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第三帝国の誕生 第9夜~我々は彼を雇ったのだ~

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第三帝国の誕生 第9夜~我々は彼を雇ったのだ~

■シュライヒャー、立つ----00:00:07

[TIME]----00:00:07 パーペンのあと
【N】まあ、前回までで、パーペン内閣が総辞職しましたね。
【D】はい。
【N】操り人形にされるかと思いきや、意外と……意外とパンチきいたことをするパーペンさん。
【D】ちょっと……ナメたもんじゃなかったね。
【N】うん、そうね。プロイセン・クーデターというものを起こし、プロイセン州を直轄化してしまったという……。
【D】ナメていたら、そうはいかなかったって感じだね。
【N】そうっすね。パーペンさん、このあとも色んなことをしますからね。
【D】うん、なるほど。
【N】そしてまあ、その次ですね。
【D】うん。

[TIME]----00:00:45 ヒンデンブルクとの入閣交渉
【N】パーペンが総辞職ということになり、1932年11月19日、ヒンデンブルクがヒトラーと会談します。
【D】ヒンデンブルクが……。
【N】大統領のね。
【D】うん。
【N】そこでヒトラーに次の内閣に入閣してほしいという旨を伝える。
【D】おぉ……ついに。
【N】そのために、他の党と交渉して協力を取り付けてほしい、とも。
【D】うんうん。
【N】しかし、ヒトラーは相変わらず首相の座を要求し、他党とは交渉はしないと返答します。もうスタンスは変わらず。あくまでヒトラーが首相になり、権限をすべてくれと──。

[TIME]----00:01:30 議院内閣か大統領内閣か
【N】そして2日後のやり取りでは、ヒンデンブルクはヒトラーに対し、こちらの条件を呑むなら組閣を許すのもやぶさかではないよ、というようなことを伝える。
【D】うん。
【N】条件というのはすなわち、国会で多数派を形成し、かつこちら側の意向を反映した政策を実施すること。通常の、国会に支持基盤を持った内閣を作るならいいよ、と。
 しかし、ヒトラーはあくまで「大統領内閣での組閣」をお願いしたい、と要求する。つまり他の政党なんかと調整して政治をやるつもりはない。
【D】うん。
【N】これまでヒンデンブルクは大統領内閣を認めてきたわけだけれども、このヒトラーにはそれを与えたくなかった。
【D】うん。
【N】また、実はこのとき大統領内閣自体もかなり難しい局面になってきていた。
 というのも以前、ナチ党と共産党を足すと多数派になってしまうというような話をしたけれども、もしかしたらこの両党が協力して大統領緊急令を潰すというようなことも考えられた。
 ──では解散をするか、となると、そんな何べんも使える手ではない。
【D】うーん、そうか。
【N】ただヒンデンブルクとしては、パーペンに再び大統領内閣を委ねたいとは思っていたらしい。
【D】うん。
【N】ということで、実はヒンデンブルクにとっても難しい時期になっていたんですよ。
 ただ、いずれにせよ、ヒトラーが求める形での首相、すなわち全面的な権力の委譲というのは認めるわけにはいかなかった。だから話は平行線。幾度かのやり取りが交わされるんだけれども、同じ主張が繰り返されたのみで、妥結はしなかった。

[TIME]----00:03:00 シュライヒャーからの入閣要請
【N】こうして事態は膠着状態に陥る。
【D】うん。
【N】そこでシュライヒャーが動いた。
【D】お。
【N】政治将軍ですね。陰謀家。
【D】陰でよく活躍している人ですね。
【N】彼がもっとグイグイ表に出てくる。──このシュライヒャーがヒトラーにコンタクトを取り、自分が首相として内閣を組閣するとしたら、それに協力してくれないか、と持ちかけるんですよ。
【D】うん。
【N】「今度は俺がやるから、ちょっとヒトラーさん入ってくんねえか」と。しかし、ヒトラーのスタンスは変わらんわけですよ。いいから首相は俺にくれと。
【D】うん。
【N】この一連の出来事でのヒトラーの妥協のなさは、異様です。
【D】ねえ。何かすごいね。
【N】うん。これまでも指導的地位に就けない大同団結というものは避けてきた男だから、一貫しているとは言えるんだけれども──。ただ、この頑なさ、この頑固さが危機を招来する。
【D】……たとえばシュライヒャーみたいに、陰でやっていたほうが色々動かせたりするのかなと思ったりもするけれども、あくまでもシンボルとしての位置を狙うんだね。
【N】そうだね、うん。そして段取りというか、1つ1つクリアしていくために「少し妥協する」みたいなことはないんですよね。
【D】ないんだよね。そこがすごいね(笑)
【N】とにかく「くれ!」という(笑)
【D】オール・オア・ナッシングみたいな感じだね。
【N】こういうスタイルだったら権力握れないと思うんだけれども、なんて言うのか、一徹というか頑固さみたいなものでずーっと圧力を加え続けると、何かのタイミングでポコン! といっちゃう時があるという(笑)
【D】そういうことだよね。(笑)
【N】そこまでやるという人なのかもな(笑)
【D】うん。すごいな。
【N】すごいっすね。

