていないというのは、残念ながら「まともな製品を作る能力が無い」ことに他ならない。

 しかし、以前の製品はこうではなかった。少なくとも2~3年前ほどはエラーのない「完全な製品」が作られていたし、それが普通だった。それだけにここ最近のエラーは尋常ではない。通常、何かしらの問題が発生した場合、再度同じミスを起こさないよう「再発防止」の対策を行うのがメーカーとしての基本だが、直近では改善どころか悪化している。これは、「何か大きな問題が起こっている」としか考えられない。

 私はマジックのプレイヤーであり、このゲームが大好きだ。それだけにこのようなカードの和訳ミスという問題にはひどく胸を痛めた。そしてそんな中、「何が起きているのか」私が悩み、想像し、考え抜いて出した結論が、「和訳担当お爺さんボケ始め説」だ。(ここからが、私の想像と推測だ)

 私の仮説はこうだ。MTGの和訳担当者は「齢80歳のご老体であり、MTGをプレイしていなくて、電子機器が得意ではなく、最近妻に先立たれた」のだろう、というものだ。

 「齢80歳」のご老体というのはそのままだ。認知症を発症するのが75歳~85歳が多いというのが通説であり、数字の間違い、注意力・判断力の低下、失語症などは認知機能の低下によって引き起こされるものだからだ。

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 ↑能力の起動コストの色が間違っている(画像左アリーナ版、正しく赤マナではなく緑マナ)。色覚異常も認知機能の低下によって併発した症状だろう。

 「MTGをプレイしていなくて、」お爺さんは昔はマジックをプレイしていたかもしれないが、現代のMTGをプレイしていないというのは想像に難くない。

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 ↑まともにプレイしていれば、4/45のクリーチャーはタフネスが高すぎるということに気づけるはずだからだ。(画像左アリーナ版。)

 「電子機器が得意ではなく」というのは、まだパソコンでの文章作成をマスターしていないという意味だ。以下のカードを見て欲しい。

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 アリーナ版(画像左)には、本来ないはずの「これをアンタップする。」の文章が存在している。正しいのは画像右側で、このカードは条件を満たしてもアンタップしない挙動が正しい。

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 このミスについては、1年ほど前のカード「剣歯虎のやっかいもの」のテキストをコピペしたことによるものだろうということが推測できる。つまり、コピー&ペーストは習得したが「BackSpaceキー」を押して不要な文章を削除することはまだ習得していないということだろう。

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 「最近妻に先立たれた」というのは、認知症はショッキングな出来事や大きな喪失感がトリガーとなって発症するケースが多くみられるということから予想している。

 和訳のダブルチェックをしていないのか? という意見もあるかもしれない。しかしあの歴史ある企業のウィザーズがそんな基本的な対策をしていないわけがない。つまり導き出される結論がある。「ダブルチェックもボケたお爺さんがやっている」ということだ。

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 既に5連続のセットでミスが出ている。ということはつまり、一度のミスでチェック回数を単純に一回増やしたとすると、現在は6人の認知症の老人がダブル、トリプル、クアドラプル、クインタプル、セクスタプル・チェックをしているはずだ。

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・私は改善を望んでいる。

 なぜウィザーズ・オブ・ザ・コーストが認知症を発症したお爺さんに和訳を任せているのかはわからないが、私は一刻も早くどうにかすべきだと思う。それは認知症からの回復治療でも、若くてMTGをプレイしていてパソコンが使える奴にチェックさせるでも方法は問わないが、現状の日本語版マジックの品質は改善すべきだ。

 もちろん、先述した「認知症のお爺さんが~」というのは私の想像に過ぎない。しかし、この可能性を除くと、あと残る仮説は「マジのゴブリンが和訳を担当している」くらいしか思いつかない。ゴブリンが登場するのはカードの中だけだと思っているが、世界は広く、まだ私の知らない世界があるのかもしれない。

 いや、仮説はもうひとつだけあった。これは「和訳担当者ゴブリン説」よりも信憑性が薄いため、考えたくもない可能性だが……、一応、本当に一応、念のため、あくまで仮説の提示として、書いておく。

 それは「ウィザーズは日本語版のことなどどうでも良いと思っており、和訳がエラーだらけでも商品が売れればそれでいいと思っている説」だ。

 ゲームメーカーとユーザーの間には信頼関係があるだろうと私は考えている。長く続くゲームには歴史とそれに裏付けられたユーザーからの信頼があるはずだ。その信頼があるからこそ、メーカーが出した製品をユーザーは購入して楽しみ、そして応援する。

 しかし、そこから信頼関係が失われてしまったら……考えたくもないのでここまでにしようと思う。しかし、プレイヤーの上に残っている信頼カウンターの数はあといくつだろうか。私も、自身のカウンターの数を数えるのは正直にいって怖い。


・意見を表明する。

 実際にボケた老人が和訳をしているのかは知らないが、もしそうだったとしても我々にできる事は少ない。何故なら実際の品質管理体制がどうなっているかは私達のあずかり知らぬ所だからだ。しかし、少なくともできることはある。それは声をあげることだ。

 しかし、「声をあげる」というのは「140文字以内でうまいこと文句を言う」ということではない。それは開発元である公式に意見が届かないだけでなく、ゲームをプレイしていない他者へマジックの評判を下げ、未来のプレイヤーの芽を摘み取る可能性すらある。

 なので「声をあげる」というのは、ウィザーズに直接、「一人の客として、あんたの作ってる製品はおかしい。心配している。対策してほしい」と伝えるということだ。観客が選手に飛ばすヤジではなく、同じチームメイトとしてあんたの事を心配しているということを、伝えるのだ。

 私はウィザーズの「お問い合わせ」ページから意見のメールを送った。要約してしまえば「最近だらしないからしっかりしろ」という内容のクレーム・メールだ。

 一通のメールで何かが変わる確率は低いだろう。それこそ、片手いっぱいの20面のダイスを振って全て20の目が出るくらいの確率だろうか。しかし、その可能性はゼロではない。ゼロではないということは、無駄ではないということだ。マジックをリリースしている会社はマジックを愛していると私は信じている。その愛でマジックを良い方向に変える際の力の一部として、私のクレーム・メールが使われることを祈っている。

 もしこれを読んでいるあなたが私と同じようにマジックの行く末を心配して(あるいは、認知症お爺さんの容態を心配して)いるのなら、問い合わせのメールを送るのもひとつの手段かもしれない。あなたもマジックを愛しており、何も行動していないのがどうにも歯がゆいという場合、「意見のメールを送った。行動した」という事実があなたの心をいくらか軽くしてくれるはずだ。

 私は浅学なため他に有用な方法を知らないが、マジックがよりよいものになっていくためならなんだって尽力するつもりだ。そのための方法があるならぜひ教えて欲しい。


 それでは、私はもういく。それは英語の勉強を始めるためだ。私は英語が苦手で「三単現のS」が理解できず中学の授業をボイコットしてしまった人間なので、この道は険しいだろう。しかし、マジックをこれからも好きでいるには日本語しか使えないようでは心配なので仕方ない。

 しかしそれでも、この心配が杞憂であって欲しいというのが本音だ。次にあなたと対戦したときに「フライング」ではなく「飛行」、「ダブルストライク」ではなく「二段攻撃」と言えることを祈って、ここでキーボードを休ませることにする。


Twitter:@caesarcola


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