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推しを推す前につながりたい #8


○○:「くわぁ……」


カーテンの隙間が明るい。

めっっちゃよく寝たなぁ..


今日は確か土曜。お天道様が暖かい。


○○:「いい一日になりそうだぁ...」


そろそろ巷で選抜発表されるかなあと、

おもむろにスマホを開くと。


○○:「メッセージが...300件」


今もなお止まってない。

スタ爆かな…


スタ爆って死語…?


○○:「和からだ..なんだよこんな朝早くから…」




…あ。


…見なかったことにしたいです。




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桜:「もっ…
もうすぐシンデレラの公演が始まりまーす。
いかかですか〜?」


女子生徒:「あのっ…整理券とかないんですけど…
井上先輩を見たくて…」


桜:「おっ、いいよいいよ〜。
和ちゃん、すっごい可愛いから」


女子生徒:「あっ、ありがとうございます!」

桜:「うん。楽しんで〜」


うんうん、順調順調。

立見席までびっしりだ。


向こうで田村先生も、

ずっとニコニコしています。


文化祭だもん、みんな浮かれるよね。



ん、またお客さんが来たみたい。


桜:「こんにちは〜…って、○○くん」

○○:「ぜぇぇぇ…はぁ…」


髪もボサボサのまま、肩で息をする○○くん。


桜:「そっか…」


来る日も来る日も、

全力で劇と向き合ってたもんね。

そりゃ気合も入るよね…


そんな真っ直ぐな○○くんも、私は好k…



○○:「桜さんっ」

桜:「ひぇっ。はい…」


突然、彼が肩を掴んでくる。


えっ何何…!?

まだ始まったばかりだよ?


でも、これが例の文化祭マジック…!??



もぅ…○○くん、見かけによらず大胆なんだね…♡



○○:「あのさ…!」

桜:「はいぃ…」


○○:「その…」

桜:「…」




○○:「和になんて、言い訳したらいいかな」

桜:「……ん?」


あ、そうだった。



○○:「○されるかな、僕」


この人、大遅刻をかましたんだった。




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?:「ありがとうございましたー」


客:「わっ和ちゃんだ!写真いいですか?」

和:「ふぇっ?!…はいぃ」


最初の公演を終え、観客が帰っていく。


遠くから聴こえてくる絶賛の感想達。

うん、これは良い劇になった。高校生にしては。


桜:「和ちゃん、ほんとにすごかった〜」

和:「えへへ…そぉ?ありがとっ」


珍しく和が肩を組んだりしてる。

文化祭ハイか…


てかあの二人、結構仲良くなったんだな。





…と、和さんの気分も絶好調なので。

もう一度、謝りに行きます。


今度はさも遅刻などなかったかのように…



○○:「苦難を超えたシンデレラの
解像度が高かったというか…
めちゃめちゃ研究したんだなっていうのが
伝わってきたよ」


まずは自然に褒めてから…



和:「桜はこのあとどうするの?」

桜:「えっと、シフトは入ってないんだけど…」


あっ…無視ね…

目の前にいるんだけどなぁ…


桜:「えっと…○○くんが…」

和:「桜、こいつはね…
ナメてるんだよ、私のこと」

○○:「えっ…」



和:「私のことなんか、どうでもいいんだよ…
絶対」

桜:「あっ、和ちゃん」


げんなりと、教室から出ていってしまう。


これはまずい。

キレてたほうが数倍マシだ。


追わねば…


桜:「○○くん、ちょっと」

○○:「ん…?」



桜:「さっきから、あっちの扉に誰かいる」


こんなときになんだ…


ん…?


ああっ……



えっと…今日が僕の命日ですか?


…二度目の。





○○:「こちらがアル…さん」


アルノ:「アルノでいいよ」

○○:「お、おっふ…」


うっ…ぶっきらぼうな上目遣いがたまらん。



和:「…?!??」


3m先から和が無音で睨んでくる。

そういうのいいから、ってか。


○○:「で、隣がお友達の瑛紗さん」

瑛紗:「池田です」


#5でお会いしました。

なるほど、乃木女はクセ強多めなのね。


○○:「っと…色々アレですが、
せっかく来ていただいたということで」

和:「お二人はなにか気になる展示は…?」



瑛紗:「…」

アルノ:「…」


瑛紗:「アルノが決めてよ」

アルノ:「え?
瑛紗が見たいものあるっていうから」


瑛紗:「は?
先に行きたいって言い出したのどっちだっけ」


あれれ、ギスギス…

こんなとこで喧嘩しないで…


ここは和に頼るか…?




