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ひとり王国 本厚木編

引越しをした。人生初の一人暮らしだ。ガスの開栓の立ち会いすらままならない。すでにポストには不在票。ヤマト運輸には再配達依頼を先ほど出したところだ。

一人で黙々と段ボールを開ける。なんとなく外に干してみた掛け布団。今日は天気が良い。

自由だ、と思った。

ひとりって寂しいものだと思っていた。でも最近気付いた。寂しいという感情は人と人との間に生まれるということ。隣の芝生を覗き見てふと感じること。


この街は誰も私を気にしない。誰も私を知らない。留学を思い出した。この感じ。風になったみたいだ。

すれ違った若者が、早く夢叶えたいなーとぼやいた。イミグランテというゲーセンのネオンが光る。花屋は閉まっている。本厚木。

来月から社会人というやつになるが、意外と一人暮らしが楽しみな自分がいることに驚く。生活を紡ぐことが意外と好きだ。洗濯、天気が良い日に外に干す布団、料理、つくりおき、明日の朝が楽しみになる味玉4つ。労働って、あれ、バイトだな。バイトのロングだ。内容は違うけど本質が同じだ。休憩も1時間。9時からってはえーって思ってたけど、まあ6時に終わるし。9時間労働だし。むしろ生活の本番は定時上がってからじゃないのか?なんて気づいてしまう。そう思うとびっくりするほどやっていける気がしてきた。とりあえず、ちゃんと朝ごはんをたべよう。

前の家に帰る小田急線は、21時の割には混んでいる。皆が喋っている。金曜日の開放感と仲良しのサラリーマン。部活終わりの学生たち。遅延した電車を待つ雰囲気は祭りの後の感じがある。田都とは雰囲気が違う。田都はすかしていてやや都会の風を感じる。二子玉川が車両を乗っ取っちゃっているのだ。


ああ、また小田急線だな。
前の前の家の時は小田急線だった。私は小田急線が嫌いだ。途中に流れる多摩川は好きだ。でもそれだけだったんだ。朝の満員電車は最悪。空気が薄くて耐えられない。あり得ないほど遅延もしやがる。開放されたくて堪らず、ついに田園都市線になったかと思えばまた小田急線に舞い戻る。
ロングタイムノーシー、小田急。また会ったな。
人間、逃れたいものからは逃れられないものである。ルーツであるとか故郷であるとか、小田急線とか他にもいろいろ。
生活を続けよう。風に乗ってスキップでもしよう。そして時には文でも書こう。

近くに花屋があって好きだ。これからよろしく頼むぜ、本厚木。私の相棒。

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