[TIME]----00:04:57 グレゴーア・シュトラッサー再登場
【N】──こうしてね、ヒトラーを説得できないと感じたシュライヒャーは、ナチ党の中のグレゴーア・シュトラッサーに目をつけるんですよ。覚えておいででしょうか。
【D】誰だっけ?
【N】久々に登場したんだけれど、いわゆるナチ党左派の領袖、シュトラッサー兄弟の兄貴。
【D】ああ、兄貴のほうだ。久しぶりだな(笑)
【N】弟のオットーは党を追放されたんだけれども、兄貴がまだいて……。
【D】そうかそうか。
【N】そうそう。で、このシュトラッサー兄貴はこのときもやはり隠然たる力を持っていた。でもってナチ党の中では、外側の人間から「あいつはいちばん話がわかるね」という感じで、評価が高かった人なの。
【D】うん。

[TIME]----00:05:42 パーペンとシュライヒャーの対立
【N】まあ、そういう流れで、シュライヒャーは12月1日の夜、ヒンデンブルク、パーペンと話し合うんですよ。
【D】うん。
【N】で、ヒンデンブルクはパーペンのことを目にかけていたので、彼に続投させたがるんだけれども、パーペンの案というのが軍を使ったクーデターだった。
【D】うんうん。
【N】戒厳令を敷いて憲法改正をしようというわけ。
 で、これに対し、シュライヒャーが、そんなことしたら内戦になると反対するんですよ。
【D】はいはい。
【N】その代わり、彼は自分が首相となって、ナチ党からシュトラッサーとその支持者を内閣に引き入れる計画を提案する。
【D】はいはい。
【N】ヒトラーがダメならシュトラッサーはどうだ、と。シュトラッサーもナチ党の中で力を持っているから。
【D】うん。
【N】実際、このシュトラッサーを引き込めば、彼を支持する60名ほどのナチ党議員をゲットできると踏んでいた。(カーショー『ヒトラー 上』p.419)
【D】はい。
【N】ところが、それでもヒンデンブルクはパーペンを選ぶ。ヒンデンブルクはパーペンのことをすごく信頼していたのね。
【D】へえ……。なんかなー、パーペンって危ない感じがするけどね。
【N】いや、まあ、ヒンデンブルクも基本的に議会主義を守る気はないので……(笑)
【D】ああ、そうか。ヒンデンブルクもそうか。
【N】そうそう。基本的に帝政主義者なんで。
【D】うん。
【N】──で、この時点でシュライヒャーとパーペンはハッキリ対立関係になった。
【D】はい。

[TIME]----00:07:14 クーデターに目算なし?
【N】もともとシュライヒャーは、自分が都合よく動かせる相手だろうと思ってパーペンを引き入れたんだけれども、そのパーペン自身がシュライヒャーの対抗馬になってしまった。
【D】うんうん。
【N】でも翌日にはシュライヒャーが巻き返す。閣議において、パーペンの提案していたクーデター計画について話し合いがなされるんだけれども、そこへシュライヒャーの腹心であるオイゲン・オット中佐という軍人が、軍部からの報告を提出するんですよ。
【D】うんうん。
【N】それによれば、クーデター計画のための図上演習──「プランシュピール演習」というんだけれど──、これを行なったところ、決行するのは危険であるという結論が導き出された。クーデターは、やると危ないよと。
【D】どういう感じで?
【N】曰く、クーデター決行によって、たとえば内戦が生じたとき、今の軍では事態に対応できそうにない。
【D】ああ。
【N】しかも、その混乱に乗じ、お隣のポーランドが国境問題を解決しようと武力介入をもくろむ可能性がある──と。
【D】うんうん。
【N】そもそも、ヴェルサイユ条約によって国軍が縮小されているうえ、突撃隊とか国旗団といった、党が持っている準軍事組織──アレらは国軍よりもはるかに数が多かったんですよ。
【D】……ほう、すごいね。……そうなんだ(笑)
【N】だから、もしも仮にパーペンたちがクーデターを強行し、そういった準軍事組織がこれに反抗して内戦が起きたとき、実は軍を使っても鎮圧ができない可能性が高かった──ということを、軍自身が演習によって報告してきた。「ちょっと俺らには無理ですよ」と。