男1:「おい!そっちにクモ行ったぞ」


へっ?

…田舎のクモです。まあまあデカい。


桜:「ひぇ〜、無理無理無理!」


勢いよく、僕の背中にぴとっとくっつく。


○○:「ちょっ、桜さん…///」


何かがあたってるし…


さっきから心が落ち着かないよ…


アルノ:「ふふっ、大げさだなぁ…」


少し笑みがこぼれたアルノさん。

ほうきとちりとりを借りてくると、


アルノ:「ほいっ。ほら、怖くないから」


ウキウキでなぜか獲物を僕の方へ。


桜:「ふぇぇぇ…」


僕の肩を右へ左へ振り回す。

彼女の操り人形ですね。



瑛紗:「ちょっ、アルノ…!恥ずかしいって…」


そうそう、その可愛らしい声です、池田さん。





瑛紗:「ごめんなさい。
私達、ちょっと喧嘩してて…ほら、謝る」

アルノ:「…ごめんなさい。」


桜:「桜も邪魔しちゃって…」

瑛紗:「いえ、むしろ助かりました」


アルノ:「こんな女の子に囲まれて…
毎日楽しいねぇ、○○くん」



つんつん。


○○:「へへへ」



和:「むぅ…
あんまり○○を甘やかさないでください」

桜:「そうです。みんなの○○くんです」



瑛紗:「ふふっ。モテモテなんだねぇ。
このこのっ」



桜:「そんなんじゃないです…///」
和:「そんなんじゃないです。」





和:「というわけで、」

○○:「このあとどうする、って話ですが」


和:「私はヒロインなんで…ほぼ休めません。」


申し訳ない。

ダブルヒロインとかにするべきだったな…


瑛紗:「私は和ちゃんの勇姿を見届ける」

和:「えぇっ..ドキドキしちゃいます…」


絵が得意なてれなぎコンビ。

勝手に名付けました。


桜:「桜はね、○○くんと一緒がいい」


屈託のない笑顔。

いつになく積極的…!


和:「昨日も回ってたじゃん。」

桜:「だって5分しかなかったんだもん…」


昨日は1日目、在校生のみの文化祭。


がトラブルも多く、

演出の僕はずっと働いていた。


○○:「でも桜さん、
他の男子からも誘われてたよね」


累計20人は超えてたはずだ。



和:「ちょっと○○…こっち来て」

○○:「なんだよ…」


和:「桜は"あんたと"回りたいの。
もうわかってるでしょう?」


でも…なんの取り柄もないのよ…?


和:「ほらっ。
桜を悲しませるとかありえないんだからね、
モテ男くん」


なんだよもう…

お前はいい奴だな、和…


○○:「っと。じゃあこれで全員…」


和:「あ。アルノ……さんは?」


ん、なんだかモジモジしている。


…らしくなく落ち着きがない。

さっきまでの覇気はどこへやら。



アルノ:「えと…私も……!○○くんと…」


○○:「…!!」



ちょっと瑛紗さん、

どうして背中を叩くんですか。





アルノ:「…」

○○:「…」


客引き(?)が多く、騒がしいこの廊下。

桜さんとは、

後夜祭を回るってことで許しを得て。


推しとの文化祭デート…?が叶ったわけだが。

さっきから、廊下の端で固まっている彼女。


…どうエスコートすれば?

多分後輩の僕がエスコートってのも恐れ多い…


アルノ:「m…○○くんっ…!」

○○:「はい…」




アルノ:「あそこ…入ろ?」

○○:「え…お化け屋敷?!」


アルノ:「その…私達緊張してるから…さ?」


緊張を別の緊張でかき消そうってことか(?)



