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カカオをめぐる冒険③ 2022年9月タイ・ランパーン県

2日目の訪問

9/11(日)この日も朝から雨。10時にサプライヤーと待ち合わせをしているが、しっかり作業を見れる天候ではなさそうな気がしていた。でも時間通りにトンさん夫婦が迎えにきてくれたので、出発。到着すると、やはり雨で従業員の方は来ないので作業を見ることはできないとのこと。けれどカカオがチェンマイ方面から届いていて、その様子を見せてくれた。

この日の着荷は少なめ
鉄製の大きな秤で計量
色とりどりのカカオの実

カカオは大きな袋に入っていて、袋の色やデザインの違いは農園の違いらしい。カカオは傷んだりカビの生えたものもあるので、それらを選別し、サイズごとに分けていく。そして中身を取り出して発酵の工程に進む。(今回は見学できなかったけれど、これらの工程は後日中部ペッチャブーンの企業で実際に体験させていただく)

発酵を終えたカカオ豆は高床のメッシュに並べられ、屋根付きの風通しの良い場所で乾燥される。雨季は乾燥時間も長く管理が大変だろうと思う。ほんのわずかの晴れ間をぬって従業員の方を集めて作業するのも大変そうだ。乾燥途中のカカオ豆はみんな同じ形やサイズではなくて、触れていると少ししっとり。日本にやってくる豆とはまだ少し違う感じがした。本当にたくさんの人の手を介して「カカオ」が「チョコレート」になっていくのだと実感する。

加工場を一通り見学した後、「フレッシュのカカオ食べたことある?」と言われる。そして割りたてのカカオ果肉が着いたフレッシュなカカオ豆と、果肉を絞ったジュースを出してくれた。

カカオの果汁

初めて食べた生のカカオ、果肉はあけびとライチの中間みたいな味で甘さは控えめ。とろりとした舌触りがバナナのようにも感じられた。そして果肉に覆われた豆の部分は柔らかくて少し青臭さを感じる。これが発酵や乾燥の過程を経て日本で手にするカカオ豆になるのがとても不思議に感じた。カカオパルプのジュースはスッキリとした甘さとビネガー感の喉越しが最高で、蒸し暑いこの季節にぴったりの美味しさ。日本で販売している加熱殺菌されたものと比べるとかなり味わいが違う。この美味しさを味わえるのも現地ならではの醍醐味だなと思う。

カカオの実

ちなみにここではカカオだけでなくコーヒーの加工も行っており、ロースターでダークローストとミディアムローストに焙煎していた。更にここで焙煎した豆は併設のカフェでオーダーごとに挽いて提供しているそう。私たちが話をしている間も現地の人が気軽に立ち寄って休憩していくのをよく見かけた。現地の人は単に「ダーク」か「ミディアム」を選ぶだけではなく、好みに応じてブレンドしたりしてオーダーするのだそう。私も「ダーク」と「ミディアム」をそれぞれ少しずつ分けていただいた。

そうこうしているうちにお昼になったので従業員みんなでランチをいただいた。
本日は北タイ料理のデリバリー。(タイではコロナ前から「フードパンダ」というデリバリーが有名)
ビニール袋に入って届いた料理をみんなでお皿に移す。生野菜とかもち米とか、皆思いっきり素手でつかんで盛っているのにびっくりしたが、これもタイスタイルということで受け入れることにした。元々お腹は弱いので、逆に覚悟は出来ている。ランパーンは海なし県なので、生の魚介さえ口にしなければ入院するほどの大事には至らないはず。(結局大丈夫だった)

ポリスタイル、楽そうだし日本もこれでいいと思う
どれも美味しく、そして辛い

お皿に移したら、みんなでおしゃべりしながらランチ。
どれも辛いけれど、どれも現地の人がよく食べている北タイの料理。炭火で炙った鶏や豚やチェンマイソーセージ、臓物のスープといった肉料理に、野菜も香りたっぷりのハーブやパパイヤなど、どれも素材ひとつひとつの味わいが濃く感じられ、シンプルなのにすごく元気が出てくる味付けだった。バンコクなど都心部の料理はナンプラーやソースなどの味付けが特徴的だが、北タイ料理は都心部以上に素材自体の味が際立っていると感じる。農業や畜産業が盛んな地域だからこそなのだろう。タイのビールは日本と比べるとさらっとして甘いのだが、こういうタイ料理にはとてもよく合うのだと思う。

