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時代遅れのCAE知識

CAEの技術は日々進化しています。一部では既に成熟した感もありますが、その発展はまだ続いています。しかし、CAEに長く関わっていると、一通りのことは理解したと錯覚しやすくなり、学習することを怠ってしまいがちです。少し話を聞いただけですぐに解った気になってしまいますが、実際に自分で試みたときに、理解が不足していることに気付かされたりします。

より大きな問題は、部下や後輩など、相対的に若い方への接し方です。少し前には不可能だったことが、現在は容易にできるようになっていることや、常識が変わっていることがあります。昔の知識を元にした不適切なダメ出しは、やる気を失わせたり、余計な仕事を増やしてしまうことにもなりかねません。

事例

事例をいくつか挙げてみます。

1.精度確認のためにメッシュを細分化すると応力が低下している。応力は必ず低い方から上昇して理論値に近づくはずだ。よって、このモデルには根本的な間違いがある。基本も知らずにこんな複雑な解析をしても無駄。やり直せ

これは大学での話です。修士課程の講義で、なんでもよいので有限要素法を使った解析を実施せよという課題がありました。学生が自身の研究テーマのモデルでレポートしたところ、教員にこのような指導をされたのです。

モデルは塑性、接触・摩擦、大変形まできちんとモデル化されていました。不十分であったメッシュを細分化すると、応力が数%低下した後は一定値に落ち着くことが示されており、工学的には十分な精度が確保できていました。理想的な線形解析では応力は低い方から理論値に近づきますが、非線形解析では高い方から近づくこともあります。線形解析の常識で判断したダメ出しだったというわけです。

この学生は、恣意的にメッシュの切り方を変え、都合の良い結果だけを使って応力が低い方から一定値に近づくようなグラフを作って単位を取りました。優秀な学生でしたが、技術を追求しても理解してもらえないと言い、文系就職しました。

2.2次要素で接触解析をするなんてあり得ない。メッシュサイズを揃えたヘキサ1次要素に変え、各節点の接触力を分担面積で割って面圧を算出しろ

製品のデザインレビューでした。担当者がCAEで得られた製品の接触面圧が許容範囲内であることを説明したところ、技術アドバイザーの肩書を持つ方からの指摘を受けました。

20年ほど前までは、2次要素では接触解析ができないというのが一般的な見解でした。今ではペナルティ法での問題は解消され、より困難とされるラグランジュ乗数法を用いても、要素面中央に節点がある2次ヘキサ要素や、ある種の2次テトラ要素では、ほぼ正確な接触面圧を算出できます。メッシュサイズを揃える必要もありません。おそらくアドバイザーの方は若いときの知識を元に、若い担当者を指導をしたのだと思います。

担当者は、かつては接触解析に2次要素が使えなかったという事実を知りませんでした。1次要素を接触表面に貼って対処していました。

3.応力拡大係数の算出には、亀裂先端から同心円状に細分化したメッシュが必要だ。円上で線積分するのだから、格子状の手抜きメッシュではダメだ

これは客先へのプレゼンテーションです。亀裂は進展しないので自社製品が安全であることを示そうとしたのですが、メッシュ図を見た客先担当者が疑問を持ったというものです。

XFEM(拡張有限要素法)を用いれば、メッシュとは無関係に亀裂の応力拡大係数を算出できます。この機能は10年ほど前から一部の商用ソフトに実装されています。もちろん、自分でメッシュを細かく切った方が絶対的な精度は向上しますが、適切に利用すればXFEMでも実用的な精度が得られます。

こちらは、XFEMについて説明できたため、客先担当者も柔軟に受け止め、問題なく解決しました。

まとめ

ダメ出しを受けることが多い若手は、自らのやっていることを説明できると面倒を回避できる可能性が高まります。そして、若手ではなくなっても、時代遅れにならないよう学習を続けることの重要性は変わりません。老害と言われないためには、最新の知識を学び、古い常識に囚われない柔軟さが必要だと思います。
自戒を込めて。

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