[TIME]----00:08:53 パーペンの敗北
【N】これにより、クーデターはやめた方がいいんじゃねえか、という流れになり、とうとうヒンデンブルクも方針を翻し、パーペンからシュライヒャーへと政権を渡すことに同意した。
【D】おぉ、結構変わりますね(笑)
【N】この人ね、変わるんですね……(笑)
【D】ああ、そう……。
【N】それでもパーペンの回想によれば、ヒンデンブルクはこの裏切りを詫びるように、涙をこぼしながら彼と握手したと言われている。「ほんとはお前のこと好きなんだけれどね。ちょっと今回は我慢してやって……」という感じだったと言われている。
【D】演習をやったその報告書というのは、シュライヒャーが仕組んだことではないの?
【N】シュライヒャーの腹心であるオイゲン・オットが持ってきているので、当然シュライヒャーの意図がそこには反映されているよ。
【D】「ちょっとこういうのを提出してよ」みたいな?
【N】うん。

[TIME]----00:09:48 シュライヒャー、表舞台に
【N】──ということで、ここでパーペンはダメになった。
【D】うん。
【N】こうして1932年12月3日、これまでは裏工作に勤しんでいたクルト・フォン・シュライヒャーが首相になるんですよ。
【D】お。はいはい。
【N】いよいよ、運命の首相ですね。
【D】あ、そうですか。表舞台についに出てきましたね。
【N】うん。何が運命かといえば、これが最後の1人です。
【D】おっ、ということはいよいよ。
【N】そうですね。
【D】マジすか……。近づいてきた。

■グレゴーア・シュトラッサーの取り込み----00:10:20

[TIME]----00:10:20 対角線構想とシュトラッサー取り込み
【N】──シュライヒャーはかかる情勢下にあって、先ほどのシュトラッサー引き抜きによってナチ党左派を取り込み、併せて労働組合をも味方につけようという構想を持つ。これを「対角線構想」あるいは「横断戦線構想」と言ったりするんだけれど(Querfront)──、ようは反対側にいる奴らと結んじゃおうという。
【D】うん。
【N】さっきも言ったとおり、労働組合とナチ党──特にナチ党左派、そして軍を結びつけてこれを支持基盤とするという構想なのね。そのために、ナチ党の中の一角であるシュトラッサーを取り込もうという計画を立てる。
【D】うん。
【N】このシュトラッサーという人はヒトラーほどには労働組合を敵視していなかったので、そういう点でも条件が合っていた。
【D】ふーん……。思想的にそれはできるの?
【N】だからそこがウイークポイントになってくる。ようは左派を取り込んだりするので、一応右派を中心に政権を作っていこうという人間がこういうことをやれば、「おいおい」と言われるわけですよね。
 実際、パーペンのときと違って、「このシュライヒャーという男、どうも労働者のほうに目が向いてんな」というふうに警戒されるわけよ。ブルジョワの右派であるとか保守派たちから。「あれ、アカくねえか?」と。
【D】うん
【N】──ということで12月3日、新首相になったシュライヒャーは、早速ナチ党のグレゴーア・シュトラッサーと会談する。
【D】うん。
【N】そして彼はシュトラッサーに副首相、そしてプロイセン州首相として入閣するよう要請する。
【D】へー。
【N】両方ともすごいポストですよね。
【D】かなりのポストだね。
【N】だから、これはヒトラーを指導者とするナチ党にとっては切り崩し工作に等しい。
【D】うんうん。