お腹いっぱいになって、最後にコーヒーをいただきながら、「次はいつくる?」という話になった。私が知らない間に日本のインポーターとも連絡を取っていて、私の話をしてくれていたらしい。
「次はインポーターや日本人の皆が来るタイミングで一緒に来たらいいよ。紹介するから」と言ってくれた。この先に繋がる話ができて嬉しかったと同時に、この恩を必ずお返ししたいなと強く感じた。2日間一緒にいてたくさん話して一緒にご飯を食べて、お別れするのが寂しかったけれど、明日の午後は仕事のためチェンマイに移動しなければならない。長距離バスで移動すると言ったら、何時の便のどんなバスに乗るんだ?一人で大丈夫か?と心配してくれて、チェンマイまで車で送るとまで言ってくれた。既にバスチケットを取ってあったので大丈夫と伝えると、トンさんは「明日バス乗り場までは送るから」と言ってくれた。

何から何までお世話になりっぱなしで、ありがたいけれど申し訳ない気持ちになってしまったが、これがタイ人の優しさなんだなあと思う。ありがたく送ってもらうことにして、オーナーさんにもたくさんお礼をいってお別れをした。

もう一度ナイトマーケットへ

夕飯を調達するためと、せっかくなのでランパーンの街をもっと知りたいなと思い、昨日も行ったゴーンター市場にもう一度足を運んだ。今回の旅は節約のため(と仕事のリサーチも兼ね)、なるべく地元の屋台や庶民派レストランで食べ、一部を除き安宿に泊まることにしている。タイ北部で日本人に全く会わなかったのは今思うとそのせいもあるのかもしれない。

途中、タイ人観光客がたくさん集うちょっと不思議な屋台を発見。
小さな器に詰められた4色の「何か」に4種類の「何か」をかけて食べている。何なのかわからないが、伝統菓子のような感じだ。

小さな陶器にカラフルな何か
何か分からないものに何かをかけて食べる

カノムカオパンボラン?
「カノム」がお菓子を意味することは理解。カオパン⇨おにぎり(直訳するとそうなるが、米の塊みたいな?)、ボラン⇨昔の・・?
勝手に「昔ながらのお米を固めたお菓子」と解釈。実際に米のような味で、食感は日本のういろうに似ている。色は天然色素で、青はバタフライピー、緑はパンダンリーフと思われる(ピンクは不明)
上にかける4種類の「何か」は、「ごま」「フライドオニオン」「黒蜜」「くったりした刻み野菜のような甘いもの」。
他のお客さんに混じってプラスチックの椅子に座り、店のおばちゃんが教えてくれた食べ方を真似てみる。甘じょっぱくてもちっとしていて、懐かしい味がした。結局ここでしか見かけなかったのと、観光客がやけに集っていたので、ランパーン地方の名物なのではと思っている。

帰り道に別の屋台で焼き饅頭を買って、セブンイレブンに立ち寄った。日本とはラインナップが全く違うので見ていて面白い。タイは最近食用大麻が解禁になり、どこのセブンでも大麻ドリンクが売っていたり、大麻モチーフのグッズを見かけるようになった。あくまで食用可能な部分でちょっとしたブームのようになっているようだが、怖くてまだ手を出せない。
ホテルのロビーで焼き饅頭を食べた。屋台飯はあまり野菜が取れないので、明日以降のチェンマイでは食生活を少し改善したい。

最後のランパーン街散策

9/12(月)ランパーン4日目。チェンマイへの移動日。
この日の朝ごはんは一昨日も食べたお店へ。生姜たっぷりのお粥(ジョーク)にローストダックと鶏つみれを追加。タイの生姜は硬くて辛さがシャープでなんだか目が覚める。

