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シー・アド・ナインス

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連載中の小説です。父子関係のトラウマを乗り越えるため、悩み苦しみながら少しずつ成長していく直と樹の物語。ふたりそれぞれの視点で綴ります。長いお話になりそうですが、よかったら暇つぶ… もっと読む
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記事一覧

Cadd9 #35 「それがあなたなら」

ナスノさんの病室に行く前に、病院の売店でヤクルトを買った。入院してからナスノさんは急にヤ…

静馬
8か月前
9

Cadd9 #34「失くしたものを取り戻すまで」

ミナミとの電話のあと、樹はラジオを枕元に置いて小さな音量で流しながら、布団に寝転がって本…

静馬
9か月前
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Cadd9 #33 「世界より、ほんの少し優しいばかりに」

手つかずのままだった制服の採寸や教材の購入を終え、高校に入学して一週間のうちに、樹はアル…

静馬
1年前
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Cadd9 #32 「いま、俺の手の中にあるものは」

薄いカーテンが揺れている。 陽射しは真上から照りつけ、汗ばんだ肌をじりじりと焼いた。耳障…

静馬
1年前
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Cadd9 #31「どんな形を借りてもいい」

その日の夜、樹が家を訪ねてきた。 見舞いのあと、直とミナミは多川夫妻の車でそれぞれの家へ…

静馬
1年前
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Cadd9 #30 「ふれてはいけないやせ我慢」

クリスマスが過ぎ、年越しを迎え、新年の慌ただしさがようやく落ち着く頃になっても、その冬は…

静馬
1年前
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Cadd9 #29 「枯れることのない大きな木」

十一月の終わりまで、直は樹の家で過ごした。 包帯が巻かれた直の顔を見て、樹は「誰にやられた?」とまっさきにきいた。直はしばらく考え込んでから、自分だ、とこたえた。もちろん、直が自分の手で左目を傷つけたわけではないことは、樹もわかっているはずだった。むしろ、そのひとことで大体のことを悟ったはずだ。それでも樹は、自分の身体が傷つけられたような、とてもつらそうな表情を浮かべていた。 四日目に、ナスノさんが病院に付き添ってくれた。医者は包帯を外してレントゲンを撮り、左目に光を当て

Cadd9 #28 「泣きながら探したもの」

翌朝、直は大きな物音で目を覚ました。とても嫌な予感がした。目を覚ます前から、不穏な空気が…

静馬
1年前
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Cadd9 #27 「冷たい指」

その日は、夕方から雨が降りだした。 直は浴室で桶に水を溜め、布団のカバーを一心に洗ってい…

静馬
1年前
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Cadd9 #26 「自由に生きるきみを」

「いい経験したなあ。俺、なかなかいけてたんじゃないか?」 「先生が悔しがってたわよ。僕の…

静馬
1年前
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Cadd9 #25 「どれだけかけ離れた存在かなんて」

定期演奏会の当日は、市民会館の外まで行列ができていた。一番混み合う時間に来てしまったよう…

静馬
1年前
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Cadd9 #24 「きみの未来を知ってる気がする」

ある日の放課後、直は樹と並んで別館の外階段の踊り場に座っていた。夕刻ではあるがまだ空は青…

静馬
2年前
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Cadd9 #23「みんなで同じ夢を見て」

時間ぴったりに待ち合わせ場所にやってきたミナミは、上は紺色のポロシャツに、下は学校指定の…

静馬
2年前
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Cadd9 #22 「光と影のコントラスト」

夏休みになると、樹は直とテルジとテツを連れ、毎日のようにナスノ家の近くの海を訪れた。当て所なくぶらぶらと浜辺を散歩するだけの日もあれば、釣りをしたり、一日じゅう泳いで過ごすこともある。 樹とテルジはよく潜りやクロールの練習をしたが、直は一度も泳ごうとはしなかった。ふたりが泳いでいる間、直は浜辺でテツと一緒に座ってそれを眺めているか、岩場で蟹やフナムシを観察していることがほとんどだ。 直とテルジが初めて顔を合わせたとき、直はあからさまに頬をこわばらせ、大人を警戒するそぶりを