[TIME]----00:12:15 シュトラッサーの立場
【N】シュトラッサーは弟の一件もあったけれども、党内でも屈指の組織力を持つ現実主義的な幹部だった。ヒトラーとは距離感もあったんだけれど、彼は弟と違ってヒトラー個人に対する忠誠は守っていた。
【D】うん。
【N】しかし今回の選挙でナチ党が限界を迎え、支持が落ち始めてきたことは、党の組織指導者であったシュトラッサーもよく理解していたはず──。またこの頃、党の懐事情も相当にヤバかった。
 言ってしまうと、ちょっと落ち目だったんですよ。
【D】はい。うん。
【N】こうした落ち目にある中、シュトラッサーは、ナチ党は意固地にならず政権に参加すべきだ、と意見したわけですよ。──これ、現実的に考えたら、確かにそうしたほうがいいよな、とは思う。次、選挙やったらヤバいかもしれないという状況なわけだから。
【D】少しでも入っておくべきだと。
【N】そう。政権に近づくべきだと。それもヒトラーは気に食わなかった。
【D】(笑)……うーん。
【N】だからこの頃から両者の関係には綻びがあった。
 それに党内においても、かつてシュトラッサーの子分であったゲッベルスが彼を目の敵にして、ヒトラーに讒言や悪口を吹き込んでいた。そしてシュトラッサー自身もまた、ヒトラー周辺の側近たちを軽蔑していたので、これには根深い派閥抗争が背後にあったわけ。
【D】はいはい。
【N】基本的にナチ党の内紛というのはヒトラーの下でのみ行われている。
【D】うん。
【N】だから、誰がフューラーであるヒトラーを取るか、という争いになることが多い。
【D】うーん。
【N】このときも、シュトラッサーはヒトラーの周りの腹心どもを排撃し、ヒトラー自身の考えを改めさせようとしていたっぽい。
【D】うん。
【N】ヒトラーが間違っていることをしているからといって、彼をどかすのではなく、その考えを改めさせるために周りをどかす、──ということを考えていたと。
 しかしそうは言っても、彼の周辺には前々から「もはやヒトラーから離れるべきではないか」という声もあった。
【D】うん。
【N】「もうシュトラッサーさんだけで独立しちゃっていいんじゃないすか」みたいな。

[TIME]----00:14:40 裏切り者への糾弾
【N】そこでこのシュライヒャーからの誘いというわけ。これは当然火種になりますよ。
【D】うん。
【N】シュライヒャーとシュトラッサーの会談はすぐにヒトラーたちの知るところとなるんだけれども、その時点で彼のアクションはない。少し期間を置き──、決定的な話し合いの場が持たれたのは2日後。場所はホテル・カイザーホーフ。ここでシュトラッサーは副首相のポストを用意されたことをヒトラーに告げるんですよ。
【D】はいはい。
【N】でも彼は、自分ではなく、やはりヒトラーが副首相になってシュライヒャー内閣に入閣すべきだと主張する。このままいくと政権なんて取れないよ? 次、解散されたらもう選挙戦戦えないよ? と。
【D】うん。
【N】組織運営の責任者で、現実主義的なシュトラッサーだから、今のナチ党の状態では単独で政権を奪取するのはほぼ無理だと分かっている。だからそういうふうに提案するんだけれど、それでもヒトラーの意見は変わらない。
【D】うーん……。
【N】それどころか、ヒトラーはシュトラッサーを裏切り者と見なし、他の党幹部たちもシュトラッサーに同調しなかった。まあ、味方がいなかったと。こうなるとシュトラッサーは追い詰められる。
【D】はいはい。

[TIME]----00:16:00 シュトラッサーの進退
【N】党から離反してシュライヒャーと組むという選択肢もあったかもしれないんだけれど、──結局、彼は12月8日、ナチ党におけるすべての役職を辞任する、という選択をした。
【D】うん。
【N】どっちも選べなかったと。党やヒトラーを切り捨てて自分だけ入閣するということもできなかったし、──ということで「私はもう何もやりません」という状態になっちゃった(笑)
【D】(笑)──はぁ……。
【N】そして、そのこと(辞任)を告げるヒトラー宛ての書簡で、これまで主張していたことを改めて繰り返すんですよね。
 曰く、ただ首相の座を要求するばかりじゃなく、副首相としてとにかく入閣し、首相への足場を固めるべきだった。なんなら8月に副首相の打診があったときに受けるべきだったよ──、と。
【D】うん。
【N】まあ、それでも説得は無理だった。なので、彼は党での立場というものをなくすんですよね。
【D】はいはい。