食後は近くのコーヒーショップでオレンジコーヒーを飲んだ。タイではよく見かけるコーヒー×フレッシュフルーツの組み合わせ。目の前で絞って入れてくれるオレンジは、甘さ控えめでさっぱりしていて美味しい。

タイは個人でこだわりのコーヒーを出すお店が日本以上にたくさんある。毎日飲むには高い値段なのだろうけれど、じっくり丁寧に作られている。地元の特産であるコーヒー豆をこうして提供できるのは羨ましい気がする。
その後はコインランドリーで洗濯を回し、その間に日本の企業とミーティングしたり作業をしたり、出発までずっと仕事をしていた。日本との打ち合わせを終えた15時頃、トンさんがホテルに迎えにきてくれた。

バスでチェンマイへ

ランパーンのバスターミナル

バスターミナルでは職員の人に声をかけ、乗り場まで連れて行ってくれた。この人日本人だからちゃんとチェンマイに連れて行ってね、と話してくれているみたいだった。コロナの影響でバスの本数は減っていて乗合人数も少ないため、ワゴン車に切り替わっていた。トンさんがいなかったら気付かず乗り過ごしていたかもしれない。
またきっと近いうちに会うんだろうな、という気持ちで最後にお礼をして別れた。最後まで本当にお世話になりっぱなしの3日間だった。

チェンマイに向かう大きな道路を走るワゴンからの景色を眺めながら、いつもならこのままウトウト寝入ってしまうのだが、この3日間の緊張や興奮がまたしても押し寄せてきて眠くならなかった。

一人での初訪問。「これでよかったのかな」とか「でも行って良かったな」とか、色々考えながらずっと景色を見ていた。
街では見かけなかった大量の資材を載せた大型トラックや家畜を乗せたトラック、工事現場に向かう人々を荷台に乗せたトラックが通り過ぎていった。チェンマイが近づくにつれ段々と都会に変わっていく景色を見ながら、タイに来た私にとっては新しい出来事も、目の前にいる人にとってそれは当たり前の日常で、逆に彼らにとっては私自身の存在自体が既に非日常なんだな、と当たり前のことに気付いた。

自分の不安や緊張で気付けなかったけれど、彼らだって突然やって来た私に対して少なからず不安な気持ちがあったはずだ。それでもこうして「また近いうちに会いましょう」という約束をして別れることができたのだ。この後のタイ旅も「はじめまして」のコンタクトが続くのだが、とりあえずリラックスのマインドでやっていこうと思った。
(ランパーン編おしまい、ペッチャブーン編につづく)


ここまで読んでくださった方へ

日本の有名なチョコレートブランドやショコラティエも視察に訪れている企業であり、いつかは訪れたいと思っていた場所でした。もちろん自分のような小さなチョコレート屋が本来身一つで訪問させてもらえるような場所とは思っていません。(通常日本から農園を訪問するときは取引のある輸入商社などのツアー同行が一般的です)

元々日本でカカオ農園の訪問を決めた時は、あくまでも観光客として見学料を払って農園を見せてもらえないか交渉するつもりで、日本でGoogleマップ上の「ฟาร์มโกโก้(カカオ農園)」をタイ語でピックアップしていました。その中に偶然このサプライヤー企業をサポートしている生産指導者の方がいて、渡航前に会話を重ねる中で結果的に直接私と企業を繋げ、2日間付き添ってくれました。本当に感謝しかありません。

また雨季で仕事が落ち着いているタイミングだったのも運が良かったと思います。旅の後半では中部ペッチャブーン県に移動してもう一つのカカオ農園と企業を訪問していますが、どちらも関わったタイの方々の優しさとタイミングの良さに助けられ、信じられないくらい貴重で素敵な経験をすることができました。

それと同時に、自分はこの経験に対してお返しできる何かをまだ持ち合わせていないことを痛感しています。まずはタイのカカオ豆で美味しくて尚且つユニークなチョコレートを作り、「タイカカオのチョコレートの楽しさ」をより多くの人に体験してもらえる出店の場を更に増やしていきたいと思っています。

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