アルノ:「私が先に進むから…ね?」



お、なら頼りになるな……






アルノ:「やっぱ無理〜!○○くん先行ってぇ」


○○:「えっ、ちょ
そんなに制服引っ張らないでください」



アルノ:「ふぇぇぇん……」





…感想ですか?


意外に可愛い声を発します、アルノさん…。


アルノ:「もぅ…絶対入らない…」


子鹿のように足をガクガクさせてます。

これじゃあまるで僕が兄…?


○○:「…ちょっとどこかで休みましょうか」


うーん、縁日系だと休めないし…

1Fの飲食ブースも気になるけれど。


○○:「僕、いいとこ知ってるんで」


また端っこで、今度はしゃがみこんでいる。


アルノ:「うぅ…幽霊…キライ…」


○○:「ほら、行きますよ?」



ちょっと強引かもだけど。


このスペイベを楽しませてもらいます。





○○:「どうです?」

アルノ:「うん、風が気持ちいいかも」


校舎とテニスコートの間に、

小さい森と池があって。


運動部が走り込む放課後ならまだしも。

今は文化祭の真っ只中。

誰もいないし、ここは木陰が気持ちいい。


○○:「チュロスとたこ焼き、
どっちがいいですか」

アルノ:「極端な選択肢だね…」


○○:「ほかはもう売り切れてて」


…あなたがずうっとウジウジしてたからですよ。



アルノ:「…あつっ」

○○:「一回割ってからのほうが…あ」


アルノ:「ねぇ粉こぼしてる…なんで緑色なの?」

○○:「抹茶味で…」



アルノ:「ふふっ…変わってるね、君。ほい」


もうこれしかなかったんです…


○○:「ありがとうございます…」


彼女はすぐにティッシュをくれた。優しい。



○○:「…でもここ外だし、
そのままはたいちゃっても…」

アルノ:「あら、真面目くんの意外な一面」


真面目にもいろいろ種類があるでしょ…


○○:「…真面目にアルノさんを推してきたんで」


一周目のときから、ずっと。



アルノ:「…そういうとこ。」



うっ…


罵るときも、かわいいなぁ…(?)





って、いかんいかん。

○○:「じゃあそろそろ戻りましょうか。
楽しかったです」

アルノ:「うん…その前に、さ」


○○:「…はい」

アルノ:「ちょっといい…?」


ん…?



その瞬間、ようやく思い出した。


先日のオフ会でのことを…


アルノ:「まずはこの間、
来てくれてありがとう」

○○:「いえ…」


アルノ:「すっごい嬉しかったよ…
それまで不安だったから」


…!

急に手を握らないで…


アルノ:「それと…ごめんなさい」

○○:「…」



アルノ:「君と和ちゃんを、
危険な目に合わせちゃって」

○○:「そんな…アルノさんが一番…」


恐怖を…それこそ死を感じたかもしれないのに。



アルノ:「あれ以降、
私もちょっとおかしくなっちゃって」

○○:「はい…」


アルノ:「オフ会も…歌を歌うのも、
一旦やめることにした」

○○:「もちろん、
アルノさんの体調が一番です…」


アルノ:「あのストーカー野郎も、
まだネットに潜んでるっぽくて」

○○:「そんな…」


アルノ:「今日来るのもね…しんどかったんだ…
実は」



だんだんと小刻みに震えだす。


外に出るのも怖いだろうに…




アルノ:「…もう私、さ…



どうしたら…いいのかな…??」


○○:「…っ!」



今にも壊れてしまいそうな彼女を見て、





アルノ:「…!うぅっ…」





僕はただ、抱きしめるしかなかった。



校舎が静まり返るまで、ずっと…




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和:「本日は本当に、
ありがとうございました!!」


やった…


やりきった…!

昨日と合わせて、6公演…!


みんな、満足してもらえたかな…?



ねぇ、○○…



今日は私が、世界で一番輝いてたよね…?







お見送りまでが公演です。


和:「ありがとうございました〜」


写真撮影にも応じます。


瑛紗さんにも褒められたし…

今日まで頑張って、よかったぁ…!




??:「あ…!和?和だよね!?!」



和:「お〜







さっちゃんじゃん!」




咲月:「へへへ…お疲れ、和。久しぶりだね」




#9に続く