[TIME]----00:16:53 シュトラッサー辞任の衝撃
【N】しかし、彼の役職辞任というのは党内にすごい衝撃を与えた。彼は党組織の運営を一手に預かり、整備していった男だったので、党内に支持者も多かったのよ。というか、党の組織作りを直接的にした人で。
【D】うん。
【N】なので、その彼が一気にすべてのポストを降りるということで、周りの人たちは「どうしよう、どうしよう」となっちゃった。
【D】うん。
【N】それに、かつては急進的な闘争派だったんだけれども、この頃はむしろ穏健派として党の外からも信用を得ていたの。さっきも言ったとおり、ナチ党ではいちばん話のわかる男、という立場になりつつあったようですよ。
【D】はいはい。
【N】事実、シュライヒャーのような者たちがまず白羽の矢を立てたのが彼だったわけだから。
【D】うん。
【N】そんな党の屋台骨が、いわば分裂騒ぎの結果、役職を辞する……。ただでさえ世間的にはNSDAP──ナチ党の支持が低下しつつある中、求心力はさらに失われる可能性があった。かなりヤバイ状況だったと。
【D】うん。──で、その党での役職は辞任するけれど、副首相の地位はあるんでしょ?
【N】あ、いや、だからそれも受けないわけ。
【D】受けないってことね。
【N】そういう話をもらっただけという段階だったから。それを持ち帰って「どうだい、ヒトラーさん副首相になってくれないか」と言ったんだけれど、「いや、首相以外やんねえから」と言われて……。
【D】なるほど。
【N】むしろ「お前、なんで俺を差し置いてそういう話を進めてんの?」ということで裏切り者にされちゃったわけだ。
【D】なるほどね。
【N】「俺を通せよ!」と。
【D】じゃあ、すべてを失うね……。
【N】そう。──そういうヒトラーさんですから、彼はシュトラッサーのメッセージに対して激しい反論を、本人ではなく、他の幹部たちにまくし立てて怒りをあらわにした。基本的にこの人は怒ると大演説会になるんで……。
【D】いいね(笑)
【N】何か要求するときも大演説会になるという、骨の髄からの演説家なので……(笑)
【D】一度、味わってみたかったですね。
【N】そうね、生でね。映像はあるけれど。
【D】うん。

[TIME]----00:19:02 党の再編
【N】こうして──、ともかくシュトラッサーの穴を埋めるべく、組織指導者はヒトラーが兼任することになった。
【D】うん。
【N】シュトラッサーが作り上げた組織と制度は改組され、政治中央委員会というものが新たに設置され、これの議長にルドルフ・ヘスが就く。
【D】ルドルフ・ヘス……?
【N】ランツベルク刑務所にあとから入ってきて、ヒトラーの秘書っぽいことをしていた人。
【D】あぁ、はいはい。いましたね。
【N】彼は長らくヒトラーの個人秘書的な立場にいた男だったんだけれども、このあたりから表に出るようになる。
【D】うん。
【N】その内に総統代理──副総統になる。
【D】ふーん。
【N】そして、組織再編にあたっては、あらためてヒトラーへの忠誠を再確認するキャンペーンが展開され、綱紀を引き締めていくことになる。まあ、裏切り者が出るとこういう綱紀粛正が行われる。裏切り者とみなしているだけなんだけれど……。
【D】うん。

[TIME]----00:20:03 シュトラッサーの未来
【N】それが奏功したのか、恐れていた離反者とか造反者はほとんど出なかった。
【D】うん。
【N】グレゴーア・シュトラッサーだけが一方的に裏切り者とされたわけよ。
 シュトラッサー自身も離党はしなかったし、除名もされなかったんだけれども、その後もヒトラーからは糾弾され続け、翌年1月には政治家として身を引いた。一応、党から追放されることはなかったんだけれど、幹部ではなくなったというか……。
【D】うん。
【N】しかし、それでもヒトラーは彼を許さなかった。
 彼は文字通り、この一件で寿命を縮めます。

※1934年2月にシュトラッサーは黄金党員名誉章を贈られており、ヒトラーはシュトラッサーを復帰させ、経済相として入閣させる意思があったという説もあります。が、カーショーは「ヒトラーは裏切った者は許さなかった」と解釈しています。(カーショー『ヒトラー 上』p.426)

【D】おぉ。
【N】最も激しく対立して党を追われた弟のオットーとは、もうとっくに縁も切っていたんだけれども、結果として弟よりもよほど早く死ぬ運命にあった。
【D】なにぃ……。
【N】が、これはもう少しあとの話だね……。
【D】はい。

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