見出し画像

CAE分野への投資

CAEは製品の設計・開発を支援するシミュレーション技術です。この技術の活用には、ソフトウェアやハードウェアの費用だけではなく、人員を育成するコストも必要です。工場設備などと異なりCAEの費用対効果は明確に算出することが難しいので、投資の方針決定は高度な判断になります。しかし、役員や技術部長などの経営層はCAEに詳しいとは限りません。そのため、上層部に稟議を提出する中間管理職は、CAEへの投資全般についての情報を補足しなければならないことがあります。検討のポイントをまとめてみました。

全体的な姿勢

分野や製品によって投資効率が異なります。

積極的

技術進化が速い分野では、CAEへの積極的な投資と技術革新が不可欠です。環境負荷の低減、エネルギー効率の向上、新材料を用いた製品開発などの分野での活用が特に有効です。

消極的

既存の製品ラインやサービスで大きな改善余地がなく、短期的な収益性から見て投資対効果が低いと判断される場合には消極的な姿勢が適しています。ただし、長期的な視点で見た場合、技術革新の遅れを避けるため、CAEへの投資を極端に減らすべきではありません。

方向性

それぞれの方向にどのくらい注力するかという視点も必要です。

社内での普及

CAEを既存の設計・開発プロセスに組み込み、初期段階からのシミュレーション活用を通じて効率化と精度向上を目指します。高度なCAE技術ではなく、設計の初期段階で方向性を決定できる簡易なCAEを展開します。教育プログラムを通じた実務者のスキルアップを図ることが重要です。

特定分野の技術力向上

新規事業領域や特に革新が求められる分野に焦点を当て、そこでの技術力の向上を目指します。社内の専門家が高度なシミュレーション技術を活用して、実験では困難な現象の解明や評価技術を確立することで、競合他社を凌ぐ研究開発力の獲得を目指します。

社外への技術力アピール

CAEに基づく設計・開発能力を外部にアピールし、ビジネスチャンスの拡大を図ります。取引先へのCAE結果の提示や、業界団体・学会での研究成果の発表などが含まれます。技術優位の確保のため、社外に公開する情報と秘匿すべき情報を明確に区分することが重要です。

規模

ハードウェア・ソフトウェアのコストだけではなく、材料データ取得や精度向上のための比較実験費用や人員のスキルアップのための投資も必要です。これらを含めたCAE分野に、研究開発費用の何%を投資するかが規模の指標になります。この指標には一般的な目安というものはなく、具体的な値は業界や企業の状況によって大きく異なります。一方、人員で見たときには、設計・実験を含む研究開発人員の約20%をCAEに割り当てることが欧米では一つの目安とされているそうです。普及については簡易なCAEだけではなく、高度なCAEであっても成果が広く活用できる場合は、ノウハウの蓄積やツールの整備を進めることで取り扱いやすくして社内展開を進めることが理想的です。

持続可能性

CAEは効果が実感されるまでに時間が必要です。したがって、短期的な費用対効果にとらわれ過ぎず、長期的な視点で適切なペースと規模での推進が重要です。特に、開発工程の手戻りの減少や新製品開発への貢献などの効果を実務者が感じ取れるようにすることが大切です。性急すぎる業務改革になってしまったり、CAEを理想論や人員削減の手段と捉えられてしまうと、活用が進まず投資が無駄に終わる可能性があります。技術部門の管理職がこのような全体像を理解し、経営層と実務者を適切に動機づけることが、CAEの成功には必要だと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?